経済成長 経済成長の要因

経済成長

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/16 09:36 UTC 版)

経済成長の要因

経済成長の要因として、1)労働力(人口増加)、2)機械・工場などの資本ストック(蓄積)、3)技術進歩、の3つが挙げられる[7][8]。労働・資本以外の要因で成長力が高まることを「全要素生産性(TFP)が上昇する」という[9]。GDPの成長率は、技術進歩率(全要素生産性上昇率)と資本の成長率と労働の成長率に分解できる[10]

経済成長の条件として、1)私的所有権の保護、2)イノベーション、3)科学的合理主義を可能とすることへの容認、4)債権債務の制度化、5)参加の自由、6)開放性、がある[11]

2006年の世界銀行の成長開発委員会の報告書では、経済成長をする一般原則は存在しないという結論となっている。この委員会にはノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンスロバート・ソローを含む21人の専門家や300人の研究者が参加し、11の作業部会と12のワークショップなどにより2年間の検討が行われた[12]

需給

総需要が不足して売れ残りが発生しても、物価の下落で全部売り切れる、つまり経済活動は総供給で決まるという考え方を「セイの法則」という[13]三菱総合研究所は「長期の経済成長は、国全体でどれだけモノ・サービスをつくりだす能力があるかという経済全体の供給面から決まる」と指摘している[14]

現代(2011年)の経済は、供給に需要が適応するのではなく、需要に供給が適応する経済構造となっている。供給重視のアプローチは、経済の歪みを拡大させ社会的負担を増加させる。結果、経済の持続的発展を妨げる[15]

経済は、需要と供給のうち小さい方に合わせて決まるとされる(マクロ経済学のショートサイド原則)。つまり産出量ギャップがある場合、供給サイドを変えなくても経済を成長させることができる[16]

発展途上国では、生産性を高めることに多大な労力が割かれており、生産性を高めることができた国が経済成長を実現させた。しかし、経済の成熟とともに、次第に需要側が重視されるようになった。それは需要と供給を一致させる価格メカニズムが働くと考えられてきたのに対し、現実には価格が硬直的で、供給に対して需要が不足するというケースが頻繁に見られるようになったからである。つまり、生産に必要な資本設備・労働力が余り、非稼動設備・失業が発生するケースが頻発した[17]

教育

経済発展には、発展に即応できる教育を受けている人が必要である[18]。日本の場合、江戸時代から庶民レベルで識字率が高く、教育水準の高かったため経済発展したと考えられている[18]。また明治時代の学校制度の普及で義務教育によって読み書き計算ができる国民教育が充実した事と、戦後の高等教育の進学者増加で経済発展に対応できる人材が日本では輩出されたとされている[18]。1960年代の日本の高度経済成長期、日本経済は年率約10%成長したが、その内の約6割が技術進歩によるものであった[19]

貿易

自然条件が悪い場合でも、比較優位を利用し、経済発展の基盤をつくることができる[20]。実証研究で、産業間の移動が激しいほど経済が成長するという統計もある[21]。貿易は経済発展の大きな要素となる[22]

これまでに経済成長をした国の貿易は、資源国をのぞけば急速な産業化をへており、労働者は主に製造業に雇用されていた。貿易と経済成長の段階として、 (1) 伝統的な産品の輸出、(2) 第1次輸入代替(軽工業品)、(3) 第1次輸出代替(伝統的産品から軽工業品に主流が移る)、(4) 第2次輸入代替(重工業品)、(5) 第2次輸出代替(軽工業品から重工業品に主流が移る)、などがある[23]。1960年代以降の途上国の標準所得と生産高の割合は低下しており、サービス産業に比べて製造業の相対価格は低下している。製造業の雇用は減っており、過去と同様の経済成長は困難になる可能性があるため、経済成長にはサービス産業の生産性が必要ともいわれる[24]


