カピバラ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 04:09 UTC 版)
呼び名
グアラニー語の「ka'apiûara(細い草を食べる者)」にちなみ、それがスペイン語に転訛して「Capibara」と呼ばれるようになった。日本では同じ言語の「Kapiyva」(草原の主)に由来するとの説が一般に広く流布している[7]が明確な根拠はない。和名はオニテンジクネズミ(鬼天竺鼠)。なお、日本ではしばしば誤ってカピパラやカビパラと表記されることもある。
形態
体長106 - 134センチメートル[3]。体重オス35 - 64キログラム、メス37- 66キログラムと現生の齧歯類でも最大[3]。
体毛はタワシのような手触りの硬く長いもので、体を震わせるだけで水を落とすことが出来る[7]。
前肢の指は4本、後肢の趾は3本[3]。指趾の間には小型の水かきがある[3]。下顎の大臼歯は左右に4本ずつ(他のテンジクネズミ科は3本ずつであったため区別されていた)あり、第1 - 3大臼歯の3本と、第4大臼歯1本の大きさがほぼ等しい[3]。肛門の周囲に臭腺(肛門腺)がある[3]。
オスは鼻面に卵状に盛り上がった毛で被われない臭腺(モリージョ[7][注 2])が発達するが、メスではほとんど発達しない[3]。オスは肛門腺の周囲の体毛が抜けやすく固く透明なカルシウム塩で覆われるが、メスは肛門腺の周囲の体毛が抜けずに粘着質の分泌物で覆われる[3]。
分類
カピバラ属のみでカピバラ科を形成する説もあった[3]。2002年に発表されたGHR遺伝子のエクソン・TTF遺伝子のイントロン・ミトコンドリアDNAの12S rRNAの塩基配列を決定し最大節約法と最尤法によって行われた系統解析では、カピバラ属がモコ属と単系統群を形成すると推定されたためテンジクネズミ科に含める説が有力である[8]。
生態
河辺にある開けた草原から熱帯雨林など様々な環境に生息する[3]。性格は非常に穏やかで、人間になつくことからペットとしても人気がある。2 - 200ヘクタールの行動圏内で生活するが、通常は10 - 20ヘクタールの行動圏内で生活する[3]。行動圏は重複することもあり、乾季には特にその傾向が強く2つ以上の群れが同じ場所で採食を行うこともある[3]。雨季には優位のオスと1頭から複数頭のメス・複数頭の幼獣・劣位の複数頭のオスからなる成獣が平均10~20頭の群れを形成するが[7]、40頭に達する群れを形成することもある[3]。乾季には少なくなった水場にこれらの群れが集まり、約100頭に達することもある[3]。群れの構成は主な個体は変動が少なく閉鎖的で、単独のオスが群れに加わろうとすると群れにいるオスによって排除される[3]。一方で劣位のオスは変動的に群れへ合流・離脱を繰り返す[3]。
昼間は水中で休み、午後遅くから夕方に採食を行う[3]。夜間は休息と採食を交互に行う[3]。群れを成して泳ぎ、捕食動物から身を隠すために5分以上もの潜水ができる。鼻先だけを水上に出して眠ることもある。危険を感じた個体は鳴き声をあげ、それを聞いた他の個体は立ちあがるか水中へ逃げる[3]。逃げる際には幼獣を成獣が取り囲んで防衛する[3]。
泳ぎは得意であるが雨に濡れることは好まず、雨天時には身を寄せ合って雨宿りする[7]。また寒さに弱いため気温が下がると身を寄せ合って保温を行う[7]。
植物食で、水中や水辺にあるイネ科の植物などを食べる[3]。動物園では果実なども与えられているが、新鮮な草を好むという[7]。
天敵として ジャガー、ピューマ、オリノコワニ、クロカイマン、アナコンダがいる。
幼獣の捕食者はヤブイヌなどイヌ科の構成種、コンドル類、ワニ類が挙げられる[3]。
前歯は伸び続けるが、伸びすぎると噛み合わせが悪くなり食事に支障をきたすため、木や石を使って歯を研ぐ[7]。小石を口に含み転がすようにして削る行動も確認されている[7]。
交尾期になるとオスはメスをひきつけるため、鼻の上の臭腺を周囲の木の葉にこすりつける[7]。優位のオスは群れの中心に位置して劣位のオスを群れの外縁へ追いやるが、激しく争うことは少ない[3]。交尾は水中で行う[3]。妊娠期間は150日[3]。群れから離れた草むらで最大7匹(平均4匹)の幼獣を産む[3]。出産後数時間で母親は群れにもどり、幼獣は動けるようになる生後3 - 4日で群れに合流する[3]。授乳期間は1年以上に達するが、生後1週間で食物が食べられるようになる。群れにいるメスは母親でなくても、幼獣に授乳を行う[3]。生後18か月で性成熟する[3]。寿命は5 - 10年[3]。
注釈
- ^ 化石種としては、さらに大きい種(Phoberomys pattersoni)も存在する[6]。
