ケイリー・ハミルトンの定理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/06 03:26 UTC 版)
線型代数学におけるケイリー・ハミルトンの定理(ケイリー・ハミルトンのていり、英: Cayley–Hamilton theorem)、またはハミルトン・ケイリーの定理とは、(実数体や複素数体などの)可換環上の正方行列は固有方程式を満たすという定理である[7]。アーサー・ケイリーとウィリアム・ローワン・ハミルトンに因む。
注釈
- ^ 四元数の乗法およびそれを用いた任意の構成(この文脈では特に行列式が顕著)には非可換性がかかわってくるから、十分に定義を検討する必要がある。分解型四元数に対するケイリー・ハミルトンの定理も(やや素性はよくないが)同様に成立する[11]。四元数の場合も分解型四元数の場合も、ある種の複素2次行列として表すことができる(ノルム 1 に制限すれば、これらの乗法の定める作用はそれぞれ特殊ユニタリ群 SU(2) および SU(1, 1) である)から、これらに対して定理が成り立つことは驚くことではない。そのような行列表現のできない八元数(八元数の乗法は非結合的であるから行列の積で表現することは不合理)でさえ、それでも修正版のケイリー・ハミルトンの定理が満足される[12]
- ^ 「天然(の)」という意味ではなく、permutation(置換)と determinant(行列式)を合成したカバン語のモジり。直訳的に合成すれば「置換式」。(テンソルの交代積に対する対称積のように、置換の符号を掛ける部分を取り除いて)行列式の反対称性を対称性で置き換えた対応物なので「対称的行列式」のように呼べるかもしれない。
- ^ これら係数の陽な表示は
l=1 l⋅kl = n − i を満たす分割 {kl ≥ 0} 全体の成す集合上を亙る - ^ 例えば(ヤコビの公式を解いている)(Brown 1994, p. 54) などを見よ:
- が導かれる(例えば Gantmacher 1960, p. 88 を見よ)。 が再帰の終端となる。あとで述べる代数的証明では、件の随伴行列 Bk ≡ Mn−k の満たす性質に依拠している。具体的には および上記の p の微分を追跡すれば を得[16]、上記の再帰手続きが順に繰り返される。
- ^ a b c d (佐武 1958, p. 137, 注意)によれば、「行列係数の多項式に関して乗法の交換の法則は一般には成立しないが、それ以外(加減乗の演算に関する限り)通常の多項式と全く同様に取り扱うことができる.また行列係数の多項式の間の等式には,それら係数行列のすべてと交換可能な行列を代入することができる.(係数行列と非可換な行列は代入することができない.)行列係数の多項式に関して整除の問題は複雑である」とある。
- ^ 行列式は行列の成分たちの積和であることを思い出そう。したがって、R 上の行列を成分に持つ行列の行列式はそれ自体が R 上の一つの行列である(係数環 R の元ではない)。つまり、区分行列の各ブロックをそれ自体一つの行列と見て、区分行列を行列の行列と考えるなら、その行列式はブロックたちの積和の形をしていなければならない。その一方、R上の区分行列の成分は(ブロックではなくその中の)係数環 R の元自体であり、したがって区分行列の行列式はそれ自身もまた R の元であって、両者の概念は一般には一致しない。
出典
- ^ a b Crilly 1998.
- ^ a b Cayley 1858, pp. 17–37.
- ^ Cayley 1889, pp. 475–496.
- ^ a b Hamilton 1864a.
- ^ a b Hamilton 1864b.
- ^ a b Hamilton 1862.
- ^ Eisenbud 1995, p. 120, Theorem 4.3 (Cayley-Hamilton).
- ^ Atiyah & MacDonald 1969.
- ^ Hamilton 1853, p. 562.
- ^ Zhang 1997.
- ^ Alagös, Oral & Yüce 2012.
- ^ Tian 2000.
- ^ a b Frobenius 1878.
- ^ Garrett 2007, p. 381.
- ^ 佐武 1958, p. 137, 注—「なお fA(A) = |AE − A| = 0 で証明終!と早合点してはいけない.」
- ^ Hou 1998.
- ^ Zeni & Rodrigues 1992.
