腕時計 防水腕時計

腕時計

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/16 22:24 UTC 版)

防水腕時計

ムーブメントを水分から保護する仕様のケースを装備した腕時計を防水腕時計と呼ぶ。現在では一般に市販されている腕時計の多くが、何らかの防水仕様を備えている。規格については一般用耐水時計の規格として、ISO 2281/JIS B 7021 に記されている。古い防水時計では "Waterploof" ないしはそれに類する表記がされている事例が見られるが[37]、今日の防水時計はいずれも "Water Resistant" またはそれを略した "Water Resist" などが表記に用いられる。 

腕時計の防水機能は、「気圧」もしくは「水深 (m/ft)」で表される。基本的には、小雨に打たれたり日常の水仕事で水がかかっても大丈夫というレベルの「日常生活防水」(3 - 5気圧防水)、水泳や潜水などで着用する10 - 20気圧防水、そして本格的なダイビングに使用される潜水用腕時計(数百メートルから極端なものでは一万メートル防水も)までさまざまなレベルがある。

ただし「3気圧防水」と言っても、「水深30メートルまで大丈夫」というわけではない。この気圧は、静止した状態でこの水圧に耐えられるという意味であり、衝撃や圧力が加わった場合の防水機能は保証されない。水深で表される場合には実際に表記どおり潜ることも可能な性能を持つが、経時的な防水機能の劣化のため、パッキング交換等のメンテナンスを怠ると性能を充分に発揮できずに浸水する場合がある。

防水強度表
使用例 飽和潜水用
300m防水
空気潜水用
200m防水
日常生活強化
20気圧防水
日常生活強化
10気圧防水
日常生活強化
5気圧防水
日常生活
防水
非防水
JIS B 7023 / JIS B 7021 による規定 2種潜水時計 1種潜水時計 2種防水時計 2種防水時計 2種防水時計 1種防水時計
雨や手洗いの際の水しぶきに耐えうる程度の使用
水仕事(炊事・洗濯)に耐えうる程度の使用
ヨット・ボートなどのマリンスポーツ、釣りなど船上作業。プールなどでの軽い水中使用
競泳、素潜りシュノーケリングなどの浅い水中での使用
スキューバダイビングなど空気潜水での使用
飽和潜水での使用

ねじ込み式竜頭

この種の時計は第1次世界大戦前後に出現しており、初期にはガラスののぞき窓と竜頭操作用のねじ込み蓋を備えた別体ケースに腕時計を入れてベルトで装着するものがあった。防水性は確保できるものの操作製が悪く体裁も悪かった。

早期に近代的な防水構造を採用した代表例は1926年のロレックスである。オイスター社が開発した削り出しによる一体構造の「オイスターケース」にパッキングを装備したねじ込み竜頭を備えてコンパクトでスマートな防水時計を実現した。1928年にはロレックスを装着した女性メルセデス・グライツがドーバー海峡横断遠泳に成功、ロレックスの防水性を広く喧伝した。

Oリング防水

ねじ込み式竜頭は原理自体は理想の方法だが、ぜんまい巻き上げや時間合わせで頻繁に竜頭を使うと、摩耗して気密性が下がる弱点がある[38]。それに代わる簡易な手段として裏蓋や竜頭部分のパッキンにOリングを使い防水性を確保する手法が広まった。Oリングの劣化で気密性が下がった場合はOリングの交換で復旧できる。ケース材質もさびにくいステンレス製とし、裏蓋を扁平なねじ込み式として密閉性を高める手法も一般化した。

Oリング方式は第二次世界大戦中には連合国側で通常型の軍用時計に広く使われ、戦後は大衆時計にまで普及した。しかし初期のOリング式防水時計は現代で言う「日常生活防水」レベルの防水性能がほとんどであったため、日本でも1960年代前期に、ユーザーが防水性を過信して着用したまま入浴や水泳を行い時計を故障させるトラブルが続出したことがある。

一部のメーカーは耐久性の要求される時計について、一種の多重ケース構造に近い手法とOリングの併用で気密性をさらに高める方法を採った。「オメガ・シーマスター」シリーズの高性能版はその代表例である[39]

クォーツ時計では廉価に電池交換を請け負う店舗が多く存在するが、この際に防水Oリングの交換や組み込み、再組立てが時計メーカーの指定通りに行われるかは一部のメーカーの指定業者以外では保証が無い。従って、電池交換の際に「電池交換後は防水機能を保証できない」とする時計店もある。

メーカー指定の時計専門店、もしくはメーカーに送付して電池交換を行う場合はOリング交換や防水検査が実施されるのが普通である。

ダイバーズウォッチ

夜光塗料を塗布した文字盤を装備して暗い水中でも視認でき、ねじ込み式竜頭やOリングなどで防水機能を確保することで、水深100m以上の水圧に耐えられる「ダイバーズウォッチ」は、1930年代に軍用向けに出現した。潜水時間や水面帰還時の空気圧を管理する安全上の理由からも、夜光防水時計は必須だったのである。オフィチーネ・パネライのダイバー用大型腕時計はその初期の例であり、軍用型防水腕時計の類例が生産されるようになった。

しかし本格的な普及は第二次世界大戦後となった。1943年にジャック=イヴ・クストーが考案したアクアラング装置が戦後に広まり、スキューバダイビングが容易になったことは普及の契機になったと見られる。

高度な防水性能を持たせ、水中での視認性に優れた夜光式の時分針と、大ぶりな夜光塗料ドットを等間隔配置した文字盤、潜水時間管理に利用できる回転式ベゼルを装備した民生向け市販腕時計の最初は、1953年にブランパンが発表した「フィフティファゾムズ」(Fifty Fathoms) で、このモデルはクストーがルイ・マルと製作した海洋記録映画『沈黙の世界』(1956年)撮影でも用いられた。その後の多くのダイバーズ・ウォッチは、多かれ少なかれフィフティファゾムズのデザインの影響を受けた回転ベゼル付きの類似デザインが多数派となっている。


