この単純なモデルは、質量をもつ理想フェルミ気体や、質量を持つ理想ボース気体、質量をもたないボース気体として扱うことが可能な黒体放射などの様々な量子理想気体だけでなく、古典的な理想気体も記述することができる。黒体放射における熱化は、フォトンおよび熱平衡状態にある物体との間の相互作用により促進されると仮定される。
マクスウェル=ボルツマン統計またはボース=アインシュタイン統計またはフェルミ=ディラック統計の結果を用い、箱の大きさが無限大だとすると、トーマス=フェルミ近似によりエネルギー状態の縮退度は微分として、状態の総和は積分として表現される。
これにより気体の熱力学的な性質は分配関数やグランドカノニカル分配関数を用いて計算できる。
ここではいくつかの簡単な例を示す。
状態の縮退におけるトーマス=フェルミ近似
無限の深さを持つ3次元井戸型ポテンシャルでは、粒子に質量がある場合とない場合どちらにおいても、量子数の組[nx, ny, nz]によって粒子の状態の一覧表を作ることができる。
運動量の大きさは次のように与えられる。
![{\displaystyle p={\frac {h}{2L}}{\sqrt {n_{x}^{2}+n_{y}^{2}+n_{z}^{2}}}\qquad \qquad n_{x},n_{y},n_{z}=1,2,3,\ldots }](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/ab1377540d1f42e468a470071c68bf573eda584f)
ここでh はプランク定数、L は箱の1辺の長さである。
粒子の可能な状態それぞれは自然数の3次元格子の点として考えることができる。
原点から任意の点までの距離は、次のように書ける。
![{\displaystyle n={\sqrt {n_{x}^{2}+n_{y}^{2}+n_{z}^{2}}}={\frac {2Lp}{h}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/d9bddebea0dc7ef6018cf7bd753729ce8fe0cf1f)
それぞれの量子数の組はf 個の状態を与えるとする。
ここでf は粒子の内部自由度で、衝突によって変化する。
たとえば、スピン1/2の粒子ではf=2で、上向きと下向きそれぞれのスピン状態について1個の状態を数える。
n が大きい場合、運動量の大きさがp 以下の状態数は、近似的に
![{\displaystyle g=\left({\frac {f}{8}}\right){\frac {4}{3}}\pi n^{3}={\frac {4\pi f}{3}}\left({\frac {Lp}{h}}\right)^{3}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/b1d4bf8bee11d45b5a01f01ac8ca9cd761a3b525)
これはちょうど半径n の球の体積のf 倍を8で割ったものである。なぜなら正のni を持つ球の1/8のみを考慮したからである。
連続体近似を用いると、p からp+dp の運動量を持つ状態の数は、
![{\displaystyle dg={\frac {\pi }{2}}~fn^{2}\,dn={\frac {4\pi fV}{h^{3}}}~p^{2}\,dp}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/3b87285c3a70df5746af7b0c2806fe4e01da70bf)
ここでV=L3 は箱の体積である。
このような連続体近似を用いると、ni =1の基底状態を含む低エネルギー状態の特徴を描写できなくなることに注意しなければならない。
このことは多くの場合では問題にはならないが、ボース=アインシュタイン凝縮を考える際は、気体の大半が基底状態または基底状態付近にあり、低エネルギー状態を扱えるかどうかが重要となる。
連続体近似を用いないと、エネルギーεi の粒子の数は、次のように与えられる。
![{\displaystyle N_{i}={\frac {g_{i}}{\Phi (\epsilon _{i})}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/5bee9c7b94d1aae274c4e24c10b78e540da7e970)
ここで
, 状態iの縮退度
|
|
|
ここでβ = 1/kT , ボルツマン定数 k, 温度 T, 化学ポテンシャル μ .
