曹士の能力活用 メリットとデメリット

曹士の能力活用

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/06 20:51 UTC 版)

メリットとデメリット

上級下士官に対する自覚と責任を付与することにより、部隊の活性化・下士官間の融和団結の強化に資することができる反面、一部反対意見も存在する。

デメリットとして挙げられる点は、高齢化に伴い余剰となった准尉・曹長階級の雇用促進程度の意味合いしかなさない場合がほとんどであり、「実際に機能するのか疑わしい」というものがあり、また別の理由として、定年退職間際の人物が、画期的なアイデアをもって部隊を活性化などするわけがなく、定年が見えてきたならば、無事に退職金が満額もらえるよう、より保守的、形式的になり、組織を硬直化させ、部下に対しても懐疑的で神経質な接し方をするのが人間の心理であるというものもある。

さらに、上級曹長離任後の処遇に関しても問題となっており、初代陸上自衛隊最先任上級曹長であった鈴木准尉は離任後に古巣の13普連に転属しているが、部隊側は「陸上自衛隊最先任上級曹長を下番した方に一般部隊で他の隊員と同室での勤務をさせる訳にはいかない」と個室を用意し連隊本部直轄勤務の待遇を用意したが、結局本人による固辞で通常の部隊勤務に復帰した例などあり、一般部隊においても下番した上級曹長の待遇をどうすべきか判断に迷ったあげく、数年に渡り上級曹長職が下番できないという本末転倒な状況のところもあり、今後の改善・検討の必要が出ている。

付准尉時代は勤務成績よりも部隊勤務の経験年数で選抜されていた事もあり、早期昇任していた比較的若年の准尉を差し置いて部隊最古参の定年間近の1曹が職務に上番し、中隊長や若手幹部を適宜指導監督[20]していたが、最先任上級曹長制度が基本原則として勤務経験等に関係無く、純粋な階級での選抜たる准尉または序列上それに準じた曹長に事実上限定されるうえ、中隊等の部隊経験が少なく訓練隊等しか経験しない上曹も当該職務に就く事ができるために、指揮官への適切な指導助言がなされなくなった点もあげられる[21]。そういった関係から、昭和時代から平成初期まで行われていた若年幹部や部隊経験年数が少ない各級指揮官への指導も現在ではされなくなり、誤った知識と経験をそのまま指導矯正されない幹部が昇任する等、制度上形骸化されているとされている。

メリットとして挙げられる点は、在日米軍を始めとした諸外国軍に対するカウンターパートの明確化、また防衛大学校や一般大学出身の若い幹部を支えるに当たって、ベテランの下士官が階級制度とは別個に意見具申ができる事を制度上確保することは正しいという考えがある[22]


  1. ^ “初代小畑良弘准陸尉が着任 統幕最先任下士官”. 朝雲新聞. (2012年4月26日). オリジナルの2012年7月24日時点におけるアーカイブ。. https://archive.ph/20120724182819/http://www.asagumo-news.com/news/201204/120509/12050904.html 2012年5月31日閲覧。 
  2. ^ “初代から第2代へバトンタッチ統幕最先任下士官に渡邊満徳准陸尉”. 防衛ホーム. (2013年10月1日). https://www.boueinews.com/news/2013/20131001_2.html 2023年6月8日閲覧。 
  3. ^ “第3代統合幕僚監部最先任下士官に宮前稔明准海尉”. 防衛ホーム. (2015年10月1日). https://www.boueinews.com/news/2015/20151001_1.html 2023年6月8日閲覧。 
  4. ^ “統合幕僚監部最先任交代式”. 防衛ホーム. (2021年12月15日). https://www.boueinews.com/news/2021/20211215_3.html 2023年6月8日閲覧。 
  5. ^ a b 防衛省統合幕僚監部 [@jointstaffpa] (2021年11月26日). "本日、統合幕僚監部最先任 の交代行事が実施されました。". X(旧Twitter)より2021年11月26日閲覧
  6. ^ a b c 防衛省統合幕僚監部 [@jointstaffpa] (2023年6月6日). "関3尉の後任として、甲斐准尉が第7代統合幕僚監部最先任に着任しました。". X(旧Twitter)より2023年6月6日閲覧
  7. ^ a b c d e f g 防衛力の人的側面についての抜本的改革に関する検討会 報告書等」、平成19年6月28日、防衛力の人的側面についての抜本的改革に関する検討会
  8. ^ a b c 第7回人事関係施策等検討会議議事録」、人事関係施策等検討会議
  9. ^ 昇任・昇給や士における曹候補生への指定は従来からの通り中隊等上級曹長の意見も反映されている
  10. ^ 通常1佐・2佐が隊長職として指定されている駐屯地業務隊の先任は、中隊等最先任上級曹長に分類する
  11. ^ 師団等最先任上級曹長課程教官
  12. ^ a b c 「第7代最先任に根本准尉 統幕長ら高橋准尉見送る (2019年6月28日)」 朝雲新聞(2019年7月11日付)
  13. ^ 陸上自衛隊 [@JGSDF_pr] (2022年1月25日). "陸自 最先任が根本准陸尉から村脇准尉に交代しました。". X(旧Twitter)より2022年2月10日閲覧
  14. ^ 新年のご挨拶を申し上げます防衛省高官、先任 年頭メッセージ”. 防衛ホーム (2022年1月15日). 2022年2月10日閲覧。
  15. ^ 陸上自衛隊 [@JGSDF_pr] (2024年2月6日). "令和6年1月30日(火)防衛省庁舎講堂において、陸上自衛隊最先任上級曹長交代行事が執り行われ、第9代陸自最先任に綿引光佐准陸尉が着任し、第8代村脇准陸尉から引き継がれました。". X(旧Twitter)より2024年2月6日閲覧
  16. ^ 隼人千里「”あたご事故”の底流にあるもの」、『軍事研究』2008年10月号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2008年10月1日発行 ISSN 0533-6716、p.202
  17. ^ 防衛省 海上自衛隊 [@JMSDF_PAO] (2023年12月22日). "12月21日、海上自衛隊先任伍長交代式が行われ、北口武史海曹長が第7代先任伍長に指定されました。". X(旧Twitter)より2023年12月22日閲覧
  18. ^ 部隊を隷属させることにより編制部隊でない部隊を組織することを編合といい、編合された部隊を「編合部隊」という。
  19. ^ 防衛省 航空自衛隊 [@JASDF_PAO] (2023年5月24日). "5月23日、市ヶ谷基地において航空自衛隊准曹士先任交代式が行われ、第8代航空自衛隊准曹士先任に髙着(こうちゃく)弘康 准空尉が上番しました。". X(旧Twitter)より2023年5月24日閲覧
  20. ^ かつて中堅や上曹が「鬼軍曹」と呼ばれていた所以
  21. ^ Soyou等にて各部隊の先任上級曹長へのインタビューに付准尉時代の話などが載せられている
  22. ^ 意見具申は以前から実務上は普通に行われているが、あくまで「私的な会話」という扱いであったため、平常時は問題は無いが、「最悪」な事態が生じた場合の責任の曖昧さが問題になる


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