黒い罠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/03 04:30 UTC 版)
評価
初公開時にはアメリカ国内の批評家たちから黙殺された『黒い罠』だが、同時代のヌーヴェルヴァーグの監督たちからは彼らの信奉する作家主義の完璧な実践例として絶賛された。作品で用いられた映画技法も当時としては革新的なものであり、それらを含めて現在ではカルト映画としての地位を確立している[4]。特に映画冒頭における、爆弾を仕掛けられた車をカメラが延々と追い続ける3分20秒にも及ぶ長回しは、後続の映画製作者たちに衝撃を与えた。撮影監督のアレン・ダヴィオーは本作品を20回以上見直し、映画の撮影技術を学んだという[1]。イギリスの映画評論家ダミアン・キャノンはその綿密に計算された撮影技法を「空間の振付」と呼んで賞賛した[7]。
『黒い罠』は撮影面だけではなく、音響面でも映画製作に新機軸を齎した。ウォルター・マーチは『カンバセーション…盗聴…』製作の際に、映画終盤の盗聴シーンを参考にしたと告白している。また、既存のヒット曲を映画のBGMに使う手法は、後年『アメリカン・グラフィティ』でジョージ・ルーカスが模倣することになった[4]。
視覚的には非常に優れていると賞賛される『黒い罠』だが、物語自体はとるにたらないものだと評価する者も居る。ウェルズの研究者であるロバート・ガリスは、作品のスリラー的要素はさして面白くなく、薄っぺらで陳腐でさえあると述べた[8]。映画監督のピーター・ボグダノヴィッチは、『黒い罠』を5回か6回は観ているが筋はあまり面白くなかったので殆ど覚えていない、と友人であるオーソン・ウェルズに語った。それを聞いたウェルズは唖然としたとされる[1]。
『黒い罠』は1993年にその芸術的価値を認められ、アメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
- ^ a b c d e f g Bringing Evil To Life(『黒い罠』製作当時の状況を紹介するドキュメンタリー、ユニバーサル・ピクチャーズ版DVD収録)
- ^ a b Evil: Lost & Found(『黒い罠』修復版製作の模様を扱ったドキュメンタリー、ユニバーサル・ピクチャーズ版DVD収録)
- ^ Sean Axmaker、“The Making, Unmaking and Reclamation of “Touch of Evil””、Parallax View、2008年10月9日。(参照:2009年4月16日)
- ^ a b c d Walter Murch、“Restoring the Touch Of Genius to a Classic”、The New York Times、1998年9月6日。(参照:2009年4月16日)
- ^ BOX OFFICE MOJO、“Touch of Evil (re-issue)”(参照:2009年4月16日)
- ^ “黒い罠[吹]土曜映画劇場版”. スターチャンネル. 2021年2月22日閲覧。
- ^ a b Roger Ebert、“Great Movies – Touch of Evil”、1998年9月13日。(参照:2009年4月16日)
- ^ Robert Garis (2004). The Films of Orson Welles. Cambridge: Cambridge University Press. pp. 111. ISBN 0-521-64972-2
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