クリー語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/16 03:25 UTC 版)
方言分類の基準
※以下の文におけるカタカナでの発音表記は、日本語話者に簡易的に音声を知らせるもので、必ずしも現地語を忠実に再現していない。
- 子音の[ʃ]
クリー語の方言連続体は、いくつかの区分に分かれる。オンタリオ州北部から、ケベック州北西湾岸部にかけて、[ʃ] (日本語のシャ行に似た音、英語のsh音)と[s](sの音)の間に明確な区別があるが、西部・東部では区別しない。西部では[s]とのみ発音し、東部では[ʃ]または[h](日本語のハ行の子音)のいずれかで発音される。
- 長母音
北部の平原クリー語(Plains Cree)と森林クリー語(Woods Cree)を含むいくつかの方言では、長母音[eː](エー)と[iː](イー)は[iː]ひとつに集約される。ケベック州のチサシビ(Chisasibi)とワプマグストゥ(Whapmagoostui)では、長母音[eː]は、長母音[aː](アー)に集約される。
しかし、クリー語諸方言のうち最もバリエーションに富んでいるのは、アルゴンキン祖語の *l に起源を持つ音である。下の表を参照(SKはサスカチュワン州、ABはアルバータ州、BCはブリティッシュコロンビア州、NTはノースウェスト準州、MBはマニトバ州、ONはオンタリオ州、QCはケベック州、NLはニューファンドランド・ラブラドール州)。
方言 | 地域 | 祖語の *l に起源を持つ音 | 「先住民」を意味する語(祖語の *elenyiwa) | 2人称代名詞(祖語の *kīlawa) |
---|---|---|---|---|
平原クリー語(Plains Cree) | SK, AB, BC, NT | y | iyiniw ᐃᔨᓂᐤ | kiya ᑭᔭ |
森林クリー語(Woods Cree) | MB, SK | ð/th | iðiniw/ithiniw ᐃᖨᓂᐤ | kīða/kītha ᑫᖬ |
湿原クリー語(Swampy Cree) | ON, MB, SK | n | ininiw ᐃᓂᓂᐤ | kīna ᑮᓇ |
ムースクリー語(Moose Cree) | ON | l | ililiw ᐃᓕᓕᐤ | kīla ᑮᓚ |
東部クリー語(East Cree) | QC | y | īnū ᐄᓅ; īyiyū ᐄᔨᔫ | čī ᒌ |
カワチカマチ・ナスカピ(Kawawachikamach Naskapi) | QC | y | īyuw ᐃᔪᐤ | čīy ᒋᔾ |
アティカメク語(Atikamekw) | QC | r | iriniw | kira |
西部インヌ語(Western Innu) | QC | l | ilnu | čil <tshil> |
東部インヌ語(Eastern Innu) | QC, NL | n | innu | čīn <tshin> |
y方言の平原クリー語話者は自分たちの言語を nēhiyawēwin と呼び、森林クリー語話者は nīhithawīwin、湿原クリー語話者は nēhinawēwin と呼ぶ。これはスー語族の Dakota、Nakota、Lakota や古代教会スラヴ語の母音 ѣ (yat) の現代スラブ諸語への変化に見られる音の交替と同様である。
クリー語諸方言の音韻的なバリエーションのうち、もう一つ重要なものにアルゴンキン祖語における *k の硬口蓋音化がある。オンタリオ・ケベック州境の東(アティカメク語を除く)では、アルゴンキン祖語の *k は前母音の前の位置で[tʃ](「チーズ」の「チ」の子音)に変化している(上の表の「2人称代名詞(祖語の *kīlawa)」を参照)。
クリー語の地域語連続体はしばしばクリー語とモンタニェ語に分けられる。クリー語には *k から [tʃ] への変化を経ていない全ての方言が含まれる(ブリティッシュコロンビアからケベック)。他方、モンタニェ語の使用される地域(ケベックからニューファンドランド・ラブラドール)ではこの変化が起きた。この分類は言語学的な観点からは有用だが、「東部クリー語」がモンタニェ語となるため混乱を招きかねない。実用上は、クリー語とは通常正書法に音節文字を使用する諸方言のことであり(アティカメク語を含みカワチカマチ・ナスカピ語を含まない)、モンタニェ語という呼び名はローマ字を用いる諸方言に使われる(アティカメク語を含まずカワチカマチ・ナスカピ語を含む)。ナスカピ語という呼び名は一般にカワチカマチ語(y方言)とナトゥアシシュ語(n方言)を指す。
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