ユークリッド (宇宙望遠鏡)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/03 11:59 UTC 版)
科学目標と観測手法
ユークリッドは、赤方偏移が2までの多数の銀河を観測することにより、宇宙の膨張と宇宙構造の形成の歴史を精査する。これは、過去100億年の歴史を振り返ることに相当する[9]。銀河の形状とその銀河の赤方偏移の間の関係は、ダークエネルギーが宇宙の加速の増加にどのように寄与するかを知るのに役立つ。実際の観測は、分光法によって銀河までの距離を測定すること、重力レンズ効果による銀河形状のゆがみからダークマターの分布を知ること、バリオン音響振動の測定によって宇宙膨張の詳細なスケールを明らかにすることからなる。
重力レンズは、一般相対性理論によって導かれる現象で、物質が存在することによって時空が局所的にゆがむことで、その物質の近くを通過する光の進路が曲げられる。銀河から放出される光(観測された画像)は、銀河から観測者に至る視線に沿って分布する物質の近くを通過することでゆがめられることになる。光をゆがめる物質の一部は別の銀河や銀河間物質などのバリオンであるが、大部分はダークマターである。分光観測で測定した銀河の赤方偏移と、撮影された銀河の形状のゆがみを統計処理することで、視線上に存在するダークマターの分布を推測することができる。こうすることで、ダークマターと銀河の分布に関する統計的特性を同時に測定し、宇宙の進化によってこれらの特性がどのように変化してきたかを測定することができる。
宇宙機
ユークリッドは、2007年3月に発出されたESAコズミックビジョン 2015-2025提案募集に対して提案された2つの計画(DUNE: Dark Universe ExplorerとSPACE: Spectroscopic All-Sky Cosmic Explorer)を融合することで生まれた。この2つの計画は、宇宙の形状を測定するための補完的な観測を目指すものであったため、評価研究段階を経て1つの計画として統合されることになった。新しいミッションの名前はユークリッドとなった。 2011年10月、ユークリッドはESAの科学プログラム委員会によって選定され、2012年6月25日に正式に採択された[10]。
ESAは、衛星の開発主契約をイタリアのタレス・アレーニア・スペースと締結した[11]。衛星は長さ4.5メートル、直径3.1メートル、質量2160 kgとなる。ユークリッドのペイロードモジュールは、EADS アストリアム(現在はエアバス・ディフェンス・アンド・スペースの一部)が開発する。ペイロードとなる望遠鏡は直径1.2メートルの主鏡を備えたコルシュ式望遠鏡であり、視野は0.9平方度である[12]。
科学者の国際コンソーシアムであるユークリッド・コンソーシアムは、ヨーロッパ13か国と米国の科学者で構成され、ヨーロッパ13か国と米国から1000人以上の科学者が集まっている[13]。コンソーシアムは、可視光カメラ(VIS) [4]と近赤外線カメラ/分光計(NISP)を提供する[5]。これらの大型カメラは、銀河の形態計測、測光、および分光特性を特徴づけるための観測に使用される。ユークリッド・コンソーシアムはユークリッドのデータを解析し、全天の3分の1以上の範囲に広がる最大20億個の銀河の3次元分布を明らかにする[14]。
観測装置
- VIS: 可視波長(550〜920nm)の観測を行うカメラ。36個のCCD素子を並べた構造で、合計約6億ピクセルとなる。重力レンズ効果による銀河の形状のゆがみを測定する[15]。
- NISP(近赤外線分光測光装置): 近赤外線波長(1000〜2000nm)に感度を持つテルル化カドミウム水銀検出器を16個並べた構造で、以下の2つの機能を持つ[16]。
- 多色フィルター(Y、J、Hバンド)を用いた測光を行い、10億を超える銀河の大まかな赤方偏移を測定する。
- スリットレス分光計を使用して、銀河の近赤外線スペクトルを分析しする。測光による赤方偏移測定よりも10倍高い精度で数百万個の銀河に対して正確な赤方偏移を測定することができる。これにより、バリオン音響振動を測定する。
サービスモジュール
サービスモジュールには、観測装置に電力を供給するためのソーラーパネルと、望遠鏡の向きを35ミリ秒角以内で制御するための装置が搭載される。望遠鏡とサービスモジュールの間は良好な熱絶縁が施されており、望遠鏡の光学部品の位置がずれないように、良好な熱安定性が確保される。通信システムとしてXバンドとKaバンドのアンテナが搭載されており、科学データを毎秒55メガビットの速度で地球に伝送することができる。また、少なくとも容量2.6テラビットの記憶装置が搭載される[17]。
ミッションの経緯
