ライチョウ 人間との関係

ライチョウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/01 16:53 UTC 版)

人間との関係

スキー場建設などの観光開発や家畜の放牧などによる生息地の破壊、狩猟、送電線による衝突死、人間による攪乱などにより、生息数は減少している[1]。アルプスでは気候変動、北極圏では温暖化による低木林の増加による影響が懸念されている[1]。一方で2016年の時点では分布が非常に広く生息数も非常に多いと考えられているため、種として絶滅のおそれは低いと考えられている[1]

ヨーロッパのいくつかの国、中国、日本でレッドリストの指定を受けていて、その他の地域では狩猟対象となっているところがある[5]スウェーデンでは、1978-1980年に年間11,700羽ほどのライチョウが捕獲されている[7]アイスランドでは、狩猟による生息数への影響調査が行われている[5]

日本

富山県長野県岐阜県の県鳥に指定されている[11][8]

イヌワシなど猛禽類天敵を避けるため朝夕のほかにの鳴るような空模様で活発に活動することが名前の由来と言われているが[21]、実際のところははっきりしていない。古くは「らいの鳥」と呼ばれており江戸時代より難、雷難よけの信仰があったが[22]、「らい」がはじめから「雷」を指していたかは不明である[23][24]。ヨーロッパや北アメリカでライチョウ類は重要な狩猟対象の鳥として古くから利用されていて、信仰の対象として崇められていた日本とは対照的である[24]。狩猟文化があるイギリス人のウォルター・ウェストンが日本に長期滞在した際の1894年(明治27年)8月8日に常念岳周辺でライチョウの狩猟を行っていた[7]

文献上では1200年の歌集『夫木和歌抄』で後白河法皇が、「しら山の 松の木陰に かくろひて やすらにすめる らいの鳥かな」と詠んだのが初出とされる[11]。江戸時代初期に中国のから渡来した高泉性潡が『鶆(らい)』を著した名称も用いらるようになった[25]。1711年(正徳元年)に加賀藩がライチョウを見た白山と立山の登拝者から調査した調査では、「らいの鳥」が用いられ、1720年(享保5年)の調査では「らいの鳥」と「雷鳥」の両方が用いられていた[25]。江戸時代には立山、白山、御嶽山にライチョウが生息していることが、登拝者により広く知られていて、江戸時代後期に牧野貞幹が『野鳥写生図』でライチョウのオスとメスを写生し「鶆鳥」と表記し、毛利梅園が『毛利禽譜』で白山のライチョウのオスと雛を写生し「雷鳥」と表記している[22]。1779年(安永8年)に葛山源吾兵衛の『木の下陰』などにあるように長野県の諏訪地域上伊那地域では「岩鳥」と呼ばれていて、1834年(天保5年)の『信濃奇勝録』の乗鞍岳のものには「がんてう」の振り仮名が付けられていた[23]。1813年(文化10年)の小原文英による『白山紀行』の写生図では「雷鳥」と「鶆鳥」の両方を記している[23]。地方名では富山県で「閑古鳥」、木曽の御嶽山で「御鳥」などの記録がある[23]

1916-1918年(大正5-7年)の百科事典『広文庫』で「雷鳥に鶆に作るは誤、本邦の神鳥にして支那になし」と記載され、「雷鳥(ライチョウ)」の名称が一般的となった[23]

ライチョウ(冬毛・雌)
南アルプス小河内岳にて

日本のライチョウは江戸時代までは信仰の対象として保護されていたが、明治時代に一時乱獲され、以後の以下年表の法律で保護され現在に至っている[26]

