クトゥルーの子供たち B:悪魔と結びし者の魂

クトゥルーの子供たち

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 10:11 UTC 版)

B:悪魔と結びし者の魂

悪魔と結びし者の魂』(あくまとむすびしもののたましい、原題:: The Soul of the Devil-Bought)。ロバート・M・プライスによる短編。『Cthulhu Cults』1996年5号に掲載された。

カーターの『ウィンフィールドの遺産』の続きであり、シリーズの追加完結編を、別人が書いたもの。カーターが創造したザルナック博士を登場させて、前作のバッドエンドの続きを解決している。またウィンフィールド・フィリップスの初登場作品である『暗黒の儀式』に構成を似せている。プライスは聖書学者でもあり、作中には独自の見解が盛り込まれている。

前作『ウィンフィールドの遺産』は、本作のウィンフィールド・フィリップスが書いたものであるという、入れ子構造をとっている。ウィンフィールド・フィリップスは、ダーレス『暗黒の儀式』3章、カーター『陳列室の恐怖』、カーター『ウィンフィールドの遺産』に登場している人物である。ただし作者プライスは、『暗黒の儀式』の3章に不満があり、独自に『The Round Tower』(未訳)という作品に書き直している。1990年発表の『The Round Tower』にはウィンフィールド・フィリップスは登場せず、事件に関わらない。本作のフィリップスがどちらの世界線なのかについては、特に言及はない。

カーターが創造したザルナック博士は複数の作者が自作に登場させているが、邦訳作品は少ない。『エンサイクロペディア・クトゥルフ』には解説文がある[10]。また『エンサイクロペディア・クトゥルフ』の邦訳されている第2版では、出来事が1929年と誤記されている[11]。ザルナック博士は「東洋人地区」に住んでいるという設定で、カーターの『夢でたまたま』では東海岸ニューヨークであったが、本作では(移転も考慮して)西海岸サンフランシスコに設定されている。

Bあらすじ・物語以前

  • 1924年:『暗黒の儀式』1章「ビリントンの森」、2章「スティーブン・ベイツの手記」、3章「ウィンフィールド・フィリップスの物語」または『The Round Tower』
  • 1929年:『陳列室の恐怖』
  • 1936年:『ウィンフィールドの遺産』

Bあらすじ・1937年ころ

サンボーン研究所が、故コープランド教授の日記を調べたところ、ハイラム・ストークリイから貴重文献を入手していたことが判明し、研究所は他にもあるかもしれないと期待する。ハイラムは死没して屋敷を甥2人が相続しており、(ゴシップによると)彼らはゲイカップルだが破局して現在ではウィンフィールド・フィリップス一人だけが屋敷に住んでいると噂されていた。

研究員であるジェイコブ・メイトランドは、ハイラム屋敷に赴き、インディアンとウィンフィールド・フィリップスに出迎えられる。メイトランドは残りの本を研究所に提供してくれるよう申し出ようとするも、フィリップスは逆に研究所から本を返却してもらおうとしていた。メイトランドは失態に手痛い思いをするも、フィリップスは「8年前のホジキンスの事件を蒸し返して、研究所に余計な世間の好奇を集めたくないだろう」と言う。結局、研究所の利害がイーブンになるよう、交渉は打ち切られて終わる。

一方、ミスカトニック大学のラファム博士のもとに、戻ってこないフィリップスから2通の手紙が届く。1通目は陳述書=『ウィンフィールドの遺産』であり、2通目には「1通目は小説である」と書かれていた。ラファム博士は、フィリップスが危険なものに関わっていると察して、ザルナック博士に相談を持ち掛ける。

ザルナック博士はメイトランドに「絶対にフィリップスに書物を返却するな」と念押しする。続いてザルナック博士は、ラファム博士経由で知ったフィリップスの様子について説明する。そして、ハイラムが邪悪な企てを行っていると結論付け、ザルナック・シン・メイトランドの3人は、フィリップスの住むハイラム屋敷へ赴き、地下通路への入口を見つける。

