TK-80
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TK-80BSとCOMPO BS/80
上述の通りTK-80は本来μCOM80プロセッサを売り込むための「お試しキット」であるため、高級言語への対応などは、まったく想定されていなかった。しかしながらホビイストからの熱狂的アプローチで、専門誌でTK-80でBASICを動かす記事が掲載されるようになり[注 7]、さらにはサードパーティからTK-80用と称した拡張機器が(NECとは関係無しに)販売されるようになると、NECも事態を静観できなくなり、ついにはメーカー公式のBASICキットを発売する運びとなった。
そのメーカー公式BASICキットは、広く一般に型番で「TK-80BS」と呼ばれ(なおメーカー内部の品名としては「μCOM Basic Station」という名称が一応はあったが、メーカー関係者の大多数も、販売店の人々も、ユーザーたちも「TK-80BS」としか呼んでおらず、雑誌記事でも通常「TK-80BS」となっていた)、内容としてはベーシック・ステーションボード、基板を接続するバックプレーン、キーボード等がセットになったものである[19]。ベーシック・ステーションボードはTK-80と重ねて実装できる基板で拡張RAM、BASICインタープリタのROM、キーボードインターフェイス、キャラクタディスプレイ用V-RAM、カセットインターフェイスを装備していた。製品自体はJMC(日本マイクロコンピューター)が受託製造していた。
BASIC ROMは初期は整数BASICであるLevel-1 BASIC(4K BASIC)であったが、1978年9月以降の出荷分は実数BASICであるLevel-2 BASIC(8K BASIC)が標準となり、Level-1 BASIC購入者にはLevel-2のBASIC ROMが無償配布された。この際、Level-1 BASICのROMは回収されなかったので、配布対象ユーザーはROMを差し替えることでLevel-1 BASICとLevel-2 BASICの両方を利用することができた。
Level-1とLevel-2のBASICには互換性が無いため、Level-2のROMを装着するとLevel-1で作ったプログラムは実行できなくなってしまい、どうしても必要な場合はプログラムを書き直すかROMを差し替える必要があった。そこでスイッチで切り替える方法が考えられた。BASICが入っているROM (μPD2332) には2つのチップセレクト端子 (CS1,CS2) がある。CS2 がhigh (5V)、CS1 がlow (0V) のときこのROMがセレクトされる。基板のパターンの特徴を生かして表にLevel-2のROM、裏にLevel-1のROM (逆も可) を装着するとすべての対応する端子を追加配線無しに並列に接続することができる。そこでCS1だけを横に曲げ、残りの端子をすべて並列に接続する。CS1の端子から引き出した配線を切り替えスイッチに接続すればLevel-1とLevel-2を切り替えられるようになる[20]。
その後、BASICマシンとして販売されたCOMPO BS/80は電源、カセットテープドライブを装備したケースにTK-80BSを収めた完成製品であるがこれにはTK-80基板は含まれていない。プロセッサユニットは、バックプレーンボード上に実装されていた。このプロセッサ基板には当然LEDディスプレイ、キーパッド、TK-80モニタープログラムなどは実装されておらず電源投入でBASICが起動するようになっていた。TK-80BSとCOMPO BS/80の大きな違いとしてはカセットテープのボーレートの違いがあり、TK-80BSは300bpsだったのがCOMPO BS/80は1200bpsにアップされた。
完成品のCOMPO BS/80とは別にケース、電源は部品としても販売されていた。部品のケースを購入し、TK-80基板とベーシック・ステーションボードを重ねてバックプレーンで接続したユニットとキーボードを内部に装着すると完成品のCOMPO BS/80と同等のものにできた。この構成ではBASIC環境を起動するためにTK-80のキーパッドを操作する必要があるが、このケースはキーパッドの上部が開閉可能なフタになっており自由にTK-80基板を操作することができた(完成品のCOMPO BS/80も同じケースを使っていたので、このフタもあった。もちろん、開けても下の基板が見えるだけである)。
日本のホビーパソコンとしては珍しく、COMPO BS/80は電源スイッチがキースイッチであった。また、キーボード右側部分に内蔵可能な専用カセットデッキは、BASICからテープの早送りや巻き戻しをコントロールすることができた。
元々COMPO BS/80は「始めから完成されたTK-80BSが欲しい」というニーズに答えて、既製のTK-80BS相当品に電源とカバーを付けただけの即席品である(売れ残ったらケースを取っ払ってキットとして発売するつもりでいた)。この頃は既に別ラインでPCX-1(PC-8001のコードネーム)の開発が進められていた。
注釈
- ^ 7万台を売ったとする文献もある[4]。
- ^ 半導体部門は2002年の分社化を経て2010年よりルネサス エレクトロニクスとして存続。
- ^ 1976年9月に電子デバイス販売事業部へ改称。
- ^ その他、命令の実行サイクル数がインテル製とは異なるなどの違いもあった
- ^ 部品を仕入れる担当者の立場では、NEC製が入手できない場合にインテル製を含む他社品で代替できないのも問題であった。これはμPD753があまり売れなかったのと同様の理由である
- ^ μPD8080AFのあとのCはプラスチックパッケージを示すサフィックスである。μPD8080AおよびAFのあとにDがあるバージョンもあり、Dは同様にセラミックパッケージを示す。他のICの末尾の文字も同様である
- ^ 例えば月刊I/O1977年12月号では、アドテックのメモリボード(ADB-001)、ディスプレイユニット(TVD-02)、キーボード(KB-02)を接続して東大版2K BASICを動かす方法が紹介されていた。
出典
- ^ a b c d 太田行生『パソコン誕生』日本電気文化センター、1983年、22頁。ISBN 4930916119。
- ^ a b 佐々木 2013, p. 8.
