船橋市西図書館蔵書破棄事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/04 13:42 UTC 版)
消極的だった新聞報道
本事件は2002年(平成14年)4月12日の産経新聞で第一報で広く知られるようになったが、本来報道機関が最も敏感に反応するべき『自由と言論の抑圧、規制』に関する事件であるにもかかわらず[33]、産経新聞以外の新聞の社会欄には殆ど取り扱われなかった[33]。産経新聞以外がこの事件を取り扱い始めたのは、最高裁が差戻審議を命じた2005年7月14日以降になってからであった[33]。
朝日新聞の反応
朝日新聞は2005年(平成17年)7月15日に「蔵書廃棄 自由の番人でいる重さ」という社説を掲載。朝日新聞は過去の社説で「つくる会」の教科書について「近現代史を日本に都合よく見ようとする歴史観で貫かれ、教室で使うにはふさわしくない」と主張してきたが、「だからといって『つくる会』や賛同する人たちへの反感から、独断でこれらの本を処分することは著者の思想や表現の自由の権利を侵害する行為である」と非難した。また「多彩な本の存在を守り、一人ひとりの内面の自由を守ることが、図書館の自由を維持することに繋がる」とし、「司書は古代中国の書に「書籍をつかさどる職」として描かれるような歴史ある仕事であり、知性と自由の番人であるという自覚を持ってほしい」と述べ[34]、司書の心構えを説くに留まり[33]、問題の核心に言及することを避けつつ[33]、「つくる会」の教科書については従来通りの批判的内容でコメントした。また7月18日には、Aの行為は重大な違反であるが、長く子供の良書に尽力した彼女だからこそなされた事件であり、表現や思想の自由と「新しい歴史教科書」が問題視される中でこのジレンマは看過されるべきではないという記事を掲載している[17]。
産経新聞の反応
産経新聞はこれまでの「新しい歴史教科書を作る会」との関わりより、この事件では被害者的(原告側)という側面もあった[33]。第一報に続いて産経新聞は2002年4月15日には社説(産経新聞では「主張」と呼ぶ)を掲載、2002年4月16日には『船橋市西図書館大量廃棄 全リスト判明』として、その一覧表を掲載した[33]。判決確定後の2005年(平成17年)7月15日の社説では、「多様な言論を支える判決だ」として裁判での判断を評価した[33]。またAについては著者に対する権利侵害のみならず、読者に対しても読む機会を奪う行為であり、それをチェックできなかった図書館の上司や船橋市の責任は計り知れないと手厳しく指摘している[33]。また朝日新聞とは逆に、「新しい歴史教科書を作る会」は日本の将来を担う子供たちにバランスの取れた歴史を学んでもらうための集団であり[33]、それまでの歴史教科書が中国や韓国に過剰に配慮しすぎるあまりに、日本の歴史を歪めて伝えてしまっているというコメントを追加した[33]。
読売新聞の反応
読売新聞は、2005年(平成17年)7月16日に『民主主義の基本原理が守られた』という記事を掲載し[33]、裁判での画期的判断を歓迎する一方で[33]、Aの行為については暴力的な威圧、組織的な圧力であるとして糾弾し[33]、朝日新聞とは対照的にA=図書館側の不正行為を厳しく非難している[33]。
注釈
- ^ 廃棄された本のリストは、「正論」の平成14年6月号に掲載されている。なお、この「正論」の紙面を元に再構成した資料が、「ず・ぼん」2005年(平成17年)11月号に掲載され、こちらで公開されている。
- ^ 2018年(平成30年)現在でもこのAの本は、船橋市図書館全体で19冊蔵書されているが、問題が起きた船橋市西図書館では1冊のみが残されている。2018年(平成30年)2月1日蔵書確認
- ^ 2018年現在でもこのAの翻訳本は、船橋市図書館全体で29冊も蔵書されている。2018年2月1日蔵書確認
- ^ 一方でAが図書館を離れた後の著書については1冊も収蔵されていない 2018年2月1日蔵書確認
- ^ 服部公一 「作曲入門」 私の創作現場から 講談社 現代新書 ISBN 978-4061456822 問題を指摘された報道ののちに再購入されている。2018年2月1日蔵書確認
- ^ この担当者がAであるかどうかは出典では明示されていない
- ^ 6か月にわたり給与の10%をカットするという意味
- ^ 坂本多加雄は一連の裁判の途中で故人となったために原告を8人ではなく7人とする出典もある
- ^ 東京地方裁判所は、Aが公衆の面前で原告らの本を積み上げて火を放つなどの方法で著書を処分していれば、公然性の高い行為なので原告らとAの関係においても違法性を問うことが出来るとも説明している
- ^ 適切な公費出費であったかというのは別の問題であるとしている
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 平成14年第2回船橋市議会定例会会議録(第4号・3)
- ^ a b 産経新聞(千葉版)2012年(平成14年)4月21日 船橋市西図書館大量廃棄 全容解明どこまで
- ^ a b c d e 【視点】船橋焚書事件 最高裁が初判断 図書館の公共性強調 産経新聞 2005年(平成17年)7月14日 大阪夕刊 14頁 第2社会 (全533字)
