イトカワから失われていく物質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 06:08 UTC 版)
「イトカワ (小惑星)」の記事における「イトカワから失われていく物質」の解説
東京大学らのグループでは、3個のイトカワ微粒子について、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンという希ガスの同位体分析を行った。まず3個の微粒子全てから、高濃度のヘリウム、ネオン、アルゴンが検出され、その同位体比は太陽風の組成とよく一致しており、これらの粒子がイトカワ表層の太陽風に直接曝される場所のものであることを示している。またクリプトン、キセノンについては検出されず、イトカワを構成するとされる普通コンドライトのLL5やLL6内に含まれるクリプトンやキセノンの量から考えると、イトカワ微粒子内のクリプトン、キセノンは検出限界以下であると考えられる。 4Heの分析からは、3つのイトカワ微粒子がそれぞれ異なる太陽風に曝された経歴を持つことが明らかとなった。これはイトカワのレゴリスは表面に現れた後も、必ずしも表面に留まり続けるわけではなく、再びレゴリス層の中に入ってしまい、その後また表面に現れるという経過を辿ってきたことが示唆される。 分析された3つのイトカワ微粒子から検出されたネオンの同位体、20Neの濃度から、各微粒子がどのくらいの期間、太陽風に曝されてきたかを推定すると、約150年から550年という値が出た。実際にはもっと長い期間太陽風に曝されていたものと推定されるが、数千年を大きく超えることはないと考えられる。 また、宇宙線起源の21Neが今回のイトカワ微粒子の希ガス同位体分析では検出されなかったことから、各微粒子はかつて宇宙線照射の影響を受けないイトカワ内部にあったものが、比較的最近になって表面に露出するようになったものと考えられる。21Ne不検出という事実から推定される各微粒子の宇宙線照射年代は数百万年以下であり、これらのことからイトカワ表面の微粒子は表面に数百万年以下という比較的短期間しか存在しなかったことが明らかとなった。これは月表面で採取された粒子が、推定数億年間表層に留まっていることに比べて極めて短期間であり、小さな重力のためにイトカワ表層の物質は惑星間空間に放出され続けていることが示唆される。計算ではイトカワは表層の物質が100万年に数十センチの割合で宇宙空間に逃げていっており、10億年以下の間に全ての物質を失ってしまうものと考えられる。
※この「イトカワから失われていく物質」の解説は、「イトカワ (小惑星)」の解説の一部です。
「イトカワから失われていく物質」を含む「イトカワ (小惑星)」の記事については、「イトカワ (小惑星)」の概要を参照ください。
- イトカワから失われていく物質のページへのリンク