HDCD 特徴

HDCD

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/15 08:44 UTC 版)

特徴

A/D変換器や語長の丸めには量子化雑音の分布が平坦となる回路を採用していることが特徴である。 HDCD盤はコンパクトディスク(CD)と完全な互換性を有するが、HDCDデコーダーを有した機器で再生するとHDCD盤であることが表示される。また、このHDCD盤からリッピングした音源を再生する場合でもHDCDエンコード音源であることが表示される。これは、16bit信号の中にHDCDエンコード音源であることを示す隠しコードが埋め込まれ、再生時にはデコーダーで復調されることで判別される。

HDCDには、PeakExtensionやLowLevelExtendと呼ばれる付加機能もある。 ピークエクステンションとは、波形尖塔部を鈍らせて記録することによって録音レベルを上昇させ、充分な音量感を得るしくみである。 ローレベルエクステンドとは、微少レベルの音楽信号を嵩上げ記録し、再生時には元の記録レベルに戻すことによりノイズリダクション効果を得るしくみである。

HDCDの基本回路は1986 – 1991年の間にマイケル・プラウマー及びキース・ジョンソン等が考案し、HDCDエンコーダー(Model1)、HDCDデコーダー(PMD100)、HDCDデモCD(RR-S3CD)は既に1994年に発売されていたが、1996年に設立された米国パシフィック・マイクロソニックス社が開発した技術と紹介される場合が多い。

基本機能

音源を自然な音質で収録・再生するために量子化雑音の分布が平坦となる回路を採用していることが特徴で、内蔵A/D変換回路には4倍オーバーサンプリング20bit逐次比較型が用いられ、16bitに丸める際には高域集中ディザが用いられる。A/D変換器はマルチビット逐次比較型を採用することでノイズフロアの平坦性を確保し、自然な音色で記録できる。HDCDエンコーダーには外部A/D変換ユニットのデジタル信号も入力可能なためノイズシェーピングを用いたデータもHDCDエンコードすることはできるので、HDCD盤であれば必ずノイズフロアが平坦であるとは限らない。⊿Σ型A/D変換器を用いて収録した音源でもノイズフロアが平坦な場合もあるので、HDCDエンコーダー内蔵逐次比較型A/D変換回路を使わねばならない訳ではない。

ダイナミック フィルタ プロセスと呼ばれる可変LPF技術は、リアルタイムに音楽成分のスペクトラムを観測し、高域エネルギー成分の有無によって、A/D変換回路の折り返しノイズ防止用プリフィルターを可変することで常時高次LPFが挿入されることによる特性劣化を防ぐためのしくみである。現在では一般的な、高速標本化で得た低bit信号の量子化雑音の分布を⊿Σ変調器を用いて整形するA/D変換回路とは異なり、4倍オーバーサンプリング20bit逐次比較型A/D変換回路を用いているが、この機能によって低速標本化A/D変換回路における高次LPF挿入の弱点を克服している。高速標本化⊿Σ型A/D変換回路を使用する場合には、ダイナミック フィルタ プロセスは働かない。

24 – 20bit音楽信号をCDフォーマットの16bitに丸める際に高域集中ディザを採用することによってグラニュラーディストーションを回避しつつ聴感S/Nを確保する。 HDCDエンコード音源の量子化雑音分布をみると、16kHzまでは平坦なノイズフロアとなっていることが判る。16kHz以上の帯域は人間の耳には感度が低いので気付かないが、高域集中ディザが記録されているのでノイズフロアが上昇している。 ディザを用いて16bitに語長が丸められたデータはデコーダーが無くとも一般のCDプレーヤーで再生可能なので、汎用性・互換性の高いシステムと紹介されることが多い。「減算型ディザ A/D 変換」と紹介している場合があるが、16kHz以上の帯域に発生させた高域ノイズはCD盤上に記録され、D/A変換回路で再生されるので、ここでいう高域集中ディザはA/D変換回路内で用いられるディザではなく、あくまでも20bit〜24bit音源を16bitに丸める際の高域集中ディザのことである。しばしば16bitへの語長丸めについて、「CD でのエンコードに 4 ビット分をプラスする」という説明を行っている場合が散見されるが、これは誤りである。HDCDプロセスで用いられるのはあくまでもディザであり、20bit語長を16bitに丸める仕組みなので4bit分をプラスする訳ではない。

HDCD判別信号の隠しコードをデータ内に埋め込む技術によってHDCD盤と通常CDを判別する機能を有している。 「HDCDは16bitの中の1bitに20bitや24bitのデータを記録再生する」、という記述も散見されるが、これは誤りである。「20bitの情報を圧縮して16bitに置き換え、再生時に再び20bitに近い形に戻す」、という説明も見られるが、これも誤りである。16bit以上の符号を非直線量子化などにより16bit中の1bitに記録している訳ではない。16bit以上のダイナミックレンジを記録再生できるというのは、高域集中ディザを用いて20bitや24bitのハイビットPCMデータを16bitに語長丸めを行なうという仕組みを指す。16bitデータに記録されているのはHDCD判別符号であるが、この隠しコード記録方法を16bit以上のハイビット分解能データを記録していると誤解されることが多い。また、この判別符号は常時記録再生されているわけではなく間欠的に記録されている。この「ハイビット音源を16bitに丸める」、という部分はソニーが行っているSBM(スーパービットマッピング)やロンドン・デッカが行っているPONS(サイコアコースティカリー・オプチマム・ノイズシェーピング)と同様なプロセスであるが、SBMやPONSはノイズシェーピングを用いて、人間の聴覚が敏感な帯域の量子化ノイズフロア形状を窪ませているのに対して、HDCDの高域集中ディザは16kHzまでは平坦であるというところが異なる。

オプション機能

(楽曲の傾向によって向き不向きがあるので、下記機能を用いて制作されたHDCD盤は極めて少ない。)

ピークエクステンション回路
音楽信号編集時に非直線量子化を応用したコンプ回路を用いて、0 dBを超える+ 9dB相当の波形のピーク部分を、アナログテープレコーダーと近似な飽和特性によって丸めることで平均音圧レベルを高める機能。通常のCDプレーヤーでHDCD盤を再生すると、波形尖塔部はマスタリング時に鈍らせた波形で再生されるが、HDCDデコーダー搭載CDプレーヤーではマスタリング時に鈍らせた以前の波形が非直線量子化によって波形が復元され再生される。(しばしばHDCD盤は楽曲のピークを鈍らせているので圧縮された音になる、との誤解も多いが、CDマスタリング時に波形尖塔部を鈍らせるという作業は、一般のCDソフト制作時にも多用されている。しかしHDCD盤としてマスタリングされたCD盤は、鈍らせた前の波形尖塔部が再生されるというメリットを有する。)
ローレベルエクステンド回路
楽音レベルがある一定以下の音量が連続した場合、ローレベル信号をブーストして記録し、HDCD再生時には元の信号レベルで再生されることによってノイズを抑えダイナミックレンジを拡大する機能。






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