- ^ Barut, Zeni & Laufer 1994a.
- ^ Barut, Zeni & Laufer 1994b.
- ^ Laufer 1997.
- ^ Curtright, Fairlie & Zachos 2014.
- ^ Stein, William (PDF). Algebraic Number Theory, a Computational Approach. p. 29
- ^ 斎藤正彦『線型代数演習』東京大学出版会〈基礎数学4〉、1985年3月25日、27,88頁。ISBN 978-4130620253。
- ^ a b 斎藤正彦『線型代数入門』東京大学出版会〈基礎数学1〉、1966年3月31日。ISBN 978-4130620017。
- 1 ケイリー・ハミルトンの定理とは
- 2 ケイリー・ハミルトンの定理の概要
- 3 例
- 4 短絡的な「証明」の誤りに関する注意
- 5 応用
- 6 一般の証明
- 7 抽象化・一般化
- 8 脚注
ケイリー・ハミルトンの定理
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「余因子行列」の記事における「ケイリー・ハミルトンの定理」の解説
詳細は「ケイリー・ハミルトンの定理」を参照 pA(t) を線形変換 A の固有多項式とする。ケイリー・ハミルトンの定理とは、t を A に置き換えて得られる正方行列が零行列になることをいう: p A ( A ) = O {\displaystyle p_{A}(A)=O} 定数項を分離し両辺に adj(A) を掛けることで、余因子行列は A と pA(t) の係数だけで表される。完全指数関数的ベル多項式を使うと、これらの係数はA の冪の跡の項で具体的に表せ、次のようになる: adj ( A ) = ∑ s = 0 n − 1 A s ∑ k 1 , ⋯ , k n − 1 ∏ ℓ = 1 n − 1 ( − 1 ) k ℓ + 1 ℓ k ℓ k ℓ ! tr ( A ℓ ) k ℓ {\displaystyle \operatorname {adj} (A)=\textstyle \sum \limits _{s=0}^{n-1}A^{s}\sum \limits _{k_{1},\cdots ,k_{n-1}}\prod \limits _{\ell =1}^{n-1}{\dfrac {(-1)^{k_{\ell }+1}}{\ell ^{k_{\ell }}k_{\ell }!}}\operatorname {tr} (A^{\ell })^{k_{\ell }}} ここで n は A の次数、総和 ∑ の s, 数列 kl ≥ 0 は次の 1次ディオファントス方程式を満たしながら取るものとする: s + ∑ ℓ = 1 n − 1 ℓ k ℓ = n − 1 {\displaystyle s+\textstyle \sum \limits _{\ell =1}^{n-1}\ell k_{\ell }=n-1} 特に 2次の場合は、次のようになる: adj ( A ) = I 2 ( tr A ) − A {\displaystyle \operatorname {adj} (A)=I_{2}\left(\operatorname {tr} A\right)-A} 3次の場合は adj ( A ) = 1 2 I 3 ( ( tr A ) 2 − tr A 2 ) − A ( tr A ) + A 2 {\displaystyle \operatorname {adj} (A)={\frac {1}{2}}I_{3}\left((\operatorname {tr} A)^{2}-\operatorname {tr} A^{2}\right)-A\left(\operatorname {tr} A\right)+A^{2}} 4次の場合は adj ( A ) = 1 6 I 4 ( ( tr A ) 3 − 3 tr A tr A 2 + 2 tr A 3 ) − 1 2 A ( ( tr A ) 2 − tr A 2 ) + A 2 ( tr A ) − A 3 {\displaystyle \operatorname {adj} (A)={\frac {1}{6}}I_{4}\left((\operatorname {tr} A)^{3}-3\operatorname {tr} A\operatorname {tr} A^{2}+2\operatorname {tr} A^{3}\right)-{\frac {1}{2}}A\left((\operatorname {tr} A)^{2}-\operatorname {tr} A^{2}\right)+A^{2}\left(\operatorname {tr} A\right)-A^{3}} 上記の表示式は、A の固有多項式を効率良く求めることのできる、Faddeev–LeVerrier algorithmの最後の段階からも直接導出することができる。
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