生活総和
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/09 16:00 UTC 版)
方法
日本国内においても、朝鮮総連では、幹部の合宿生活などの中で自己批判、相互批判をさせられるという[13]。「自分の兄弟もオルグできなくて、なにが革命家か」「それくらいの自制心もなくて何が革命家か」などとなじられ、「恥を知れ」「金日成将軍に謝れ」と相手が泣き出すまで延々とこれを続けさせられる[13]。相手のプライバシーを徹底的に暴き、そのプライドを完膚なきまで壊滅させる[13]。隠されていた人間の本能を剥き出しにし、人によっては発狂寸前までいくことがある[13]。
北朝鮮系の在日朝鮮人学校である朝鮮学校においても、カリキュラムの一環として、在籍する児童・生徒にさせる自己批判の場合は、一番初めに「百戦百勝の鋼鉄の霊将であり、国際共産主義運動と労働運動の卓越した領導者の一人である、四千万朝鮮人民の敬愛なる首領・金日成元帥様に」と前置きし、「私は~をしました。すみません」である。教師が毎日最後に教室で「今日、日本語を話した人は?」など生徒に聞くと、さっきまで一緒に遊んでいた子でも日本語を話していたことを暴露する。暴露された者は自己批判をさせられて、「私の思想信条は、たいへん悪いものでした」と言わされるのである。在日韓国人の辛淑玉は、一時朝鮮学校に通った経験をもつが、「暴力的なことがあって、『私は殺される』との恐怖を味わったから、朝鮮学校を去った」ことを明かしている[14]。
北朝鮮国内にある学校では小学校時代から毎週、「教示(キョシ)」という金正日の発言を引用して、自己批判では「だけど私は、その御言葉に沿った生活が出来ませんでした」、「私は金日成将軍様の教えをよく守りませんでした。二度と~しないよう誓います」というふうに反省して、「それでは、今日は◯◯トンムを批判します[注釈 2]」というかたちで進める。逆パターンもあり、「〇〇トンムについて非難します。〇〇トンムはこの間、~をしました。それは組織を無視する行動であり、それが金日成将軍様の教えに反する一歩になるので必ず治してください」と批判し、◯◯が立ち上がって「すいませんでした」と謝罪する。次の週は、前週に批判された者が批判して、前回の集会で◯◯トンムを批判した者が立ち上がって「はい、すいませんでした」と謝罪するといったものである[3]。
生活総和は土曜日の午前から昼にかけて行われることが多く、午後は政治学習にあてられる[10]。多くの国民は内心うんざりするくらい退屈な時間と考えており、忌み嫌っているが、相互批判をしなければそれ自体が批判の対象となる[10]。一方で、生活総和には「同志愛」の表現である「同志の批判」に口答えしてはならないという鉄則がある[12]。反省といっても政治的に敏感な話題はタブーで、些細な欠点や怠慢を「反省してみせる」という要領の良さが必要である[10][12][注釈 3]。欠点がどうしても思い浮かばなければ、無理やり「捏造」することさえあるという[10]。他人の欠点をあげつらって批判する「相互批判」も決して気持ちのよいものではないが、批判される側はなおさらであり、これで人間関係に亀裂が生じることも少なくない[10]。そのため、嫌々ながらも相互批判することになるが、人間関係がわるくなるのを防ぐために、「今回は私が君を批判するから、来週は君が私を批判しろ」 など、事前に「仕込み」がなされる場合も多い[10]。人びとの多くは、生活総和を無難にやりすごそうとするが[10]、これを他者に対する人格攻撃に利用しようと考える者もいる[15]。ライバルを追い落とすためにありもしない事実で他者を攻撃することも行われ、それが捏造や誇張をふくむものだったことが発覚すると多くの場合、処分を受けることとなる[15]。処分を受けた人々は、現場責任者の歓心を買おうとして賄賂を贈ることが多い[15]。結局のところ「生活総和」は北朝鮮に密告社会をもたらし、相互不信とルールからの逸脱をはびこらせる場にさえなっている[15]。
注釈
出典
- ^ 安明哲(1997)
- ^ “【現場録音 日本語訳】北朝鮮住民の「生活総和」”. アジアプレス・ネットワーク. アジアプレス・インターナショナル (2009年11月13日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ a b c 「北朝鮮の人々は生涯、なんらかの組織に所属する」 - アジアン・レポーターズ
- ^ “【朝鮮半島ウォッチ】拷問、犬刑、密告、政治収容所 恐怖支配強まる金正恩の北朝鮮”. 産経新聞 (2013年12月23日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ a b “【張真晟のインサイド北朝鮮】張氏処刑を主導 党組織指導部 強力な権限”. 産経新聞 (2013年12月28日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ “北朝鮮の住民監視”. ニュース百科|Web東奥. 東奥日報社. 2022年9月9日閲覧。
- ^ a b c d e 石丸次郎 (2016年4月5日). “目論みは金一族支配の永続化だ 対外秘の最高綱領「10大原則」とは何か(1)”. アジアプレス・ネットワーク. アジアプレス・インターナショナル. 2021年10月23日閲覧。
- ^ “手記・私が受けた批判集会「生活総和」(1)民衆が一番嫌う批判集会は独裁の要”. アジアプレス・ネットワーク. アジアプレス・インターナショナル (2016年3月1日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ 重村(2002)p.183
- ^ a b c d e f g h i j “全国民に忌み嫌われる批判集会=「生活総和」の秘密録音を公開”. 北朝鮮内部からの報告. アジアプレス・ネットワーク (2016年4月5日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ “北朝鮮、10大原則修正し思想統制強化”. DailyNK News. デイリーNK (2013年9月25日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 蓮池(2014)pp.114-115
- ^ a b c d 韓光煕(2005)pp.81-87
- ^ 不登校新聞「辛淑玉さんインタビュー1」 【10年7月特集-辛淑玉さんインタビュー】
- ^ a b c d “手記・私が受けた批判集会「生活総和」(3) ライバル追い落としのために批判で攻撃”. 北朝鮮内部からの告発. アジアプレス・ネットワーク (2016年3月8日). 2021年10月23日閲覧。
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