- ^ a b c d e f g h i j k 船橋焚書事件 「つくる会」逆転勝訴 最高裁差し戻し 独断廃棄は利益侵害 産経新聞 2005年7年14日 大阪夕刊 1頁 総合1面 (全1,124字)
- ^ a b c d e f g h i j k l m 損害賠償請求事件 最高裁判所第一小法廷平成16年(受)第930号 平成17年7月14日判決 判決文
- ^ a b c d e f g h i 図書館問題研究会常任委員会 「船橋市西図書館の蔵書廃棄問題について(見解)」2002年5月28日 2018年1月30日閲覧
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 「船橋西図書館の蔵書廃棄事件を考える」『ず・ぼん』2005年11月号、ポット出版。
- ^ 国立図書館著者情報および著書での本人紹介文より
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag 平成15年9月9日判決言渡 平成14年(ワ)第17648号 損害賠償請求事件 東京地方裁判所 判決文
- ^ 読書/“小さな生命”たちの瞳輝く21世紀へ/「子ども読書セミナー」開催/浜四津代行、講師の土橋さんら/読み聞かせの大切さ訴え/党プロジェクトチーム 2000年(平成12年)4月25日 公明新聞 2頁 (全885字)
- ^ a b 著書の筆者紹介文の内容より
- ^ 国立国会図書館サーチ参照(URLは敢えて示さない)
- ^ 読んで聞かせ、心の会話を A・図書館司書 朝日新聞 1989.06.28 東京朝刊 19頁 1家庭
- ^ 子どもに読書の楽しさ伝えよう/党子ども読書運動プロジェクトチーム この1年の取り組みから/多彩な活動に広がる共感の輪 2001.03.09 公明新聞 3頁 (全2,641字)
- ^ ウイメンズナウ/“女性の時代”へ大きく前進/頑張りましたこの一年 活動ピックアップ 2000.12.28 公明新聞 6頁 (全2,046字)
- ^ 図書館司書/Aさんの講演から/子どもに読書の楽しさを/本は成長の糧に、読み聞かせで出会いつくって 2000.05.02 公明新聞 4頁 (全2,154字)
- ^ a b (声)図書館の本を廃棄した心は 朝日新聞 2005.07.18 東京朝刊 6頁 オピニオン2 (全473字)
- ^ 『草原に雨は降る』(子どもの本だな) 1989.04.25 朝日新聞 東京朝刊 17頁 1家 写図有 (全1,575字)から 「出合い狭める対象年齢の表記」(子どもの本だな) 1991.04.03 朝日新聞 東京朝刊 19頁 1家 写図有 (全2,906字)まで
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 山家篤夫「船橋市西図書館の蔵書廃棄事件について(対応報告)」社団法人日本図書館協会図書館の自由委員会委員長 2007年5月20日 2018年1月30日閲覧
- ^ 西部、渡部両氏の著書68冊 市立図書館が廃棄 産経新聞 2002年4月12日
- ^ 2002年(平成14年)4月同図書館検索サービスで蔵書確認
- ^ a b 船橋市西図書館 実用書7日で除籍 産経新聞(千葉版)2002年(平成14年)5月6日
- ^ 産経新聞 2012年5月11日 船橋市西図書館大量廃棄 「女性司書の独断」 船橋市西図書館大量廃棄 「女性司書の独断」市が調査報告 明確な理由はなし
- ^ 船橋市西図書館著書廃棄 刑事告発を市長に要請 産経新聞(千葉版) 平成14年6月4日
- ^ 『焚書坑儒のすすめ エコノミストの恣意を思惟して』ミネルヴァ書房、2009年11月。ISBN 978-4-623-05621-7。
- ^ SAPIO 2002年(平成14年)5月22日号
- ^ ず・ぼん11 タイトル一覧
- ^ 小泉内閣メールマガジン 第46号(2002年5月16日付)編集後記
- ^ 船橋市西図書館の大量廃棄 抗議集会に市民80人 産経新聞(千葉版) 2002年4月21日
- ^ 国会図書館サーチ @韓国・朝鮮語の本−2437 2018年1月31日閲覧
- ^ 国会図書館サーチ おおきなポケット 2004年5月号 2018年(平成30年)1月31日閲覧
- ^ a b ててちゃん―おやこで あそぼう わらべうた (幼児絵本シリーズ) 福音館書店 ISBN 978-4834023374
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 丹治則男『ジャーナリズムの課題』DTP出版 2007年 ISBN 978-4862110459
- ^ (社説)蔵書廃棄 自由の番人でいる重さ 朝日新聞 2005年(平成14年)7月15日 東京朝刊 3頁 3総合 (全1,086字)
固有名詞の分類
平成時代の事件 |
光進事件 和D-53号事件 船橋市西図書館蔵書破棄事件 目黒公証人役場事務長拉致監禁致死事件 第22次西成暴動 |
日本の判例 |
薬害エイズ事件 埼玉県加須市長選挙無効事件 船橋市西図書館蔵書破棄事件 博多駅テレビフィルム提出命令事件 法廷メモ訴訟 |
千葉県の行政 |
船橋市西図書館蔵書破棄事件 松戸簡易裁判所 木更津区検察庁 松戸市役所 千葉県公安委員会 |
千葉県の図書館 |
船橋市西図書館蔵書破棄事件 千葉県立西部図書館 流山市立図書館 千葉市図書館 アジア経済研究所図書館 |
- 船橋市西図書館蔵書破棄事件のページへのリンク