凝着摩擦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/15 01:23 UTC 版)
一つの接触点における凝着摩擦について、真実接触面積を A {\displaystyle A} 、材料のせん断強さ(凝着を壊すために必要なせん断応力の大きさ)を s {\displaystyle s} とすると、摩擦力は F 1 = A s {\displaystyle F_{1}=As} で与えられる。またアスペリティ先端が摩擦面に圧迫されて塑性変形を起こしているとすれば、材料の塑性流動圧力(塑性変形を与えるために必要な圧力の大きさ)を p m {\displaystyle p_{m}} として荷重が W = A p m {\displaystyle W=Ap_{m}} となる。この時摩擦係数は μ = F W = A s A p m = s p m {\displaystyle \mu ={\frac {F}{W}}={\frac {As}{Ap_{m}}}={\frac {s}{p_{m}}}} となる。 s {\displaystyle s} と p m {\displaystyle p_{m}} はいずれも材料の特性であって滑り速度や荷重にはよらないので、摩擦係数がアモントン=クーロンの法則にしたがうことが示される。また塑性論によれば s {\displaystyle s} と p m {\displaystyle p_{m}} はどんな物質でもおおよそ一定の関係にあり、 μ ≃ 0.2 {\displaystyle \mu \simeq 0.2} という妥当な大きさの摩擦係数が導かれる。ただしこの単純な理論は大まかな見積もりであって、現実の金属ではしばしば摩擦係数が1以上になることを説明できない。 バウデンとテーバーは、垂直荷重だけではなく滑り方向の力が加わることで凝着部が成長するという理論(修正凝着説)を展開し、清浄表面で摩擦係数が高くなりうることを説明した。それによると、滑り方向の力 F {\displaystyle F} が加わらないときの接触面積を A 0 {\displaystyle A_{0}} とすると、真実接触面積 A {\displaystyle A} は A A 0 = 1 + α ( F W ) 2 {\displaystyle {\frac {A}{A_{0}}}={\sqrt {1+\alpha \left({\frac {F}{W}}\right)^{2}}}} で表される。 α {\displaystyle \alpha } は横方向の力によって凝着部が成長することを表すパラメータで、たとえばミーゼスの降伏条件(弾性エネルギーが限界値に達したときに塑性流動が始まるとするモデル)では α = 3 {\displaystyle \alpha =3} となる。さらに、表面の清浄度を表すパラメータ k {\displaystyle k} ( 0 < k < 1 {\displaystyle 0<k<1} )を導入して s = k s m {\displaystyle s=ks_{m}} とおく。完全な清浄面のせん断強さを s m {\displaystyle s_{m}} として、界面の汚れによって実際のせん断強さ s {\displaystyle s} が減少することを表したものである。これらの前提から導かれる摩擦係数は μ = 1 α ( k − 2 − 1 ) {\displaystyle \mu ={\frac {1}{\sqrt {\alpha \left(k^{-2}-1\right)}}}} というものである。完全な清浄面( k = 1 {\displaystyle k=1} )に近づくにつれて摩擦係数は発散する(焼き付きが生じる)。 ナノスケールにおける凝着が動摩擦力を生むメカニズムは熱力学によっても説明できる。アスペリティ先端の真実接触部がもう一方の面に対して運動すると、接触部が通り過ぎた後方では新たな表面が作られ、前方では既存の表面の上に接触部が被さっていく。あらゆる表面は熱力学的な表面エネルギーを持つので、表面を作るためには仕事を与えなければならないし、表面が消失するとその分のエネルギーが熱として放出される。したがって、接触部の後方では抵抗力が、前方では摩擦熱が発生する。
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