  1. ^ たとえば、「シチズン」ブランドのクロック事業を担っているのは「リズム」だ、といったように。
  2. ^ a b c 中央公論社『時計の社会史』
  3. ^ a b Marco Richon『OMEGA SAGA』Chap.7
  4. ^ WATCH WIKI "SANTOS" [1]
  5. ^ 沿革|セイコーホールディングス株式会社
  6. ^ a b c d e 『時計史年表』p.180。
  7. ^ a b WATCH WIKI "MEGA1" [2]
  8. ^ a b 世界初、人工衛星から時刻情報を受信する光発電時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」”. シチズンホールディングス (2011年6月15日). 2013年6月23日閲覧。
  9. ^ 世界初の「GPS+電波受信」、ハイブリッドG-SHOCK発表――カシオ”. ITmedia (2014年6月25日). 2020年4月17日閲覧。
  10. ^ カシオ、世界初の3つの時刻取得システムを搭載した「G-SHOCK」”. PC Watch (2017年3月1日). 2020年4月17日閲覧。
  11. ^ 『軍用時計物語』
  12. ^ 第一次世界大戦による腕時計の軍隊での普及”. セイコーミュージアム. 2019年12月10日閲覧。
  13. ^ 長尾善夫・木村好孝『戦後の国産腕時計』(1994年 トンボ出版)p28での長尾の記述による。
  14. ^ a b c 『世界の特選品 時計大図鑑』p.133。
  15. ^ From the roots until today's achievements..”. Federtywfdywoiration of the Swiss Watch Industry. 2007年12月6日閲覧。
  16. ^ a b c 『世界の特選品 時計大図鑑』p.134。
  17. ^ セイコー クオーツアストロン 35SQ(エプソン マイルストンプロダクツ)
  18. ^ 一方でマニュファクチュールと呼ばれる、一部の特殊なパーツを除きムーブメントの開発・製造から組み立て、仕上げまでを一貫して行えるメーカーも存在し続けている。
  19. ^ 成功体験から、産業全体が抜け出せない(10ページ目) | 日経クロステック(xTECH)
  20. ^ 世界初。全世界39のタイムゾーンに対応。ソーラーGPSウオッチ<セイコー アストロン>衛星シグナルをキャッチし、地球上どこでも現在時刻をすばやく取得”. セイコーウオッチ (2012年3月5日). 2013年6月23日閲覧。
  21. ^ ソニー×カシオ! 世界初「GPSハイブリッド電波時計」のキーデバイスに迫る!|マイナビニュース(2014年3月26日付 マイナビ
  22. ^ ハイブリッドの“G-SHOCK”を発売 - 2014年 - ニュースリリース(2014年6月25日付 カシオ計算機)
  23. ^ ASCII.jp:カシオ計算機、世界初フルメタルGPS電波やBluetooth腕時計(2014年9月3日付 ASCII.jp編集部)
  24. ^ 老舗シチズン「アップルと戦わない」時計戦略(世界初のBluetooth腕時計はシチズン製)”. 東洋経済ONLINE (2018年11月11日). 2020年4月17日閲覧。
  25. ^ 腕時計を着けていても、半数が「携帯電話で時間を確認」 - japan.internet.com デイリーリサーチ
  26. ^ Apple Watchが世界を変えた?試験会場への腕時計持ち込み禁止が世界で広まる”. INTERNET Watch (2015年3月23日). 2017年8月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月18日閲覧。
  27. ^ 『ビスカススイープシステムの開発』NAID 110002775858
  28. ^ SEIKO TECHNOLOGY
  29. ^ SEIKOのニュース - セイコーウオッチ株式会社
  30. ^ マリーンマスタープロフェッショナル スプリングドライブ搭載モデル(プロスペックス「海」) プロスペックスについて - セイコーウオッチ株式会社
  31. ^ SEIKOのニュース - セイコーウオッチ株式会社
  32. ^ コスパ最高のシンプルウォッチ「チープカシオ(チプカシ)」おすすめ4選&売れ筋ランキング【2022年1月】 - Fav-Log by ITmedia
  33. ^ チープカシオが世界中で大ブレイク!オススメランキングBEST5|腕時計本舗|公式
  34. ^ チープカシオが大ブーム中! 1万円前後で買える大人の腕時計「G-SHOCK」のベストモデル | GetNavi web ゲットナビ
  35. ^ https://news.mynavi.jp/article/20130517-a090/
  36. ^ http://www.swatchgroup.com/en/services/archiv/2013/swatch_sistem51
  37. ^ 時計の防水に関する本体記載の表現はかつて統一されていなかった。シチズンの場合、先行して導入した耐震機構を「パラショック」と名付けたため、その後に開発された1960年代の防水時計で「パラウォーター」"Para Water" を呼称していた時期がある。
  38. ^ ロレックスがいち早く1930年代初頭に高効率の全回転式自動巻き機構を実用化した動機には、竜頭の摩耗を回避して防水性能を長期維持する意図があった。このため防水型の自動巻きロレックスは、「バブルバック」と通称される厚手な構造になっていた。
  39. ^ オメガの「シーマスター」シリーズは1948年から市販されているが、当初は単純に「防水モデル」を意味するネームであり、1960年代以前は「日常生活防水」レベルの初歩的な防水モデルも含まれていた。従って、すべてのシーマスターが多重ケース構造を用いているわけではない。






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