小檜山繁子

現代俳句データベース(人名)

小檜山繁子

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小檜山繁子の俳句

ああと言ふもあつと思ふも秋の風

あかあかと夢に綿打つ晩夏かな

あめんぼの明晰な脚雲に置く

おぼろ夜の母が下りゆく室梯子

かじかんでゐる日のわれをわれが知る

ごきぶりや氷河を滑り来たる艶

たそがれの無縫の海を雁渡し

だぶだぶの夏鮟鱇の行方かな

てつぺんはかわくかわくと鵙の贄

てのひらは茶碗のはじめ泉汲む

とはの故郷夜明は鶏の脚凍り

ひな罌粟は火の涙壺太宰の忌

ふるさとの橋おぼろ夜の朽木こぼす

わが雉子を消して雉子啼く火掻棒

わらび摘む婆か蕨か骨の音

メタセコイアは神経の束冬澄めり

レース編む透き間だらけの日を繫ぎ

一度くらゐは歩きたからう冬木立

一行詩土筆を置けば隠れけり

中空は蝶そぎ落とす最上川

乙女椿もう終りたき錆の渦

乾鮭の背骨にふれて刃をすすむ

今年また何見て淡し合歓の花

伊勢海老の死の曲線や油ぎる

俎を寒月に立てかけて寝る

八月やヒロシマナガサキわれに水

冬猫の眠りの渦の中に耳

冬麗の海へ連れだす影法師

凍る日の陣痛の皺鶏卵に

初冬のをんなの耳は涙壺

初夏の街角に立つ鹿のごと

初嵐わが身ひとつの頭陀袋

初心ありとせば八月十五日

初蟬の晴天に白影法師

単純と明解は別曼珠沙華

合掌は炎のかたち小鳥来る

噛みしめて深川飯も雁のころ

圓空佛鉈目も飛彈の花も冴ゆ

在ることが只今の用桃の花

夏に老い頭蓋ちぢまる海蛇干し

太陽を頂点に積みオレンジ売

女にも怒りはじめの臍ありぬ

孑孒とホモサピエンス水一重

宙吊りのききと乾けり唐辛子

実朝忌あし跡のみの百千鳥

寒き日の影も形も現なり

山巓は雲に突っ込み山ざくら

山茶花に入日の襤褸四十代

引出しの中にも渚桜貝

戦争に前・中・後あり秋の風

小檜山繁子の俳句

故郷は轍にかかる蝶の翅

日焼少女魚を食はねばかはきをり

昔よりをとことをんな小鳥来る

晴天の思はずこぼす桐一葉

晴天はいま風葬の山桜

月冴ゆる一度は見たき棺造り

月夜書き鉛筆よりもわれ減りぬ

朝顔の自然小輪孔子の地

朧夜の母ひらかなのやうに老い

木も草も地べたより生え鳥雲に

木枯の発掘したる空の色

杉花粉核の世に嚔充満す

杏村腿に小花の蚤の痕

栗の花絶句して身の熱きかな

桃の花川はひかりを流しをり

桃咲いて百年先のわれ思ふ

楸邨忌立往生のざんざ降り

母の日の破船に青藻房なせり

水中に爆発しをり雲の峰

水洗トイレの音鮮烈や花の夜も

没日みる乾鮭の口地に立てて

流木の巨体の亀裂鑑真忌

満月を刺す鉛筆をひと日研ぐ

炎天を駱駝の頸が遊泳す

焚火より火の鉛筆をかきだせり

熱の中流れ来ぬ白曼珠沙華

熱沙ゆく無限Ｘ駱駝の脚

熱沙冷え星間に魚の目を思ふ

父通り過ぎたるこの世虫時雨

玉葱の熟睡音を立てず去る

生きてゐるから心太など啜り

疲れたる西日の顔は駱駝かな

白桃に昨日の指の痕のこる

白桃をおもひて眠る砂の街に

百合咲くと百合の高さにもの思ふ

真暗な壺中の歓喜桃を挿す

神のかげあり大寒の臼・刃物

稲妻の夜の鏡中は彼岸かな

稲妻の野に煮凝りの沼ひとつ

紅けぶる冬の林檎をかくし持つ

羅の裏直線の糸の張り

美濃の闇螢吹雪といふべかり

羽抜鶏いかりて蹴爪地を掻けず

臍の緒にはじまる螺旋鳥雲に

花冷や死ぬまで庖丁の柄を握る

花散ると言へど腹へるかなしさよ

花火の夜少年の靴枝にささり

荒海の鱚直線に焼かれたり

落葉掃く日暮れの母も琥珀かな

落葉焚く遊び失ひ人ら老ゆ

小檜山繁子の俳句

蝙蝠飛ぶ墓石の角を忘れしめず

蟇鳴くやカフカはわれを置き去りに

蟲のこゑ濤の上に出づ真暗に

蟻地獄砂礫は踵ひき入れつ

見回せば柱総立ち秋の暮

触れ合はぬ空間を持ち紅蜀葵

赤蜻蛉まだびしょびしょの空の中

遠雪嶺怒りしあとは歯がゆるむ

針・刃物・鏡・ひかがみ熱沙越ゆ

鈴蟲のこゑ球体をまはしをり

鉄条網の長き残像蝶舞へり

雲の峰ずずんずずんと音もなし

霜夜にて胡桃楸邨栗波郷

青嵐青嵐われ遠くなる

青柿や化粧して顔苦しかり

風沙漠頭蓋を離れゆく骨ら

食ひ入りて出づるを忘る栗の蟲

飢ゑし目に海軍毛布は白かつた

鰯雲われもこの世を通過中

鵯のこゑ小枝を落しゆくごとし

鶏の丸焼まはり店頭雪降れり

麦藁帽の中に消えたる時間かな

黄落の大きな器火を焚けり

黒き枕ひとつ干しあり利休の忌