実はハイラムは、死んだときに魂を白蛆ユッギャに移し、続いてウィンフィールド・フィリップスと魂を入れ替えることで、フィリップスを地下のユッギャの肉体に封じ込め、自身は地上でフィリップスとして振舞っていたのである。地下に入った3人は、おぞましいが大人しい白蛆ユッギャと、衰弱したブライアンを見つけ、ハイラムの企てを理解する。だがそこに、フィリップスの姿をしたハイラムと、エチョクタクスが現れる。エチョクタクスの銃撃でブライアンが殺され、メイトランドも被弾するも、シンがエチョクタクスをねじ伏せて倒す。また白蛆(フィリップス)は、フィリップス(ハイラム)に襲い掛かり、惨殺する。だがハイラムは間一髪で白蛆の肉体に戻り、ザルナックに催眠術をかけて次の転生体にすることを目論む。ザルナックは敗北しかけるも、シンの活躍により逆転勝利する。生き残った3人は屋敷に火を放つ。

B登場人物・主人公たち

アントン・ザルナック博士
サンフランシスコの東洋人地区に在住。複数の博士号を持つ。ラファム博士とメイトランドから、別々に相談を持ち掛けられ、ハイラム屋敷へと赴く。
アクバル・シン
ザルナックの従僕。大柄でターバン姿のシク教徒。戦闘では大いに活躍する。
ジェイコブ・メイトランド
サンボーン研究所でポナペ経典を研究している大学院生。フィリップスからハイラムの蔵書を入手したいと考えている。

B登場人物・ハッブルズ・フィールドのハイラム屋敷

ハイラム・ストークリイ
嫌われ者の隠遁者。ニューイングランド生まれの富豪だが、資金源は謎。コープランド教授に資料を提供していた。1936年に死没し、遺産相続人に甥2人を指名する。
ウィンフィールド・フィリップス
ハイラムの甥で、遺産を相続して屋敷に住んでいる。本籍はアーカムミスカトニック大学の研究者であるが、戻る様子がない。ラファム博士に2通の手紙を送っており、1通目は『ウィンフィールドの遺産』であり、2通目は「1通目は小説」と言い訳している。
「プライスの」ウィンフィールド・フィリップスである。そのため、1924年のビリントンの森の怪異を経験しているパターン(暗黒の儀式3章)と、経験していないパターン(The Round Tower)が有り得る。
ブライアン・ウィンフィールド
もう一人の遺産相続人であり、フィリップスの相方だが、消息不明。ゴシップでは、ゲイカップルの破局と噂されている。
エ=チョク=タクス(エチョクタクス)
フィリップスの従僕。老インディアン。主人からは「エチョクタクス」と呼ばれる。
ハッブルズ・フィールドの旧名である「エ=チョク=タ(妖蛆の地)」と酷似した名を名乗るインディアンというキャラクターであり、『暗黒の儀式』のクアミスに立ち位置が似ている。
白蛆ユッギャ
邪神の奉仕種族。長はウブ。古代には、ソロモン王に知識と富を与えて買収し、下僕とした。曰く、聖書時代のエルサレムはウブとヨグ=ソトースの聖地であったという[注 9]

B登場人物・その他

セネカ・ラファム博士
ミスカトニック大学の学者であり、フィリップスの上司。ザルナック博士に、フィリップスからの手紙を見せて、意見を求める。
ハロルド・ハドリー・コープランド教授
太平洋考古遺物研究の大家・オカルトかぶれ。ハイラムから書物を入手しており、収集物は没後にサンボーン研究所に遺贈されている。
アブド・アル=ハズラット / Abd-al-Hazrat
「アル=アジフ」を著した人物とされているアブドゥル・アルハザードを、プライスは本作でこのように表記している。「Abdul Alhazred」がアラビア語人名としては間違っていることは古くから指摘されており、プライスは訂正版を作品に盛り込んだ。
ジョン・ディー博士
ラヴクラフト作品およびクトゥルフ神話において、「ネクロノミコン」を16世紀に英訳したとされている人物。
本作においてザルナックは、「アル・アジフ」と「ネクロノミコン」は別物であり、後者はディー博士による新著であるという説を提唱している。作中では、ラヴクラフトの『魔宴』におけるネクロノミコンからの引用文をアレンジした文章が、アル=アジフからの引用という態で登場する。作品タイトルの『悪魔と結びし者の魂』は、『魔宴』に登場するフレーズである。






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