クーンの科学革命
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アメリカの科学史家トーマス・クーンの「科学革命」は、英語では綴りが小文字であり、しばしば複数形が使用されることからも察せられるように、普通名詞であり、バターフィールドの「科学革命」よりも広い意味で使用される。クーンは、1962年、『科学革命の構造』The Structure of Scientific Revolutions を著し、科学は「通常科学」と「科学革命」より構成されると主張、特定の科学者集団が奉じるパラダイム(一定の期間その集団の科学者に、問いと答えの範型を与える古典的な業績)にしたがって「通常科学」の研究がおこなわれるが、その過程で変則性が顕現するにいたって当該パラダイムに危機が生じ、ついに「科学革命」がなされて、別のパラダイムが生み出され、それと交代する事実があることを指摘した。すなわち、科学者は一定の発想、前提、枠組み、ルールなどにしたがって研究を進め、できるだけその枠内で問題解決を図る傾向にあるものの、このような試みが行きづまると、枠組み自体が疑われることになり、混乱期を経て思考の枠組みの大幅な変更が起こることになる。これをクーンは「科学革命」と称し、しばしば「パラダイムシフト」(パラダイム転換、パラダイムチェンジ)と言い換えられる。クーンによれば、こうした「科学革命」は歴史上何度も起き、また、現在も起こりつつある。クーンによれば、天動説が地動説に転換したできごとだけではなく、ニュートンの力学体系が行きづまってアルベルト・アインシュタインの相対性理論が生みだされたという事象や経緯もまた「科学革命」のひとつに数えられる。また、新旧パラダイムは根本的な前提やものの見方において大きく異なるために、共通の指標や約束事をもたず、たとえば同じ用語を用いても意味と内容が異なっていたり、相互に共約が不可能である。これを、クーンは「共約不可能性」(incommensurability )と述べた。 従来、科学はただ累積的に一方向にむけて進歩すると考えられていたが、クーンの言説は、「科学革命」によって研究の路線の方向性そのものが変化しうるものであることを提示しており、一般思想界にも強い影響を与えた。
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