- ^ a b 日本電気社史編纂室『日本電気株式会社百年史』日本電気、2001年12月25日、649-661頁。
- ^ 上前淳一郎『読むクスリ』文藝春秋(文春文庫)、1987年、14頁。ISBN 4-16-724807-7。
- ^ a b c 関口, 和一『パソコン革命の旗手たち』日本経済新聞社、2000年、35-39頁。ISBN 4-532-16331-5。
- ^ a b 田中, 繁廣「ドキュメント・NECのPC戦略―市場制覇への道を切り拓いた戦士達 その決断と挑戦の歴史」『100万人の謎を解く ザ・PCの系譜』コンピュータ・ニュース社、1988年2月17日、76–89頁。ISBN 4-8061-0316-0。
- ^ 塩田紳二「国産銘機列伝:開発者インタビュー「オープンの発想はPDP-8から学んだ―TK-80開発者、後藤氏に聞く」」『ASCII』第22巻第5号、アスキー、1998年、314頁、ISSN 0386-5428。
- ^ 加藤明、「PC-8001の開発」 『電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン』 2010年 2010巻 15号 p.15_58-15_65, doi:10.1587/bplus.2010.15_5 電子情報通信学会
- ^ 「TK-80BS」『ASCII』第2巻第1号、アスキー出版、1978年、ISSN 0386-5428。
- ^ 田中, 繁廣「NECのハード開発戦略―ユーザーをとらえた「互換性と継承性の追求」優先の製品開発」『100万人の謎を解く ザ・PCの系譜』コンピュータ・ニュース社、1988年2月17日、94–105頁。ISBN 4-8061-0316-0。
- ^ 塩田, 紳二「国産銘機列伝:History「マイコンと呼ばれていた頃」」『ASCII』第22巻第5号、アスキー、1998年、312-313頁、ISSN 0386-5428。
- ^ 『μCOMシリーズ 総合ユーザーズガイド 1978 SPRING編』日本電気株式会社、1978年3月3日。IEM-517N。
- ^ 『μCOM-80トレーニング・キット TK-80E/80ユーザーズ・マニアル』
- ^ “メモリボード TK-M20K”. NEC Personal Computers, Ltd.. 2012年11月2日閲覧。
- ^ a b 太田行生『パソコン誕生』日本電気文化センター、1983年、29頁。ISBN 4930916119。
- ^ “COMPO BS/80”. NEC Personal Computers, Ltd.. 2012年11月2日閲覧。
- ^ 日本電気社史編纂室『日本電気株式会社百年史』日本電気、2001年12月25日、653頁。
- ^ “トレーニングマイクロコンピュータ TK-85”. NEC Personal Computers, Ltd.. 2012年11月2日閲覧。
- ^ “μCOMベーシックステーション TK-80BS”. NEC Personal Computers, Ltd.. 2012年11月2日閲覧。
- ^ 竹下 洋、ワンタッチLEVEL-I ↔ LEVEL-II 切り替えシステム『ラジオの製作別冊 マイコンプログラム全集1』p.12、電波新聞社、1979年
- 1 TK-80とは
- 2 TK-80の概要
- 3 概説
- 4 システムの構成
- 5 モニタプログラム
- 6 TK-80BSとCOMPO BS/80
- 7 プロセッサのトレーニングキットの当初の存在理由
- 8 脚注
固有名詞の分類
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