当然違法と合理の原則
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/26 04:37 UTC 版)
「シャーマン法」の記事における「当然違法と合理の原則」の解説
上記のように、シャーマン法第1条は、「取引を制限する全ての契約、結合、共謀」を禁ずる規定であるが、その文言が非常に一般的で広範であるため、この規定を字義どおりに解釈すると、通常の商行為の多くがシャーマン法第1条違反となってしまう。この問題を解決するために、裁判所は早くから、ある契約等がシャーマン法違反となるかどうかを判断するにあたっては、その行為が競争に与える影響をいろいろ考慮して、それが合理的であるか、また競争に重大な悪影響を及ぼすかどうかを検討し、不合理な競争制限効果を持つ行為のみを違法とするという考え方を確立していた。これが合理の原則と呼ばれるものである。 例えば、垂直的テリトリー制限においては、その当事者であるメーカーの商品については、それぞれの販売店は自己のテリトリーにおいては独占販売ができることになり、これには明らかに競争制限効果がある。しかしこれにより制限されるのは、当該メーカーの商品についてのみの競争(「ブランド内競争」)である。一方、テリトリー制限によってそのメーカーの販売店の販売力が強くなれば、他のメーカーが製造販売する同種の商品のとの競争(「ブランド間競争」)は促進される。従って、テリトリー制限を課しているメーカーの市場支配力等も考え、ブランド内競争の制限効果とブランド間競争の促進効果を比較しながら、テリトリー制限行為の合理性を判断するという考え方になる。 一方、ある一定の行為については、その性質上、本質的に競争制限的であり不合理であるとして、それが競争に与える効果を検討するまでもなく反トラスト法違反であるという考えがある。このような類型の行為は、当然違法の行為と呼ばれる。当然違法の行為の典型的なものとしては、水平価格カルテルがある。この場合、価格カルテルの存在が認定されれば、被告側としては、例えば、「カルテル参加者の市場占有率は低いので競争制限効果はない」とか、「価格カルテルにより、価格カルテル参加者とそれ以外の者との競争が増進される」等の抗弁を主張することはできなくなる。 過去においては当然違法とされる行為は多岐にわたっていたが、最近の裁判所の考え方は、当然違法の行為を狭く解釈し、多くの行為類型について合理の原則で判断しようというのが主流となっている。垂直カルテルについては再販売価格維持が最近まで当然違法とされていたが、2007年の連邦最高裁判所の判例により、これも合理の原則で判断するものとされ、現在では垂直カルテルはすべて合理の原則で判断されることとなっている。一方、水平カルテルのほとんどは、未だに当然違法の行為とされている。
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