  • 古代山岳信仰 - 江戸時代よりずっと以前から山岳信仰登拝者に知られ、神秘性を帯びた「神の使者」の鳥とされていた[27]
  • 江戸時代 - 明治以前は、宗教的な殺生禁断の戒律により人により捕獲されることは少なかったと考えられている[27]
  • 明治時代 - 西洋思想の流入と、狩猟具の発達に伴い狩猟が行われていた。
  • 1895年(明治28年)3月27日 - 狩猟法施行細則により、雷鳥および松鶏の狩猟停止期間が4月16日から8月14日までと定められた[28]
  • 1901年(明治34年) - 狩猟法が改定されその狩猟停止期間が4月16日から10月14日までと定められた。
  • 1910年(明治43年) - ライチョウが、狩猟法の保護鳥に指定されて、捕獲禁止となった。
  • 1923年(大正12年) - ライチョウが、史蹟名勝天然紀念物保存法により天然記念物に指定された[29]
  • 1969年(昭和44年)3月31日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律により、白山周辺の山域が白山鳥獣保護区に指定された[30]
  • 1972年(昭和47年)11月30日 - ニホンライチヨウが、特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律により特殊鳥類に指定された[31]
  • 1984年(昭和59年)11月1日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律により、北アルプス鳥獣保護区が拡大され、北アルプスの主要な山域が指定された[32]
  • 1999年(平成11年)9月15日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律により、保護繁殖を特に図る必要がある鳥獣に指定される[33]
  • 2003年(平成15年)4月15日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律を全部改正した鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律により、希少鳥獣に指定される[34]
  • 2012年(平成24年)9月18日 - 中央環境審議会野生生物部会において、「ライチョウの保護増殖事業計画の策定について」答申がなされた[35]

地球温暖化、低地からのアカギツネテンハシブトガラスチョウゲンボウなどの捕食者の侵入および増加、低地からのイノシシニホンジカニホンザルなどの侵入および植生の破壊などにより生息数は減少している[10][11]。1980年代に行われた縄張りの垂直分布調査から、「年平均気温が3℃上昇した場合、日本のライチョウは絶滅する可能性が高い」ことが指摘されている[11]木曽駒ヶ岳ではロープウェイの設置による登山客の増加に伴い、残飯を求めて捕食者のテンやキツネ・ハシブトガラスなどが侵入したため、1965年頃までは確認されていたものの絶滅したとされる[11]。2018年7月に木曾駒ヶ岳で登山者による撮影例があり、8月に調査が行われ卵と巣が発見された[36]。採取された羽毛の遺伝子解析から乗鞍岳から飛来した個体と考えられ、2018年11月にも複数の撮影例があることから2017年から2018年にかけて少なくともメス1羽が定着していたと考えられている[36]。白山では1930年代に絶滅したと考えられていたが、2009年5月に撮影例があり同年6月の調査でもメス1羽が確認された(2011年の時点で、2010年にも確認例がある)[37]。2011年に発表された2009年に白山で発見された個体と1936年に採取された白山産の剥製標本のミトコンドリアDNA制御領域の分子系統解析では、いずれも飛騨山脈や乗鞍岳・御岳山でみられるハプロタイプに含まれるという解析結果が得られており、2009年に発見された個体はこれらの地域から飛来してきたと考えられている[38]

1955年に、国の特別天然記念物に指定されている[11]1993年国内希少野生動植物種に指定され、卵も含め捕獲・譲渡などが原則禁止されている[39]。 1960年に白馬岳で捕獲した個体(オス1羽、メス2羽、ヒナ4羽の計7羽)を富士山へ移し、1966年に9羽が確認されて繁殖にも成功したが、1970年以降の目撃情報はなく定着しなかった[11]。2015 - 2016年に乗鞍岳で22個の卵が採取され、人工孵化させる試みが進められた[39]。梅雨時の悪天候や捕食者による雛の死亡率が高いため、孵化直後の雛を母親と一緒にケージで保護し飛翔できるようになったら放鳥するという試みが進められている[10]。日本での1961 - 1985年における繁殖期の縄張りから推定した生息数は、2,953羽とされる[11]。2000年代に同様の調査から推定した生息数は、約1,700羽とされる[10]。富山県の立山の生息地で立山黒部アルペンルートの開発前後で生息数が約250羽から約150羽(1983年)に減少したと調査報告されている[40]

2019年の時点でいしかわ動物園大町山岳博物館恩賜上野動物園富山市ファミリーパーク那須どうぶつ王国の5施設で、29羽(オス18、メス11羽)が飼育されている[39]

