適応 (生物学) 適応 (生物学)の概要

適応 (生物学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/17 23:17 UTC 版)

  1. ある生物のもつ形態生態行動などの性質が、その生物をとりかこむ環境のもとで生活してゆくのにつごうよくできていること[1]。あるいはそう判断できること[2]
  2. ある生物個体の生存率と繁殖率を増加させられるような特徴のこと。あるいは生存率や繁殖率の向上をもたらす変化の過程[1]

一般的な意味では、1のように生物がその環境の中で生活するのに役立つ特徴を持っている状態を適応している、あるいは適応的であると言う。

「適応」と言うと主に遺伝的な変化を指しているが[2]遺伝子の変化、表現型)、環境にかなった形態・生態・行動などの変化の中にも遺伝的でないものがあり[2]、それも含めて適応と呼ぶ場合もあるが、それら区別して後者を「順応」accommodation と呼び分けることも多い[1][2]

現在存在している生物の多くは適応している(適応的)と考えられているが、現存の生物の全てが適応しているとは限らない[2]。適応的でないことを maladaptation マラダプテーション と言う[1]

適応がいかにして起きているのかについての説明としては、生物学史的に見ると様々な説が提示されてきた過去があり紆余曲折があったが、現在では、自然選択が唯一の自然科学的なものであると考えられている。ただし、適応と自然淘汰の関係をどのように定義するかは研究者によって異なっている[1]

1の意味の適応についてもう少し解説すると、たとえばアザラシオットセイは手足がヒレ型であり、明らかに水中生活に都合のよい形をしているが、他方で頭蓋骨などの特徴からは食肉目に属するもので、イヌやネコと近縁と考えられる。この場合、陸上生活のものが先祖型と考えられるから、その手足は歩脚型であったはずで、それが現在のヒレ型になったのは、水中生活で便利なように変化したのだと生物学では考える。オットセイは両手両足を歩行に利用できるが、アザラシはそれもできなくなっており、後者の方がより水中生活への適応が進んだ(そのぶん陸上では適応的でなくなった)ものと考える。

適応を形作る要因は主に個体間競争であり、算術平均的に他の個体(あるいは他の生物)よりも生存と繁殖に有利であることを意味する。したがって「適応」は「完璧」と言う意味ではない。

しかし同じ種の生物が持つ、適応的と見られる形質でもみな全く同じではなく、個体ごとにわずかな差がある。アザラシのヒレは他の陸上動物が持つ手足よりは水中生活に適しているが、アザラシの個体間で比較した場合、全ての個体がまったく同じヒレを持つわけではない。つまり同じ種の同じ形質であってもより有利な形質とそうでない形質が存在することになる。そのためより厳密な定義では、個体の生存と繁殖成功率を増加させられる形質のことを指す(#2)。これを適応的な形質(行動)とよぶ。また、その形質が自然選択で広まって行く過程も適応と呼ぶ。ある形質がどの程度適応しているかを適応度とい、数学的にあらわされる。適応度は厳密に定義された用語であるため、非数学的な文脈では「適応価」と言うこともある。

生物学的適応は世代を超えて進化の過程として起きる現象で、個体の中で起きる変化ではない。また遺伝しない形質に対しては用いない。生物の形質の中には表現型可塑性を持ち、環境に合わせて変化するものもあるが、その変化は適応とは呼ばない。ただし表現型可塑性自体は選択を受ける適応的な形質である。


  1. ^ a b c d e 生物学辞典 第四版 p.958 【適応】
  2. ^ a b c d e 広辞苑 第五版 p.1824【適応】
  3. ^ S. J. Gould and R. C. Lewontin The Spandrels of San Marco and the Panglossian Paradigm: A Critique of the Adaptationist Programme
  4. ^ http://www.edge.org/documents/ThirdCulture/i-Ch.2.html
  5. ^ Maynard Smith,John Genes,Memes,&Minds
  6. ^ http://www.edge.org/documents/ThirdCulture/l-Ch.5.html
  7. ^ 例えばマーク・ハウザーの著書『Moral mind』の副題「自然は我々の善悪の感覚をどのようにデザインしたか?」


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