ハウジングファースト 家族のためのハウジングファースト

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ハウジングファースト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/04 02:03 UTC 版)

家族のためのハウジングファースト

ハウジングファーストの方法論は、1988年にカリフォルニア州ロサンゼルスで開発され、家族のホームレス化の増加に取り組んだ。彼らは、ホームレス状態にある家族が避難所や一時的な住宅から恒久的な賃貸住宅に、できるだけ早く入居することを支援した。一時的な住宅においてこれまで提供されていたサポートやサービスは、恒久的な住宅に入居してから家族に提供された。この方針転換はこの分野における大きな革新となった。ハウジングファーストの基本的な仮説は「家族は安定した恒久的な住宅基盤がある時の方が、一時的に住まいを得てるとはいえほぼホームレス状態である場合より、介入と支援に対してよりよく反応するだろう」という仮説である。2009年HEARTH法では、ホームレス状態を終わらせるためのハウジングファーストアプローチが法律に成文化された。家族のためハウジングファーストプログラムは、子どもへのサポートが含まれているため、慢性的なホームレス状態にある個人のためのプログラムとは様々な点で異なる部分がある[29]

各国の取り組み

オーストラリア

南オーストラリア州では、州政府のMike Rann(2002年から2011年)が、ホームレス状態にある人をなくすために計画された一連のイニシアチブへ多大な資金提供を行うことを約束した。ソーシャルインクルージョンコミッショナーのDavid Cappo、ニューヨークのCommon Groundプログラムの創設者Rosanne Haggertyにアドバイスを求めたうえで、Rann政府は、Common Ground Adelaideを設立し[30]、 ホームレス状態にあり"貧しい睡眠rough sleeping"しか得られない人たちのために、高品質のアパートを建設した。政府はまた、Adelaideの公立病院救急部に入院しているホームレスの人々を支援するために、Street to Homeプログラムと病院リエゾンサービスに資金を提供した。“貧しい睡眠者”であると特定されたホームレス状態にある患者は、路上に戻されるのではなく、専門的な支援を受けて宿泊施設が見つけられるようになった。Common GroundとStreet to Homeは現在、オーストラリアの他の州でも運営されている。

カナダ

2013年の連邦議会経済行動計画では、2014年3月から2019年3月まで毎年1億1,900万ドル、計6億ドルの新規資金をホームレス・パートナーシップ・ストラテジー(HPS)に提供した。カナダではハウジングファーストモデルを中心にしてホームレス支援が行われており、カナダ全土の民間または公的機関はハウジングファーストによるプログラムを実施するためにHPSから補助金を受け取ることができる[31]。 2008年、カナダ連邦政府は、5年間の試験的プログラム、At Home / Chez Soiプロジェクトに資金を提供し、深刻な精神病やホームレスを経験する人々にどのようなサービスやシステムが最も役立つかについてエビデンスを蓄積した。2009年11月から2013年3月まで行われたAt Home / Chez Soiプロジェクトは、バンクーバーウィニペグトロントモントリオールモンクトンの5都市でホームレス状態にある精神病患者にハウジングファーストプログラムを提供した。At Home / Chez Soiは1,000人以上のホームレスに住宅を提供した[32]

ハウジングファーストはカナダでよく知られており、エドモントンカルガリーなど様々な都市においてホームレス対策10ヵ年計画のなかで使用されている。カナダにおけるハウジングファーストの成果は、ウェブサイトwww.thealex.ca(Housing Programs、Housing to Pathways to Housing)に記載されているように、成果をあげている。カナダにおけるハウジングファーストの導入はカナダにおけるホームレス状態のあり方、社会資源、政治、価値観に合わせて行う必要がある。

アルバータ州カルガリーでは、2007年に非営利団体the AlexがオープンしたPathways to Housing Calgaryは、都市散在型のハウジングファーストプログラムを行なっており、150人に住居を提供している。利用者は収入の30%を家賃として払う。:Pathways to Housingの利用者の85%は、重度障害給付(AISH: Assured Income for the Severely Handicapped) を受け取っており、15%は失業給付金を Alberta Worksから受け取っている。Pathways to Housing Calgaryは、ハウジングファーストモデルの他に、ACT; Assertive Community Treatment も使用している。ACTとは、看護師・精神科医・心理士・社会制度の専門家などからなるチームによって行われる精神障害を持つ人に対する統合的居宅支援アプローチのことである。

Sue Fortune は、カルガリー地域でホームレス対策10ヶ年計画に尽力している。Fortuneの報告によるとハウジングファーストアプローチによって:入居前1年間と入居後1年間で比べると、入院日数が66%減少、救急入院が38%減少、救急医療事象が41%減少、刑務所にいる日数が79%減少し、警察沙汰が30%減少した。彼女が2013年に発表したデータでは、シェルターに出戻りしたのは利用者の1%未満であり、刑務所で過ごす日数は76%減少、警察沙汰は35%減少した[33]

Pathways to Housing Canadaは、ハウジングファーストを「利用者中心のプログラムであり、アルコール依存症などの治療を前提条件・交換条件にすることなく、アパートをすぐさま提供するものである」と説明している[33]

フィンランド

2007年、中道右派のマティ・ヴァナハン政権は、2015年までにフィンランドにおけるホームレス状態にある人をなくすための特別プログラム:four wise menを開始した[34][35]

対象は、ホームレス状態にある人の一部、社会的・健康的・経済的な状況に基づいて特に困難な層であるとアセスメントされた人々である。ホームレスの大部分が存在する大都市で特に集中的に実施されている。とりわけ、ヘルシンキ首都圏で、中でもヘルシンキは慢性的にホームレス状態にある人が集中しているため最重点地区となっている。