|
(マクスウェル=ボルツマン統計, ボース=アインシュタイン統計, フェルミ=ディラック統計を参照)
|
連続体近似を用いると、E からE+dE のエネルギーを持つ粒子数dNEは、
![{\displaystyle dN_{E}={\frac {dg_{E}}{\Phi (E)}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/ba3eea76fedbd3a9fb40ffe553d317929e3db36f)
- ここで
はE からE+dE のエネルギーを持つ状態数である。
エネルギー分布
前項から導出された結果を用いると、箱の中の気体におけるいくつかの分布を決定できる。
粒子系において、変数
の分布
は、
から
の値をもつ粒子の割合を表す
から定義される。
![{\displaystyle P_{A}~dA={\frac {dN_{A}}{N}}={\frac {dg_{A}}{N\Phi _{A}}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/c73251b4757477af44ce87ced5b264e5df34a3be)
ここで
,
から
の値を持つ粒子数
,
から
の値を持つ状態数
,
の値を持つ状態が粒子に占有されている確率
, 全粒子数
これは次を満たす。
![{\displaystyle \int _{A}P_{A}~dA=1}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/5d7b86adbc7c554ff6b026a7bc3ba5da9220fe6f)
運動量分布
において、
から
の運動量をもつ粒子の割合は、
![{\displaystyle P_{p}~dp={\frac {Vf}{N}}~{\frac {4\pi }{h^{3}\Phi _{p}}}~p^{2}dp}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/831eef3ae621ee1d98174fa1c06122da0e8f2b98)
またエネルギー分布
において、
から
のエネルギーを持つ粒子の割合は、
![{\displaystyle P_{E}~dE=P_{p}{\frac {dp}{dE}}~dE}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/9eaef39da70de4feb7a30f80a9517e14b153e34a)
箱の中の粒子(と自由粒子)において、エネルギー
と運動量
との関係は、質量がある粒子とない粒子では異なっている。
質量のある粒子では、
![{\displaystyle E={\frac {p^{2}}{2m}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/d2091c5b2e7b36044f5a45ee3e2b1b98394a5de0)
質量のない粒子では、
![{\displaystyle E=pc\,}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/546d01928336fb18d36ed35a0a91c4c0cbe7d664)
ここで
は粒子の質量、
は光速である。これらの関係を用いると、
![{\displaystyle {\begin{alignedat}{2}dg_{E}&=\quad \ \left({\frac {Vf}{\Lambda ^{3}}}\right){\frac {2}{\sqrt {\pi }}}~\beta ^{3/2}E^{1/2}~dE\\P_{E}~dE&={\frac {1}{N}}\left({\frac {Vf}{\Lambda ^{3}}}\right){\frac {2}{\sqrt {\pi }}}~{\frac {\beta ^{3/2}E^{1/2}}{\Phi (E)}}~dE\\\end{alignedat}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/d503bbece4716f107efb916e347901128b6beb65)
ここでΛは気体の熱的波長である。
![{\displaystyle \Lambda ={\sqrt {\frac {h^{2}\beta }{2\pi m}}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/86fa5602475afdd8062c024acd85423ca5216b6a)
これは重要な量である。なぜならΛが粒子間距離
1/3のオーダーのときは、量子的な効果が支配し始め、気体はマクスウェル=ボルツマン気体とは見なせなくなるからである。
![{\displaystyle {\begin{alignedat}{2}dg_{E}&=\quad \ \left({\frac {Vf}{\Lambda ^{3}}}\right){\frac {1}{2}}~\beta ^{3}E^{2}~dE\\P_{E}~dE&={\frac {1}{N}}\left({\frac {Vf}{\Lambda ^{3}}}\right){\frac {1}{2}}~{\frac {\beta ^{3}E^{2}}{\Phi (E)}}~dE\\\end{alignedat}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/d451957991dc70f5304634dfe6945de0da6113dc)
ここでのΛは質量のない粒子の熱的波長である。
![{\displaystyle \Lambda ={\frac {ch\beta }{2\,\pi ^{1/3}}}}](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/img/dict/wkpja/https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/f629d278f768a6e2a3bee738f2c77a4cd035f31c)