マカオ
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経済
世界銀行の統計によると、2021年のマカオのGDPは2,418億マカオ・パタカ(約299億ドル)である。一人あたりのGDPは世界屈指[30]であり(2013年はカタールを超えて世界一でもあった[31])、返還後の経済の急成長で税収も非常に潤沢となったため[21]、マカオ市民には教育費と医療費を無料化する高福祉政策が行われ[22][32]、毎年現金給付もされるようになった[23][33]。世界最大級の都市圏を目指す粤港澳大湾区構想の一部にもなっている[34]。
観光産業への依存度が高いため、世界情勢にされやすい面もある。2014年までは急成長を見せていたが、2015年に中国政府が反汚職運動を進めると[35]、汚職官僚の資金洗浄に利用されていたマカオも監視が強化されたことで、本土の顧客が減少[36]。カジノ収入は前年比34.3%減となり、GDP成長率は約-20%と落ち込んだ。その後は回復を見せたが、2020年にCOVID-19が世界的に流行すると、出入国規制により大打撃を受け、当年のGDPは53.6%も激減した[37]。
通貨
域内の法定通貨は大西洋銀行および中国銀行マカオ分行(1995年より)が発券するマカオ・パタカである。しかし流通通貨の相当部分は香港ドルである。パタカの発券に際しては1香港ドル=1.03パタカ(1983年より)と香港ドルにペッグされており[38]、香港ドルは米ドルにペッグされているので、米ドルにペッグされているのと実質同等となっている。1香港ドル=1.03パタカと、パタカがわずかに価値が低いが、ほとんどの店では等価に扱われたり、流通レート以上に値上げされることがある。
なお香港ドルで支払っても釣り銭はパタカで返ってくることがある。香港ドル硬貨はマカオ内の自動販売機などでも使用が可能ではあるが、タクシーなどでは1香港ドル未満の硬貨は受け取りを拒否されることがある。逆にパタカを香港での支払いに使うことはできない。
産業
マカオの経済はギャンブルを含む観光産業と織物や衣類、花火の生産に大きく依存しているが、多角化に努めた結果、小規模ながら玩具や造花、電子機器の製造も始まった。
織物や衣類は輸出金額のおよそ4分の3を占めているが、GDPに占める製造業の割合は5%程度であり、GDPの40〜60%程度(さらにホテル、飲食業が5%程度)[39]、政府歳入の80%程度はギャンブルに依拠している[40]。
観光とギャンブル
2018年には3580万人を越える観光客がマカオを訪れた。最多は、約2500万人の中華人民共和国本土からの訪問客であり、香港からの観光客約630万人がこれに次ぎ、以下、台湾・韓国・日本をはじめとしたアジア各国・地域からの観光客がそれに続く[41]。世界最大のカジノ設備が集客に貢献している他に、世界遺産に登録されたマカオ歴史地区や、東西を融合した独特の食文化、カジノに隣接するブランド品の直営店など、ギャンブル以外の観光資源にも恵まれている。
返還直前の1998年ごろには経済の暗黒面である黒社会(マフィア、ギャング)の抗争が懸念されていたが、返還後は治安はよくなった[42]。
2002年には、カジノ経営権の国際入札を実施し、その結果これまで何鴻燊経営の「マカオ旅遊娯楽有限公司(Sociedade de Turismo e Diversões de Macau,S.A. STDM / 澳門旅遊娯楽股份有限公司)」が独占してきたギャンブルを含むカジノ産業を、香港系の「ギャラクシー・マカオ(銀河娯楽場)」社とアメリカの「ウィン・リゾーツ(永利渡暇村)」社にも開放した。
このことが功を奏し外国からの投資が急増した。2009年5月現在、「ホテル・リスボア(Lisboa、葡京娯楽場)」、「グランド・リスボア(Grand Lisboa、新葡京)」、「サンズ・マカオ(Sands、金沙娯楽場)」、「ウィン・マカオ(Wynn、永利澳門)」や、新たに埋め立て開発されたコタイ・ストリップの「ザ・ベネチアン・マカオ(Venetian Macao-Resort-Hotel、澳門威尼斯人度假村酒店)」など20を超える大規模なカジノが運営されている。
これに伴い、観光客も2000年の800万人から2018年の3580万人と4倍以上の増加を示したように、観光産業の隆盛で経済は活況を呈しており、中華人民共和国本土の一部直轄市や省がマカオ入境を解禁した。2006年のカジノ売り上げが69億5000万アメリカドル(約8400億円)に達し、これまで世界最大であったアメリカのラスベガスの推計65億ドルを超え、世界最大のカジノ都市となり[19]、その後も成長を続け、2013年の売上は3607.49億マカオパタカ(約4兆7253億円)に達した。カジノ市場の対外開放からわずか4年でカジノ都市として世界首位に躍り出た背景には、膨張する中華人民共和国の経済からあふれ出る「チャイナ・マネー」と、新たな市場であるマカオの国際カジノ産業に流れ込む外資があると分析されている。
なおマカオで合法とされているギャンブルは数多いが、人気があるのは駆け引きの要素の無い大小やバカラである。ほぼ全てのカジノにスロットマシーンが備えられている。
また、カジノに偏らない統合型リゾート(IR)も整備してAIやICTを活用したスマートシティ化も進められている[43][44]。
この他、古くからドッグレースが盛んであったが、人気を失い2018年7月に廃止された。競馬も行われているが、他のギャンブルの陰に隠れてあまり人気が無い。
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