擬態と捕食習性に関して
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/26 03:16 UTC 版)
「ハナカマキリ」の記事における「擬態と捕食習性に関して」の解説
本種はその姿があまりにも花に似ていることから花に紛れて昆虫を狩るのだと見なされてきた。しかし実際にはそれだけの単純なものではないこともわかってきた。水野らはこの点について実際に研究を行った。彼らはたとえば幼虫が実に花によく似ているのに対して、成虫では花にやや似なくなり、にもかかわらずどちらも同じように花に紛れて獲物を狩る、というのも疑問であることをあげ、いずれにせよ、現実にこの種がどこでどのようにしてどんな獲物を狙うか、ということを現実に調べた研究がないことを指摘した。 その上で実際に彼らが現地の野外で調べたところ、彼らは雌の成虫と幼虫を観察し、両者で待ち伏せの場所も狩る獲物も全く異なることを見いだした。それによると、幼虫は花にいることはなく、すべての観察例で葉の上におり、そこで獲物を狩った。他方で雌成虫は観察例が少ないものの花での待ち伏せが多かった。また雌の獲物がハチとチョウ目にまたがっていたのに対して、幼虫では圧倒的にハチが多かった。また成虫では獲物を捕まえ損ねることが結構あって狩りの成功率が6割程度であったのに対し、幼虫の捕獲成功率は9割に達した。幼虫が捕まえるのは現地在来のハチであるトウヨウミツバチ Apis cerana cerana であった。 この幼虫がハチを誘引する方法としては、まずその外見が実に花に似ているのが原因と考えられる。これは人間の目で見てのことだけでなく、Bee-CAMによってこのカマキリは幼虫も成虫も紫外線を反射し、その点で花と共通し、紫外線を見ることのできる訪花昆虫にはカマキリと花の区別が難しいと考えられる。しかしそれだけでは幼虫が特定の種のハチのみを狩ることが説明できない。実際に観察中、ミツバチはカマキリ幼虫の幼虫の頭の真正面に回り、滞空飛行しながら足を伸ばす行動をとるのが再三見られた。つまりカマキリの頭に着地しようとした。さらに調べたところ、ハナカマキリ幼虫はその顎の周辺から3-ヒドロキシオクタン酸と10-ヒドロキシ-2-デセン酸という2つの物質が発見された。この2つの物質はトウヨウミツバチにおいて群れ内のコミュニケーションに使われ、強い誘因作用を持つことが知られている。実際にハナカマキリ幼虫がハチを狙っているとき、カマキリの頭部周辺でこれらの物質の濃度が高まることも確認されている。一方、成虫の顎からはこれらの物質は確認されなかった。 つまりハナカマキリ幼虫は花に紛れてではなく、葉の上で自分を花に見せかけることでハチの目を引き、同時にハチのフェロモンである物質を放出することでハチをおびき寄せている。いわば化学的擬態を行っていると考えられる。他方で成虫は花に紛れ、訪花昆虫を狙う。
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