注釈

  1. ^ 価格を人為的に操作し安く固定するとその産業は成長できず経済成長が歪む。例えば家賃の高い繁華街において激安の定食を販売すると大人気となるだろうが、収益が上がらないため店舗を拡大できない。結果、店には長蛇の列が出来ることになり典型的な供給不足状態となる。社会主義諸国では末期に品不足で行列の出来る光景が散見されたが、これは柔軟な価格機構を内蔵していなかったためである。
  2. ^ これは中国経済世界経済へ開放された時点において商品の付加価値と労働力のコストに著しいアンバランスが生じていたためである。結果的に、中国の労働力コストと商品付加価値のバランスが取れるまで中国の生産量は増大を続けている。生産量の増大は、商品価格の低下と原材料価格の上昇を引き起こし、付加価値の低下をもたらす。

出典

  1. ^ 岩田規久男 『「不安」を「希望」に変える経済学』 PHP研究所、2010年、201頁。
  2. ^ 三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、38頁。
  3. ^ 野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、36頁。
  4. ^ 野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、38頁。
  5. ^ 田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、181頁。
  6. ^ 政治家と官僚の役割分担RIETI 2010年12月7日
  7. ^ 小塩隆士 『高校生のための経済学入門』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2002年、141頁。
  8. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、25頁。
  9. ^ 小峰隆夫 『ビジュアル 日本経済の基本』 日本経済新聞社・第4版〈日経文庫ビジュアル〉、2010年、16頁。
  10. ^ 原田泰 『コンパクト日本経済論(コンパクト経済学ライブラリ)』 新世社、2009年、28頁。
  11. ^ 原田泰 『コンパクト日本経済論(コンパクト経済学ライブラリ)』 新世社、2009年、12-13頁。
  12. ^ バナジー, デュフロ 2020, pp. 4032-4044/8512.
  13. ^ 小塩隆士 『高校生のための経済学入門』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2002年、106頁。
  14. ^ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、26頁。
  15. ^ 円居総一 『原発に頼らなくても日本は成長できる』 ダイヤモンド社、2011年、89-90頁。
  16. ^ 勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之 『日本経済復活 一番かんたんな方法』 光文社〈光文社新書〉、2010年、74頁。
  17. ^ 竹中平蔵 『竹中平蔵の「日本が生きる」経済学』 ぎょうせい・第2版、2001年、186-187頁。
  18. ^ a b c 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、170頁。
  19. ^ 竹中平蔵 『竹中平蔵の「日本が生きる」経済学』 ぎょうせい・第2版、2001年、197頁。
  20. ^ 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、175頁。
  21. ^ 勝間和代・宮崎哲弥・飯田泰之 『日本経済復活 一番かんたんな方法』 光文社〈光文社新書〉、2010年、53頁。
  22. ^ 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、171頁。
  23. ^ 小浜, 深作, 藤田 2001, pp. 142–143.
  24. ^ ロドリック 2019, pp. 1479-1687/5574.
  25. ^ 武者リサーチ2009年10月9日
  26. ^ a b 塩沢由典(2010)『関西経済論』晃洋書房、内編第1章。
  27. ^ W.A. Lewis 1954 "Economic Development with Unlimited Supplies of Labour," The Manchester School, 22(2): 139-191.
  28. ^ 南亮進[1970]『日本経済の転換点』創文社
  29. ^ 厳善平(2007)「中国経済はルイスの転換点を超えたか」
  30. ^ 松原隆一郎(2001)『「消費不況」の謎を解く』ダイヤモンド社、Hayashi, F. & E.C. Prescot 2002 "Japan in the 1990s: A Lost Decade," Review of Economic Dynamics 5: 206-235.
  31. ^ 吉川洋(2003)『構造改革と日本経済』、岩波書店。
  32. ^ 大和総研 『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』 日本実業出版社・第4版、2002年、90頁。
  33. ^ 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、82頁。
  34. ^ 岩田規久男 『日本経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2005年、266-267頁。
  35. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、101頁。
  36. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、102-103頁。
  37. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、104頁。
  38. ^ a b c 田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、35頁。
  39. ^ 伊藤元重 『はじめての経済学〈下〉』 日本経済新聞出版社〈日経文庫〉、2004年、25頁。






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