温泉療法 有効性

温泉療法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/09 06:27 UTC 版)

有効性

2019年までの21世紀の文献の調査では、温泉療法に関する18のランダム化比較試験があり、腰痛や膝や股の関節痛など筋骨格系の研究が多く、それらでは痛みの緩和と生活の質の向上をもたらしていた[3]。熱傷性瘢痕(火傷の傷跡)に対する温泉療法のシステマティックレビューでは、3研究があり肯定的な効果があると言及しているが、強い科学的証拠はない[4]

健康者でのランダム化比較試験では、温泉併用者(週2で運動30分と温泉)は、運動のみ(運動のみ60分)よりも脂質の値、特に中性脂肪値を改善し、両者ともに体重、血圧、体力を改善し、抑うつ・敵意などは減少した[2]。温泉療法により糖尿病でない者や温泉療法を行っていない者にはみられない、温泉療法による抗動脈硬化作用、抗炎症作用、血管内皮機能改善作用が糖尿病の人で示されている[5]。気管支喘息やCOPDなど呼吸器疾患では肺機能の改善が見られる[6]

強い酸性の泉質をもつ草津温泉での126名平均2か月半の温泉療法により、アトピー性皮膚炎に対し皮膚症状の改善は約80%、痒みは約58%を軽減しており、皮膚症状が改善しない場合は痒みは改善しにくかった[7]

温泉療法の問題

専門知識の不足による病状の悪化や誤解
温泉療法は温泉療法医をはじめとする医師の管理の下、行うべきものである。個人的な判断で入浴すると(セルフメディケーション)禁忌症に触れたり、飲用許可の無い飲泉で例えば強酸性の温泉水に歯のエナメル質を溶かされたり、鉛などの有害含有物質に健康を蝕まれるなどの健康被害の恐れがある。[8] 温泉によっては正しい入浴法が導かれているにもかかわらず、それを守らないことによって十分な効果が得られないケースがある。しかし、これらは温泉による効能、効果が直接的な因果関係を持たないため、体を害していることに気付かないことが多い。
純粋な療養客、湯治客と一般客、地元住民との衝突
今日では療養、湯治、保養温泉として知られる一方で、一部では行楽温泉として発達したケースもあり、そのような温泉地では共同温泉、浴用施設などにおいて、一部の心ない旅行客や地元住民によって純粋な療養客からの苦情を生ずる場合がある。このような対策として、一般旅行客に対してマナー運動を呼びかけたり、温泉地での条例、ルールを決めたりするほか、療養客専用の共同浴場や一般客宿泊お断りの温泉なども存在する。
泉質の真偽
温泉法による成分表示は、以前はあくまで源泉での段階に基づくものであり、そこから引湯された温泉は湯量の少なさなどを理由に殺菌、循環されることがある(いわゆる循環式)、また湯量を確保するために加水したりすることがあり、このような温泉では、本来の温泉の効能を得るのは難しいとされる場合があった。一部の温泉はイメージ低下を避けるために、これらの部分を黙認、隠匿している部分があるとされ、また源泉をそのまま利用して源泉をそのまま掛け流しにする温泉を、「源泉掛け流し式」などと呼んで盛んに喧伝し、湯治、療養に用いられる温泉は大半がこの類となっている。
環境省は2005年2月、施行規則の一部改正をし、今までの成分表示に加え、浴槽内の温泉の状況(加水・加温・循環装置・入浴剤など)についても表示しなければならないこととした。これは、2004年中に、白骨温泉(入浴剤使用)、伊香保温泉(水道水使用)など各地の温泉での実態報道(いわゆる温泉偽装問題)が相次ぎ、適正な温泉利用に関する議論が世間の関心事となってきたことによる。

脚注


  1. ^ 放射線にはどんな歴史があるの?”. 日本アイソトープ協会. 2020年8月30日閲覧。
  2. ^ a b 上馬場和夫、許鳳浩、矢崎俊樹、上岡洋晴「総合的な温泉療法の健康増進効果に関する検討」『日本温泉気候物理医学会雑誌』第69巻第2号、2006年、128-138頁、doi:10.11390/onki1962.69.128 
  3. ^ Kamioka H, Nobuoka S, Iiyama J (2020). “Overview of Systematic Reviews with Meta-Analysis Based on Randomized Controlled Trials of Balneotherapy and Spa Therapy from 2000 to 2019”. Int J Gen Med 13: 429–442. doi:10.2147/IJGM.S261820. PMC 7383020. PMID 32801839. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/pmid/32801839/. 
  4. ^ Gravelier C, Kanny G, Adetu S, Goffinet L (2020-9). “Spa therapy and burn scar treatment: a systematic review of the literature”. Int J Biometeorol. doi:10.1007/s00484-020-01988-9. PMID 32875343. 
  5. ^ 松村美穂子、増渕正昭、森山俊男「温泉療法による糖尿病患者の抗動脈硬化作用について:非糖尿病患者、非温泉療法施設との比較検討」『日本温泉気候物理医学会雑誌』第77巻第3号、2014年、257-265頁、doi:10.11390/onki.77.257 
  6. ^ 光延文裕、保崎泰弘、芦田耕三、濱田全紀、山岡聖典、谷崎勝朗「呼吸器疾患に対する温泉療法 ―その臨床効果と作用機序―」『岡大三朝医療センター研究報告』第75号、2004年12月1日、61-73頁。 
  7. ^ 田村耕成、久保田一雄「アトピー性皮膚炎のかゆみに対する草津温泉療法の効果」『日本温泉気候物理医学会雑誌』第65巻第1号、2001年、19-19頁、doi:10.11390/onki1962.65.19 
  8. ^ 玉川温泉の「浴用」温泉水を飲むのは危険です!【北投石水.com】






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