山下久代

現代俳句データベース(人名)

山下久代

山下久代の俳句

きさらぎや君が眸に塗る除光液

こころ貸します　梨の音楽尽きるまで

こすもすの混沌に靴を履かせよう

さよならのらの音まぶしい貝のから

されば死も水のみる夢からすうり

すずらんや失語擬態語死語造語

そはつまり柿の音色と申します

ふりむけば季語はまぼろし麦の秋

ほたる火や万の記憶を飢えている

りんどうや真水が秋へ書く手紙

コスモスのこの含羞の美しく

ソラシドレ紫陽花心中なさいませ

ダリア　盲目の太陽として歩かせる

プリンです春の予震を召し上がれ

七月の砂もカラスも未然形

地球儀へ平和の魔法をかけませう

夕顔のあの日の嘘の美しく

夜は桜　千思が香り立つような

影こそは千年の血を戯れる

心へと無音までへと雪の果

悲哀ですヒアシンスですピアスです

晩秋の右脚へ来て迷う水

木の実です捨ててください暁闇に

水スミレほら精神を嗅いでいる

洋梨の邪推の水の軋む音

流罪です蜜柑の花と七音と

火のなかの火のなかの火の火の鰭の

生前へ錆びております林檎です

花筐　五番目の季節が生まれる

菜の花や愛に群れてはなりませぬ

落ちて落ちて落ちて椿の人を見る

落ち葉です拾ってください夕焼けと

薄暮とは草原に来るピアノです

銀杏ゆゑ老ゆ悔ゆ報ゆ見ゆ聞こゆ

黒揚羽　虚無の視線の切り絵です