素つ裸太平洋を笑ひけり
作 者 | |
季 語 | 裸 |
季 節 | 夏 |
出 典 | |
前 書 | |
評 言 | 全国の高校生が俳句の力を競う「俳句甲子園」は、今年(2014年)で17回目を迎えた。念のために記すと、この大会は各校5人1組のチームで参加し、俳句の出来映えだけでなく、議論による俳句の鑑賞力を競う所が一般の俳句大会と違っている。高校生同士が俳句の解釈をめぐってディベートを繰り広げる姿は、まさに甲子園の攻防を見るようで、テレビの前に釘付けになるファンも多いことだろう。 掲句は第12回の決勝戦、松山中央高等学校対洛南高等学校の大将戦で勝利を収めた作品だが、この時の戦いの過程をざっと振り返ってみよう。 まず先鋒戦は松山の宮本悠司が「満点の星を絡めて冷素麺」の句で圧勝。次鋒戦は「空っ風素顔を保てない自分」で洛南の曾我遼が5点差で勝利。この後の中堅戦・副将戦は両校とも1勝1敗で、結局2勝2敗のまま大将戦にもつれ込んだ。 洛南の大将、仮屋賢一は「鹿の子や峙つ北山の素肌」と、地元京都の山を詠んで96点を獲得。対する松山の大将、中島強は「素つ裸太平洋を笑ひけり」の句で迎え撃って115点。しかも13人の審査員のうち、正木ゆう子と髙野ムツオは10点(鑑賞1点、作品9点)をつけた。ちなみに俳句甲子園の審査基準によると、作品点9点は〝芸術的にも技術的にも積極的評価ができ、さらに強い芸術性魅力がある〟ということになる。 こうして、中島強の渾身の一打は満塁ホームランとなり、松山中央高校を優勝に導いたのだった。 この句をテレビで見てから5年の時間が流れた。実を言えばディベートの様子や審査員の顔ぶれなど、細かいことは殆ど記憶から抜け落ちていた。ただ、ひとりの少年がチームへの責任と闘志にもがき苦しみ、最後に太平洋に向って裸のまま笑った姿が網膜に焼きついている。その光景は確かにテレビで見た気がするのだが、或いは一句が作り上げた幻影かもしれない。 本当に稀有なことだが、たった十七文字がそんな力を持つことがある。 撮影:丸山勇(フォトクラブ吉川) |
評 者 | |
備 考 |
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