NASAは、ユークリッドミッションに参加することを記載した覚書に2013年1月24日に署名した。これに基づいてNASAは近赤外帯の検出器を提供する他、40人のアメリカ人科学者がユークリッド・コンソーシアムのメンバーとして任命された[18]。そのほかの観測装置、望遠鏡および衛星本体はヨーロッパで製造され、運用される。
2015年、ユークリッドは多数の技術設計を完了し、主要コンポーネントを構築および試験を行い、予備設計審査に合格した[19]。
2018年12月、ユークリッドは、宇宙機の全体的な設計とミッション計画を検証する重要な設計審査に合格し、最終的な宇宙機の組み立てを開始することが許可された[20]。
2020年7月、2つの観測装置が宇宙機との統合のためにフランス・トゥールーズのエアバスの工場に納入された[21]。
2023年7月2日、アメリカ南部フロリダ州の施設から、ファルコン9ロケットで打ち上げられた[22]。
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- ^ a b “Euclid Spacecraft – Telescope”. ESA (2013年1月24日). 2011年4月13日閲覧。
- ^ a b c “Euclid VIS Instrument”. ESA (2019年10月18日). 2020年7月9日閲覧。
- ^ a b c “Euclid NISP Instrument”. ESA (2019年9月19日). 2020年7月9日閲覧。
- ^ “Mission Status”. European Space Agency. 2015年11月23日閲覧。
- ^ “スペースX、ESAのユークリッド宇宙望遠鏡の打ち上げに成功 暗黒物質の謎に迫る”. sorae 宇宙へのポータルサイト (2023年7月2日). 2023年7月2日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2023年7月2日). “宇宙望遠鏡「ユークリッド」打ち上げ 100億光年先の銀河を観測 | NHK”. NHKニュース. 2023年7月2日閲覧。
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- ^ “La NASA participará en la misión de la ESA para estudiar el lado oscuro del Universo” (スペイン語). esa.int. 2013年1月24日閲覧。
- ^ “Thales Alenia Space kicks off Euclid construction”. esa.int. 2013年7月8日閲覧。
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- ^ Administrator, NASA Content (2015年2月23日). “NASA Officially Joins ESA's 'Dark Universe' Mission” (英語). NASA. 2021年12月31日閲覧。
- ^ “Euclid dark Universe mission ready to take shape”. ESA (2015年12月17日). 2015年12月17日閲覧。
- ^ a b “Arianespace and ESA announce the Euclid satellite's launch contract for dark energy exploration”. esa.int. 2020年1月7日閲覧。
- ^ The Euclid space telescope is coming together
- ^ “宇宙望遠鏡「ユークリッド」打ち上げ 100億光年先の銀河を観測”. NHK. 2023年7月2日閲覧。
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- ^ “ESA Science & Technology - The Euclid Deep Fields”. sci.esa.int. 2021年12月31日閲覧。
- ^ “Surveys”. Euclid Consortium (2016年6月18日). 2020年9月12日閲覧。
- ^ “Ground Segment | Euclid Consortium” (英語). 2021年12月31日閲覧。
- ^ “Euclid Consortium site”. 2021年12月31日閲覧。
- ^ “The Euclid Consortium | Euclid Consortium” (英語). 2021年12月31日閲覧。
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