日米半導体協定
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議論
この第二次日米半導体協定は日本の半導体産業の凋落に繋がったという意見もあるが、日本の企業は経営判断が遅く2年で1世代が変る半導体分野では出遅れる[37]、1980年代以降の設計(ファブレス)と製造(ファウンドリ)を分離する潮流に乗り遅れたという問題も指摘されている[5]。
またこの協定の策定に関わった米国半導体工業会の元顧問弁護士であるアラン・ウルフは、「1980年代には半導体メモリのコモディティ化が進み利益が薄くなったためインテルはこの分野での競争を止めたが、日本は韓国や台湾との価格競争を続けたため消耗した」と主張している[5]。
一方で、1995年の時点で米国産業界はこの協定を「効果がある」と評価し[38]、「第三次協定」の締結を求めている。
なお、日本製半導体に対抗するため米国官民が1987年立ち上げたSEMATECHは、CMOS中心の開発や、国が作った枠組みの中で複数の自国メーカーが共通の目標のため働くという発想など、1970年代の日本の方向性とやり方を参考にしている。この協定とSEMATECHは、いずれも米国としては成功した産業政策の思い出として覚えられる[39]。
その後
TSMC(設立年1987年)等、ファウンドリ企業の多くはこの協定の後に設立された会社が多い。
1992年以降、米国の半導体企業はインテルを筆頭に売り上げランキングの上位を占めているが、製造はアジアのファウンドリに委託し続けたため、国内のファウンドリはGlobalFoundriesなどアジア勢に技術で劣る企業しか残らず、製造をアジア勢に頼るという安全保障上の問題を抱えることとなった[5]。
さらに2020年代前半には、米国企業が先端製造で遅れ、インテルがサムスン電子やTSMCに売上高や製造能力で抜かれた[40]。
なお、中国が半導体生産能力を高める政策を出し続け成果をあげている。この対策として、日米台が半導体製造で協力する方向に動いている[5][37]。
脚注
出典
- ^ "日米半導体新協定". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年4月17日閲覧。
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- ^ Wessner, Charles; Howell, Thomas (2023-05-19) (英語). Implementing the CHIPS Act: Sematech’s Lessons for the National Semiconductor Technology Center .
- ^ 日経クロステック(xTECH) (2021年12月27日). “サムスン絶好調、半導体でIntel超え ファウンドリーでTSMC追撃”. 日経クロステック(xTECH). 2023年9月28日閲覧。
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