  • 1963年(昭和38年) - 生態研究のため、長野県大町市の大町山岳博物館が飼育研究を開始した。
  • 1966年(昭和41年) - 富山県も飼育研究を開始した。
  • 1967年(昭和42年)7月 - 南アルプス北岳から山梨県金峰山に5羽が移植されたが、定着しなかった。定着しなかった理由として、隠れ家や営巣場所となるハイマツ帯の面積が小さかったことや、山体の形成年代が新しく餌となる高山植物が十分に無かったため、とされている。
  • 1969年(昭和44年) - 山梨県も飼育研究を開始した。しかし各県の飼育は、寄生虫や家禽類起源の感染症、サルモネラ菌、トリアデノウイルス、緑膿菌[41]などにより死滅する例が多く、安定した増殖には繋がっていない。
  • 2008年(平成20年)12月5日 - ノルウェースバールバル諸島産の大型亜種スバールバルライチョウが、上野動物園で公開されており、そこで生まれた個体が長野市茶臼山動物園や富山市ファミリーパーク[9]でも公開されている。

富山市ファミリーパークでは、募金によりライチョウの飼育・繁殖技術の確立と野生復帰を目指す「ライチョウ基金」を設立している[42]

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[10]
  • 絶滅 - 石川県
  • 絶滅危惧IA類 - 山梨県
  • 絶滅危惧I類 - 新潟県[43]、富山県、岐阜県[44]
  • 絶滅危惧II類 - 長野県、静岡県