- ^ スペイン語で「小さい丘」の意。
出典
- ^ a b c d e Queirolo, D., Vieira, E. & Reid, F. 2008. Hydrochoerus hydrochaeris. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T10300A3191404. doi:10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T10300A3191404.en. Downloaded on 20 January 2016.
- ^ a b c Charles A. Woods, C. William Kilpatrick, "Hydrochoerus". Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 2, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, pp. 1555-1556.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af David W. Macdonald, Emilio. Hererra 「カピバラ」伊澤紘生訳『動物大百科 5 小型草食獣』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、112-115頁。
- ^ 鬼天竺鼠(オニテンジクネズミ) (飼育日記・2021年5月2日に利用)
- ^ 牧田、他 (1998)
- ^ Sanchez-Villagra et al. (2003)"
- ^ a b c d e f g h i j k l m “What is カピバラ?|カピバラ|伊豆シャボテン動物公園|伊豆シャボテン動物公園グループ”. izushaboten.com. 2022年1月19日閲覧。
- ^ Diane L. Rowe & Rodney L. Honeycutt, "Phylogenetic Relationships, Ecological Correlates, and Molecular Evolution. Within the Cavioidea (Mammalia, Rodentia)", Molecular Biology and Evolution, Volume. 19, Issue. 3, Oxford University Press, 2002, pp. 263-277.
- ^ Neilson, Susie (2020年12月13日). “アマゾンの熱帯雨林で1万2000年前の壁画発見…絶滅した大型動物や狩猟社会の生活が生き生きと”. www.businessinsider.jp. 2022年1月25日閲覧。
- ^ “「カピバラ40頭越え」(2017年2月13日):徳島市公式ウェブサイト”. www.city.tokushima.tokushima.jp. 2021年6月24日閲覧。
- ^ “カピバラの「密」発生!? 飼育数日本一のとくしま動物園がファンの間で話題(徳島新聞)”. Yahoo!ニュース. 2021年6月24日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “カピバラが“長風呂対決” 優勝は1時間58分38秒 静岡 伊東”. NHKニュース. 2022年1月19日閲覧。
- ^ 5園国 カピバラの露天風呂協定(伊豆シャボテン動物公園)
- ^ SNSに惑わされるな、飼うとヤバい動物10種(3/4ページ) ナショナルジオグラフィック日本版 2019.02.03 (2020年8月8日閲覧)
- ^ “カピバラ「湯治」で荒れたお肌に潤い 山口大教授ら湯田温泉使い研究”. 読売新聞. (2021年12月15日) 2022年1月5日閲覧。
- ^ “Comfortable and dermatological effects of hot spring bathing provide demonstrative insight into improvement in the rough skin of Capybaras”. scientific reports (221-12-08). 2022年1月5日閲覧。
- ^ カピバラ、一回り大きく成長 八重山毎日新聞 記事:2013年06月11日
- ^ 稲の食害 “犯人”はカピバラ 頭抱える農家・石垣市 沖縄タイムス+プラス 記事:2015年3月8日
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