経済成長 概要

経済成長

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/13 05:45 UTC 版)

概要

名目成長と実質成長

経済規模の計測は、一般的に国内総生産 (GDP) を用いて行う。

GDPは、名目価格により計測された価値を合算した名目GDPと、基準年の価格を基に計測された価値を合算した実質GDPがある。

同じように、名目GDPの変動を名目経済成長率と呼び、実質GDPの変動を実質経済成長率とよぶ。四半期(3ヶ月)あるいは一年ごとの増加率(%)で表す。

名目経済成長率は

名目経済成長率(%) = (今年の名目GDP - 前年の名目GDP)/前年の名目GDP × 100

によって求められる。また、実質経済成長率は

実質経済成長率(%) = (今年の実質GDP - 前年の実質GDP)/前年の実質GDP × 100

となる。

GDPからは

GDPデフレーター = 今年の名目GDP/今年の実質GDP × 100

のようにして物価指数の一種が計算できる。GDPデフレーターは定義上、基準年の時点で100となる。

GDPデフレーターから物価上昇率も計算できる。

物価上昇率(%) = (今年のGDPデフレーター/前年のGDPデフレーター - 1) × 100

物価が下落した場合は物価上昇率がマイナスとなる。

上記の数式より、

(1 + 名目経済成長率/100/(1 + 実質経済成長率/100 = 1 + 物価上昇率/100

となる。

名目成長率を引き上げるためには、実質成長率を引き上げるか、インフレ率を引き上げるか、実質成長率・インフレ率の双方を引き上げる必要がある[1]

例えば、1年間でバターを10円で10個、鉄砲を20円で5個作っている経済があるとする。この年の名目GDPはバターの100円(10円×10個)と鉄砲の100円(20円×5個)を合算して200円となる。この年を基準とすれば、実質GDPも200円である。

翌年、バターの値段が上昇し12円になったとする。生産も増大し、11個になったとする。鉄砲の生産・価格が変わらないとすれば、名目GDPは232円(バター12円×11個=132円と鉄砲100円の合計)となる。一方、基準年価格で計測した実質GDPは210円(バター10円×11=110円と鉄砲100円の合計)である。

実質GDP × GDPデフレーター = 名目GDP

となり、この場合、名目GDP/実質GDPつまり232/210≒1.1047が実質GDPに対する名目GDP比、GDPデフレーターと呼ばれ、1以上であれば物価上昇・物価高(インフレーション)を意味する。

またこの場合、名目経済成長率は232-200/200×100=16(%)、実質経済成長率は210-200/200×100=5(%)、物価上昇率は(1.1047-1)×100=10.47(%)である。

実質経済成長率 + 物価上昇率 = 5 + 10.47 = 15.47 ≒ 16(%) = 名目経済成長率

となり、おおよそ 実質経済成長率 + 物価上昇率 ≒ 名目経済成長率 となる。ただしこの式は、それぞれの割合が十分に小さい場合(20%程度まで)しか成り立たない。

意義

名目と実質を分けるのは、貨幣金額によって計測された価値の増大を、価格上昇分と生産増大分に切り分けるのが目的である。

国民生活の改善や国力増大の基準として実質成長への関心のほうが高い。

例えば賃金を月15万円もらっていた人が月10万円に減らされたとする。この場合、名目成長率は

名目成長率 = ( 10 - 15 )/15 × 100 ≒ -33(%)

マイナスになるが、製品Aの値段がデフレにより10万円から6万円に値下げされたとすれば、

実質成長率 =( 10 ÷ 15 ÷ 0.6 - 1 )× 100 ≒ 11(%)

となる。これは賃金よりも物の値段のほうがより下がったため、製品Aを購入できる数が11%増えたことを意味する。実際の個数で考えると、賃金低下前は1カ月で1.5個を購入できたが、低下後は1カ月で1.67個を購入できるようになっている。このような場合は、必ずしも「去年より貧しくなった」と言えなくなる。

潜在産出量と産出量ギャップ

経済成長の源泉である労働投入の伸び、資本投入の伸び、全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)の3つの変数がある生産関数に、潜在的に活用可能な労働力資本ストックの水準を当てはめえられるものが潜在産出量であり、その伸び率が潜在成長率と呼ばれる[2]

潜在産出量と実質の国内総生産との差は産出量ギャップと呼ばれる。なお潜在産出量を構成する要因としては、資本労働などの生産要素の投入量、これらに依存しない残差としての全要素生産性があげられる。

失業が常に「インフレ非加速的失業率」(NAIRU)にあるときに達成されるGDPが「完全GDP(Perfect GDP)」である[3]。現実の失業が自然失業率の水準にあれば達成されたであろう[4]、すなわち、完全雇用が達成されたときのGDPを完全GDPという[5]