このプログラムはハウジングファーストの原則を参照して以下のように構築されている。:社会的および健康的な問題が解決していることは居宅提供の条件には決してならない。逆に、住まいがあることはホームレス状態にある人々の他の問題を解決するための条件である。生きる場所を持つことによって生活管理スキルが上達し、目標がある活動をすることができるようになる。人は様々な理由によって慢性的なホームレス状態になるため、同時並行的に様々なレベルでの政策を行う必要がある。例えば、普遍主義的な住居の提供、ホームレス状態にならないようにする予防措置、すでに長期ホームレス状態にある人に焦点を合わせた活動、などを同時並行で行う必要がある。

プログラムの目標は次のとおりである

  1. 2011年までに長期間のホームレスを半減する
  2. 2015年までに完全にホームレスをなくす
  3. ホームレスになることを予防するため、より効果的な対策をとる

フランス

フランス政府は2010年にトゥールーズマルセイユリールパリの4大都市で「Un chez-Soi d'abord」と呼ばれるハウジングファースト的なプログラムを開始した。このプログラムはカナダや米国と同じ原則に従っている:ホームレス状態にあってかつ精神病・薬物やアルコール依存症を持つ人で、NGOによって提供された宿泊施設に住むことになった人に、3年間を目安に提供される。

利用者には、社会的医療的にニーズに応じて必要な支援が与えられる。2011年から運営されているアパートは3つの都市で稼働中であり、2012年5月からはパリで100の部屋が稼働する計画となっている。いくつかのNGOがこの試験的プログラムに関与している。彼らは利用者の賃貸管理や社会的支援を行っている[36]

これらのNGOは、実験結果を調査する科学者と連携し、対象となる人に関する情報や現在の状況を報告する役割も担っている。「Un chez-soi d’abord」の実施結果は2017年ごろに発表される予定となっている[37]

日本

自立生活サポートセンター・もやいビッグイシュー世界の医療団といった非営利の支援組織が政府にハウジングファーストプログラムを要求しているものの、日本ではまだ公的には実施されていない。

これまでの政府の取り組みとしては、低所得者向けの公営住宅の提供が挙げられる。公営住宅の運営は地方自治体が行なっている。家賃は世帯所得に応じて増減する。入居の可否はくじ引きによって決まるため、何らかの優先して入居するべき理由があったとしても、すぐには入居できない。

非営利団体によって既に実施されているハウジングファーストのようなプログラムはいくつか存在する。NPO法人リトルワンズは、空き家廃屋リノベーションしてシングルマザーに提供し、経済的なサポートや就労サポートを行なっている。また、つくろい東京ファンドは、ハウジングファーストを提唱しており、ホームレス状態にある人のためのシェルターを運営している。 一般社団法人クバールジャパンが大阪でハウジングファーストnet大阪という名称で活動を展開している。

ハウジングファーストに対する批判

ハウジングファーストは玉虫色だ

コロンビア大学の教授で児童・貧困・ホームレス研究所のCEOであるRalph DaCosta Nunezは、「このような玉虫色なone-size-fits-allプログラムは、ニューヨーク市の統計が示すように、必ず失敗することになる」と予言した。Nunez博士はこのアプローチを「公共政策」ではなく「公共愚策」と表現した。 彼はまた、ハウジングファーストは、他の貧困撲滅プログラムが資金不足に陥ったり一切取り消しになった後に残る出涸らしのようなものであると訴えた。つまり、ハウジングファーストとは、ホームレス問題に取り組むためにいくつかあるアプローチの最初の要素に過ぎないと主張している[38]

ハウジングファーストは共産主義者の失敗したやり方だ

社会政策の専門家でエコノミストであるSharam Kohanは、永続的かつ無条件の公的住宅を提供することによってホームレス状態にある人をなくそうとしていた元共産主義国のPaneläkとハウジングファーストモデルを比較し、「ハウジングファーストはPaneläkの失敗した哲学とアプローチに従っている」と批判しました。 Kohanは、ハウジングファーストプログラムを実施した地域社会からの苦情が増えていることを指摘している。このプログラムは、スラムやスラム街を創造していると言われている[39]

エビデンスに基づく政策には限界がある

2011年7月31日、ニューヨーク大学ソーシャルワークスクールのVictoria Stanhope教授とニューイングランド大学ソーシャルワークスクールのKerry Dunn教授は、「ハウジングファーストの奇妙な事例:エビデンスベースの政策の限界」というタイトルの論文をhe International Journal of Law and Psychiatryに投稿した[8]。StanhopeとDunnはこの論文の中で、エビデンスベースな政策の概要を説明し、実証主義的方法への依存と政策立案への技術的アプローチに基づく批判を提示した。これらの批判を枠組みを用いて、慢性的なホームレスの問題に取り組むためにブッシュ政権が採択した政策であるハウジングファーストの事例を論じている。「ハウジングファーストは、研究主導による政策立案の例であるが、保守的な管理組織の元で進歩的な政策が推進されている。エビデンスベースの政策提言は、エビデンスと価値を政策審議において統合することに失敗している」と主張し、エビデンスと政策の関係を詳述している。この論文は、政策決定の代替モデルと研究への示唆で終わる。

ハウジングファーストは依存症者を依存症のままにしている 

ハウジングファーストはより広いアウトカム、すなわち物質乱用に対処しなかったことで批判されている。また、物質乱用のアウトカムが悪くなかった理由は、ただ対象者が重度の依存症ではなかったというだけだ、と主張されることもある[40]。これらの批判は、ハウジングファーストがホームレス状態を終わらせることで薬物乱用を減らそうとするプログラムではないことを踏まえていない。加えて、最近の研究によると、依存症の減少という点においても従来のアプローチよりも結果的に効果があるということが示されている。


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