  1. ^ a b c d e f BirdLife International. 2016. Lagopus muta (errata version published in 2017). The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T22679464A113623562. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T22679464A89358137.en. Downloaded on 01 August 2020..
  2. ^ a b c d Pheasants, partridges, francolins, Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2020. IOC World Bird List (v10.2). https://doi.org/10.14344/IOC.ML.10.2. (Downloaded 01 August 2020.)
  3. ^ a b c d 日本鳥学会「ライチョウ」『日本鳥類目録 改訂第7版』日本鳥学会(目録編集委員会)編、日本鳥学会、2012年、1-2頁
  4. ^ a b c d 黒田長久・橋崎文隆 「ライチョウ亜科の分類」『世界の動物 分類と飼育10-I (キジ目)』黒田長久・森岡弘之監修、東京動物園協会、1987年、45-55頁。
  5. ^ a b c Lagopus mutus Montin, 1776” (英語). GSG. 2012年7月28日閲覧。[リンク切れ]
  6. ^ a b c ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、184-185頁
  7. ^ a b c ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、163頁
  8. ^ a b c 『ひと目でわかる野鳥』中川雄三(監修)、成美堂出版、2010年1月、136頁。ISBN 978-4415305325
  9. ^ a b スバールバルライチョウ”. 富山市ファミリーパーク. 2012年7月28日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g 中村浩志 「ライチョウ」『レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 2 鳥類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい、2014年、100-101頁。
  11. ^ a b c d e f g h i j k 中村浩志 「ライチョウLagopus mutus japonicus」『日本鳥学会誌』第56巻 2号、日本鳥学会、2007年、93-114頁。
  12. ^ 市川美織、ライチョウは「鳴き声がカエル」 至近距離で見ても逃げない性格に関心”. oricon. 2020年3月5日閲覧。[出典無効][リンク切れ]
  13. ^ a b c 中村浩志『日本動物大百科 鳥類II』日高敏隆(監修)、平凡社、1997年3月、10-11頁。ISBN 4582545548
  14. ^ 「ライチョウ 来年度ふ化試験/木曽駒ケ岳で生息確認/絶滅危惧種 野生復帰目指す」毎日新聞』朝刊2019年1月11日(総合・社会面)2019年1月24日閲覧。[出典無効]
  15. ^ a b 羽田健三、「山岳地帯の環境破壊による鳥類の分布と生態の変化について : 特にライチョウを中心として」 日本生態学会誌 1974年 24巻 4号 p.261-264 , NAID 110001881510, doi:10.18960/seitai.24.4_261
  16. ^ 雷鳥が語りかけるもの (2006)、19-21頁
  17. ^ ニホンライチョウの遺伝的多様性と分化 日本鳥類学会 (PDF)
  18. ^ 馬場芳之、藤巻裕蔵、吉井亮一 ほか、「ニホンライチョウ(Lagopus mutus japonicus)におけるミトコンドリアDNAコントロール領域の遺伝変異性」 日本鳥学会誌 2001年 50巻 2号 p.53-64,107, doi:10.3838/jjo.50.53
  19. ^ ニホンザル、ライチョウ捕食の瞬間 研究者が初めて確認 朝日新聞デジタル 記事:2015年8月31日、閲覧:2015年9月1日[出典無効]
  20. ^ 雷鳥が語りかけるもの (2006)、31頁
  21. ^ ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、161頁
  22. ^ a b 雷鳥が語りかけるもの (2006)、101-102頁
  23. ^ a b c d e ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、159頁
  24. ^ a b ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、162頁
  25. ^ a b ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、157頁
  26. ^ 雷鳥が語りかけるもの (2006)、104-105頁
  27. ^ a b ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、6-7頁
  28. ^ 1895年(明治28年)3月27日農商務省令第4号「狩猟法施行細則」
  29. ^ 1923年(大正12年)3月7日内務省告示第57号「史蹟名勝天然記念物保存ニ依リ指定」
  30. ^ 1969年(昭和44年)3月26日農林省告示第357号「鳥獣保護区を設定した件」
  31. ^ 1972年(昭和47年)11月27日総理府令第71号「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律施行規則」
  32. ^ 1984年(昭和59年)10月23日環境庁告示第64号「鳥獣保護区を設定する件」
  33. ^ 1999年(平成11年)9月14日環境庁告示第43号「保護繁殖を特に図る必要がある鳥獣を定める件」
  34. ^ 2002年(平成14年)12月26日環境省令第28号「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則」
  35. ^ 「ライチョウ保護増殖事業計画の策定について」及び「国指定鳥獣保護区及び特別保護地区の指定について」に関する中央環境審議会答申について(お知らせ)”. 環境省 (2012年9月18日). 2012年12月28日閲覧。
  36. ^ a b 中央アルプス木曽駒ヶ岳のライチョウの生存確認について環境省・2020年8月1日に利用)
  37. ^ 上馬康生・佐川貴久・白井伸和・中村浩志・宮野典夫 「2009・2010年に白山で観察された雌ライチョウの行動,食性および営巣場所」『石川県白山自然保護センター研究報告』第37集、2011年、41-47頁。
  38. ^ 中谷内修・上馬康生 「白山で発見されたライチョウの遺伝子分析」『石川県白山自然保護センター研究報告』第37集、2011年、49-55頁。
  39. ^ a b c 国内希少野生動植物種一覧ニホンライチョウの公開展示について環境省・2020年8月1日に利用)
  40. ^ ライチョウ・生活と飼育への挑戦 (1992)、7頁
  41. ^ 佐藤良彦、太田俊明、平澤博一 ほか、肉芽腫病変を伴った日本ライチョウの緑膿菌感染症例 日本獣医師会雑誌 Vol.39 (1986) No.8 P.516-519, doi:10.12935/jvma1951.39.516
  42. ^ 「ライチョウ基金」について富山市ファミリーパーク(2018年2月2日閲覧)
  43. ^ レッドデータブックにいがた (PDF)”. 新潟県. pp. 44 (2001年3月). 2012年7月28日閲覧。[リンク切れ]
  44. ^ 岐阜県レッドデータブック(ライチョウ)”. 岐阜県 (2009年8月). 2012年7月28日閲覧。[リンク切れ]
  45. ^ 12TH INTERNATIONAL GROUSE SYMPOSIUM(第12回国際ライチョウシンポジウム) (PDF)” (英語). The Conference Committee of the IGS2012. 2012年7月28日閲覧。[リンク切れ]
  46. ^ a b 雷鳥が語りかけるもの (2006)、173頁





ライチョウと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ライチョウ」の関連用語

1
100% |||||

2
100% |||||

3
100% |||||

4
100% |||||

5
100% |||||

6
100% |||||

7
100% |||||


9
94% |||||

10
94% |||||

ライチョウのお隣キーワード

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   
検索ランキング



ライチョウのページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのライチョウ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2020 Weblio RSS