帰属計算

経済成長率を計算するもとになるGDPには原則として貨幣経済で取引された付加価値だけが計上される。そのことによる統計的な問題がGDPには存在する。たとえば以下のような差がある。

  • GDPに計上されないもの
    • 家族の内部における身内による介護
  • GDPに計上されるもの
    • 外部に委託された有料サービスによる介護
  • 帰属計算によってGDPに計上されるもの
    • 農家による自家生産物の消費

注釈

  1. ^ 価格を人為的に操作し安く固定するとその産業は成長できず経済成長が歪む。例えば家賃の高い繁華街において激安の定食を販売すると大人気となるだろうが、収益が上がらないため店舗を拡大できない。結果、店には長蛇の列が出来ることになり典型的な供給不足状態となる。社会主義諸国では末期に品不足で行列の出来る光景が散見されたが、これは柔軟な価格機構を内蔵していなかったためである。
  2. ^ これは中国経済世界経済へ開放された時点において商品の付加価値と労働力のコストに著しいアンバランスが生じていたためである。結果的に、中国の労働力コストと商品付加価値のバランスが取れるまで中国の生産量は増大を続けている。生産量の増大は、商品価格の低下と原材料価格の上昇を引き起こし、付加価値の低下をもたらす。

出典

  1. ^ 岩田規久男 『「不安」を「希望」に変える経済学』 PHP研究所、2010年、201頁。
  2. ^ 三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、38頁。
  3. ^ 野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、36頁。
  4. ^ 野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、38頁。
  5. ^ 田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、181頁。
  6. ^ 政治家と官僚の役割分担RIETI 2010年12月7日
  7. ^ 小塩隆士 『高校生のための経済学入門』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2002年、141頁。
  8. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、25頁。
  9. ^ 小峰隆夫 『ビジュアル 日本経済の基本』 日本経済新聞社・第4版〈日経文庫ビジュアル〉、2010年、16頁。
  10. ^ 原田泰 『コンパクト日本経済論(コンパクト経済学ライブラリ)』 新世社、2009年、28頁。
  11. ^ 原田泰 『コンパクト日本経済論(コンパクト経済学ライブラリ)』 新世社、2009年、12-13頁。
  12. ^ バナジー, デュフロ 2020, pp. 4032-4044/8512.
  13. ^ 小塩隆士 『高校生のための経済学入門』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2002年、106頁。
  14. ^ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、26頁。
  15. ^ 円居総一 『原発に頼らなくても日本は成長できる』 ダイヤモンド社、2011年、89-90頁。
  16. ^ 勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之 『日本経済復活 一番かんたんな方法』 光文社〈光文社新書〉、2010年、74頁。
  17. ^ 竹中平蔵 『竹中平蔵の「日本が生きる」経済学』 ぎょうせい・第2版、2001年、186-187頁。
  18. ^ a b c 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、170頁。
  19. ^ 竹中平蔵 『竹中平蔵の「日本が生きる」経済学』 ぎょうせい・第2版、2001年、197頁。
  20. ^ 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、175頁。
  21. ^ 勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之 『日本経済復活 一番かんたんな方法』 光文社〈光文社新書〉、2010年、53頁。
  22. ^ 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、171頁。
  23. ^ 小浜, 深作, 藤田 2001, pp. 142–143.
  24. ^ ロドリック 2019, pp. 1479-1687/5574.
  25. ^ 武者リサーチ2009年10月9日
  26. ^ a b 塩沢由典(2010)『関西経済論』晃洋書房、内編第1章。
  27. ^ W.A. Lewis 1954 "Economic Development with Unlimited Supplies of Labour," The Manchester School, 22(2): 139-191.
  28. ^ 南亮進[1970]『日本経済の転換点』創文社
  29. ^ 厳善平(2007)「中国経済はルイスの転換点を超えたか」
  30. ^ 松原隆一郎(2001)『「消費不況」の謎を解く』ダイヤモンド社、Hayashi, F. & E.C. Prescot 2002 "Japan in the 1990s: A Lost Decade," Review of Economic Dynamics 5: 206-235.
  31. ^ 吉川洋(2003)『構造改革と日本経済』、岩波書店。
  32. ^ 大和総研 『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』 日本実業出版社・第4版、2002年、90頁。
  33. ^ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、82頁。
  34. ^ 岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、266-267頁。
  35. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、101頁。
  36. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、102-103頁。
  37. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、104頁。
  38. ^ a b c 田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、35頁。
  39. ^ 伊藤元重 『はじめての経済学〈下〉』 日本経済新聞出版社〈日経文庫〉、2004年、25頁。






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