威信財研究の問題点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 07:59 UTC 版)
下垣仁志は、国家形成論における威信財論の可能性を認めつつも、一方で方法論的な限界や問題点がある事を指摘している。 1つ目は物質的資料の残存性である。文化人類学の研究では、威信財が繊維製品や羽毛などの有機物である例が少なくない。『魏志倭人伝』に記載された邪馬台国への下賜品も「絳地交龍錦」などの高級織物が大半を占めており、これらが威信財として機能していた可能性は高い。しかし、考古資料は残存性の高い金属器や石製品などの無機物に偏ってしまい、全ての器物の移動を復元することは困難である。また、女性や奴隷の労働力など非物質的な交換を復元することも至難である。こうした非物質的な財は、威信財の贈与に対する貢納として用いられることが多いが、実態が明らかでないため類推に頼らざるを得ず、結果として貢納・反対贈与はしばしば矮小化される。 2つ目は器物とそれを保有した人間の関係性が軽視されがちな点である。威信財論は、社会構造の発展・再生産で器物が果たした役割に焦点があてられる事が多い。そうした検証は重要であるが、その反面、あたかも器物が威信をパッキングして集団間を移動するかのように描かれる事が少なくない。しかし実際には所有者が器物の使用、あるいは保管を通して、威信を生成し価値を付与したはずである。こうした威信の生成する行為をなおざりにすると、結果として威信財の交換・移動が行われた要因を軽視することになりうる。
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