日本の農業用水路
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 05:55 UTC 版)
農作物の生育に必要な水を河川、ため池などの湖沼、湧水や井戸から田畑に供給する役割を担う。長野県北信地方では、稲作には冷たすぎる雪解け水を温めるため、幅が広くて水深が浅い水路(ぬるめ)を整備している。地表に水路を開削するほか、江戸時代でもトンネル式の横井戸が掘られた地区もある(鈴鹿山脈東麓では「まんぼ」と呼ばれる)。 なお、同じ江戸時代に造られたトンネル式用水路の例としては、山梨県南都留郡富士河口湖町船津と富士吉田市新倉字出口を結ぶ新倉掘抜が知られ、これは農業用水として河口湖の湖水を船津側から富士吉田側に供給するために山の下を貫通させて約170年かけて掘られたもので、全長3.8キロメートルを測る日本最長の手掘りトンネルと言われる(富士河口湖町・富士吉田市それぞれの指定史跡)。 一般に、水田と用水路の間には樋(とい)が渡してあり、水田と用水路がつながっている。また用水路は水田とほぼ同じ高さで設けられる。用水路から離れた場所にある田については、用水路との間をつなぐ溝が掘られており、これが用水路兼排水路として使われる。 引水時は、用水路に堰板を入れるなどして水位を上げ、樋を開けて自然流入により田へ水を流し込む。その後は堰板を樋に入れ、田と水路を分断する。排水時にはまた樋を開け、高低差により排出する。これにより、別段の動力を用いることなく給排水が可能になっており、起伏に富んだ日本の地形を活かした仕組みになっている。 近代以降に改良された用水路では、堰板の代わりに水門が設けられている場合もあるが、取水・排水の仕組みは同様である。また用水路との間に高低差がある場合や、地下水を用いる場合などで、水車やポンプなどを用いて水を汲み上げる場合もあり、この場合は自然流入ではなく動力が必要になる。 なお、日本の一般的な水田においては、春から梅雨の頃に田に水を入れ、夏には一旦水を引く(これを中干しという)。水田や農業用水が河川・湖沼とつながっている場合、この時期に合わせて春に田へ入り産卵し、稚魚は田で産まれ育ち、排水とともに用水路に戻って、用水路の底で冬眠するドジョウなどの生きものが存在し、水田の生態系の一端を形成している。しかし、直線化したコンクリート護岸で形成された形式の流路では定着している魚類の個体数が少なく、多様性に欠けていることが報告されている。 日本の稲作が育む生態系については後段「#自然環境の中の用水路」を参照。
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