市場の失敗 政府の役割

市場の失敗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/04 04:50 UTC 版)

政府の役割

政府の役割の一つは、市場メカニズムが働かない分野、つまり市場の失敗を是正することである[17]。政府は、市場の失敗を補うために公共財を供給したり、独占企業を規制したりし、市場の失敗に対応する[18]。またもう一つの役割として富の再分配がある[19]

政府は、麻薬の取り締まりや[20]、国防・警察・義務教育・国立病院などの公共サービスの提供・拡充を行う[21]。警察・検察・司法制度は自発的な交換ルールを破ったものに対してペナルティを科すための制度であり[22]、医師の資格免許制度は不適切な医療行為から患者を守るための制度であり[22]、弁護士・税理士・会計士の国家資格制度は情報の非対称性を原因とする被害から人々を守る制度であり[23]、銀行業の開業に対する許可制度は人々の預金の安全性を維持するための制度である[23]

政府は、外部経済がある場合は、そのような社会によい影響を与える活動をより増やそうとし、一方で外部不経済がある場合は、そのような社会に悪い影響を与える活動を制限しようとする[24]。外部経済に対しては、公園・都市計画をつくったり、補助金をつけたりするなどの手段を用い、外部不経済に対しては、規制を設けて禁止したり、徴税を行うなどの手段を用いて、外部経済を増やし外部不経済を減らすように努める[24]。独占企業によって自由な競争が阻害される場合(価格の吊り上げなど)、独占を禁止したり(独占禁止法)、価格の制限を行う[17]

経済学者の竹中平蔵は「民間企業の活動は市場ルールに基づいて行われるべきであるが、市場ルールの違反を取り締まるのは政府の役割である」と指摘している[25]

経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは「政府と市場は相互で補いあう同士である。市場に任せっきりにせずバランスをとるべきである」と指摘している[26]

経済学者の田中秀臣は「政府自身が必ずしも『完全な情報』を所有しているとは限らない」と指摘している[27]

竹中は「ミルトン・フリードマンは市場が失敗することもありうるが、政府も失敗する。市場の失敗は、不景気やインフレをもたらす程度で済むが、政府の失敗ははるかに大きな犠牲をもたらすと主張している」と指摘している[28]

八田達夫は「政府の失敗がある場合にも、政府は介入する必要がある」と指摘している[3]


  1. ^ 野口旭 『ゼロからわかる経済の基礎』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、156-157頁。
  2. ^ 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、112頁。佐瀬
  3. ^ a b c d e 政治家と官僚の役割分担RIETI 2010年12月7日
  4. ^ 飯田泰之 『世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ! 日頃の疑問からデフレまで』 エンターブレイン、2010年、113頁。
  5. ^ a b 伊藤元重 『はじめての経済学〈上〉』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、145頁。
  6. ^ a b 田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、147頁。
  7. ^ 伊藤元重 『はじめての経済学〈上〉』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、148頁。
  8. ^ a b 伊藤元重 『はじめての経済学〈下〉』 日本経済新聞社〈日経文庫〉、2004年、17頁。
  9. ^ a b c 三菱総合研究所編 『最新キーワードでわかる!日本経済入門』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2008年、81頁。
  10. ^ 西部邁『虚無の構造』中央公論新社〈中公文庫〉、2013年、144頁。 
  11. ^ 西部邁『虚無の構造』中央公論新社〈中公文庫〉、2013年、204頁。 
  12. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、65頁。
  13. ^ 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、175頁。
  14. ^ ノーベル賞経済学者 ゲーリー・ベッカー自殺の経済学を手がけた真意市場万能論が看過する社会を動かす“生身の人間”の行動 2007年2月10日号掲載ダイヤモンド・オンライン 2010年2月2日
  15. ^ 岩田規久男 『スッキリ!日本経済入門-現代社会を読み解く15の法則』 日本経済新聞社、2003年、41頁。
  16. ^ 大竹文雄 『競争と公平感-市場経済の本当のメリット』 中央公論新社〈中公新書〉、2010年、67頁。
  17. ^ a b 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、184頁。
  18. ^ 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、185頁。
  19. ^ 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、186頁。
  20. ^ 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、180頁。
  21. ^ 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、181頁。
  22. ^ a b 岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、136頁。
  23. ^ a b 岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、136頁。
  24. ^ a b 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、183頁。
  25. ^ 竹中平蔵 『あしたの経済学』 幻冬舎、2003年、132頁。
  26. ^ 中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、210頁。
  27. ^ 田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、201頁。
  28. ^ 竹中平蔵 『経済古典は役に立つ』 光文社〈光文社新書〉、2010年、184頁。


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