「冷蔵庫マザー」理論の起源
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「冷蔵庫マザー」の記事における「「冷蔵庫マザー」理論の起源」の解説
精神分析学者のブルーノ・ベッテルハイム (Bruno Bettelheim) をはじめとする精神衛生の専門家たちは、母親が子供を冷たく突き放し、拒絶するために「適切な愛情の絆」を作れず、そのことが原因で子供が自閉症になるのだという概念を擁護した。この理論は医療機関によって積極的に採用された後、1960年代半ばに大々的に反論されるに至ったが、21世紀に入ってもなおその影響は残っている。 早くも1943年に、レオ・カナーは自閉症児の母親に温かさや愛情が欠けていると発言し、注意を呼びかけた。1949年の論文で、彼は自閉症が「生来的な母親の愛情の欠如」に関係している可能性があることを示唆した。1960年には、雑誌『タイム』のインタビューで、カナーは自閉症児の親たちを「たまたま子供を産むのに十分な温かみがあっただけ」であると露骨に表現している。「冷蔵庫マザー」理論の形成のきっかけとなったのはカナーであったが、それを1950年代から1960年代にかけて、広く社会や専門の医療機関に受け入れられるようにしたのは、シカゴ大学教授で子供の発達を専攻するブルーノ・ベッテルハイムであった。この時期に発表された多くの論文や書籍は、自閉症は母親の愛情不足によるものだと非難した。しかし、1964年までに、自閉症の息子を持つ心理学者のバーナード・リムランド(Bernard Rimland)が、自閉症の原因について確立された間違いに合理的な反駁の可能性が出てきたことを示す本を出版した。彼の著書『小児自閉症-行動神経理論に対するその症候群と暗示』 ("Infantile Autism: The syndrome and its Implications for a Neural Theory of Behavior") は、「冷蔵庫マザー」の仮説に直接挑戦するものだった。 それから間もなく、ベッテルハイムは『うつろな砦-小児自閉症と自己の起源』 ("The Empty Fortress: Infantile Autism and the Birth of the Self") を著した。その中で彼は自閉症児と強制収容所に入れられた囚人を比較し、「強制収容所の囚人たちの窮状と子供が自閉症や統合失調症につながる状態との違いは、もちろん、子供には過去に人格を十分に発達する機会がまったくなかったという点だ」と述べた。 1969年、現在の「アメリカ自閉症協会」の最初の年次大会でカナーは「冷蔵庫マザー」の問題について触れ、「私は全ての出版物で一貫して、この状態は『先天的なもの』であるとはっきり言ってきた。しかし、自閉症児の親たちの性格上の特徴について記述したためか、しばしば『全ては親のせいだ』と言っていると引用されてしまった」と述べた。カナーは親の行動が自閉症につながることを示唆する記述を自身の記事の中ではっきりと何回もしており、この発言にはいささかごまかしの感があるが、なんにせよ提唱者自身が自説を捨てたという事実は、理論の決定的な否定と解釈された。
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