E=mc²
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/03/14 23:46 UTC 版)
E = mc2(イー・イコール・エム・シーじじょう、イー・イコール・エム・シー・スクエアド)とは、
の物理学的関係式を指し、質量とエネルギーの等価性とその定量的関係を表している。アルベルト・アインシュタインにより、特殊相対性理論の帰結として発表された。
この等価性の帰結として、質量の消失はエネルギーの発生であり、エネルギーの発生は質量の消失を意味する。従ってエネルギーを転換すれば無から質量が生まれる(対生成)。
内容
特殊相対性理論は、「物理法則は、すべての慣性系で同一である」という特殊相対性原理と、「真空中の光の速度は、すべての慣性系で等しい」という光速度一定の原理を満たすことを出発点として構築され、結果として、空間 3 次元と時間 1 次元を合わせて 4 次元時空として捉える力学である。運動量ベクトルは、第 0 成分にエネルギー成分を持つ 4 元運動量 pμ(または p)として扱われ、運動方程式は
と拡張される。4 元運動量の保存則から、エネルギーは一般的に次のように表される。
但し
は静止質量である。物体が運動していない場合、つまり p = 0 の場合のエネルギーを表す式は、
である。物体が運動している場合、相対論効果によって質量が増える。
したがって、物体が運動している場合にも
がなりたつ。
この式は、質量とエネルギーが等価であることを意味する。反応の前後で、全静止質量の和が Δm 減るならば、それに相当する Δmc2 のエネルギーが運動、熱、あるいは位置エネルギーに転化されることになる。
なお、これは原子核反応に限ったものであるという誤解があるが、実際には原子核反応の観測により実証されたというのが正しい。質量とエネルギーが等価であることは、原子核反応に限った話ではなく、全ての場合において成り立つ。例えば、電磁相互作用の位置エネルギーに由来する化学反応では、反応の前後の質量差は無視できるほど小さい(全質量の 10−8 % 程度)が、強い相互作用の位置エネルギーに由来する原子核反応ではその効果が顕著に現れる(全質量の 0.1 - 1 % 程度)というだけの話である。水力発電のような重力の位置エネルギーに由来する場合であっても、質量とエネルギーの等価は成り立つ。
この関係式で、質量 1 kg をエネルギーに変換すると、光速度 (c) = 299 792 458 m/s であるから、次のようになる。
広島に投下された原子爆弾で核分裂を起こしたのは、爆弾に詰められていたウラン 235(約50kg)だが、実際に消えた質量は0.7g程度だったと推測されている。一方、反物質が通常の物質と対消滅反応すればその質量が100%エネルギー変換されるため、核反応とは比較にならない莫大なエネルギーが発生する。逆に対生成で物質や反物質を得るにはそれだけの莫大なエネルギーを要する事になる。
特殊相対性理論の中でも本項の式が特に有名であるため、十分に理解されないまま使われることも多い。例えば、上述の一般的なエネルギーの関係式を知らないためか、いかなる場合も E = mc2 であるとして特殊相対性理論を誤って解釈したり、その誤った解釈を元に特殊相対性理論は間違っていると主張されたりすることも少なくない。
式の意味の詳細については、特殊相対性理論を参照のこと。
質量とエネルギーの等価性は「宇宙に始まりがあるのなら、どうやって無から有が生じたのか?」という、ある意味哲学的な問題にも、ひとつの解答を与える事となった。宇宙の全ての重力の位置エネルギーを合計するとマイナスになるため、宇宙に存在する物質の質量とあわせれば、宇宙の全エネルギーはゼロになるというのが、解答である[1](もちろん、これだけでは説明がつく訳ではなく、様々な理論が関わってくる)。
脚注
- ^ 「ホーキング宇宙を語る」スティーヴン・ホーキング著、林一訳、早川書房、ISBN 4152034017
参考文献
- 真貝寿明「質量とエネルギー 相対論の視点から」『数理科学』(サイエンス社)2003年12月号
関連項目
- 特殊相対性理論
- アルベルト・アインシュタイン
- フリードリヒ・ハーゼノール
- 広島市立舟入高等学校-占領下に建立された慰霊碑[1]には「原爆」に代えて E=mc² が刻まれている
外部リンク
- 「The Equivalence of Mass and Energy」 - スタンフォード哲学百科事典にある「質量とエネルギーの等価性」についての項目(英語)
- E=mc²のページへのリンク