心電図 心電図の電気生理学的裏づけ

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心電図

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 14:44 UTC 版)

心電図の電気生理学的裏づけ

12誘導心電図を理解するうえでは心電図の基本となる誘導理論のほかにいくつかの電気生理学的な知見が役に立つ。特に理解の助けとなるのはナトリウムチャネルカリウムチャネルカルシウムチャネルイオンポンプギャップジャンクションといった分子の電気生理学的性質に基づいた説明である。

ナトリウムチャネル

ナトリウムチャネルは固有心筋及び特殊心筋の興奮の伝導を行うのに適した特性を担っている。心筋の活動電位の立ち上がり速度はNaチャネルの開口率によって規定されている。電位依存性のチャネルであり閾値以下の刺激で開口することはなく、閾値以上の刺激に対して機敏に開口し、すばやく不活性化状態となる。その後、心筋が十分な収縮を行えるよう十分な不応期をとる。ナトリウムチャネルは活性化は-55mVで生じ-40mVでは不活性化状態となる。深い静止膜電位を活性化させる能力はあるものの浅い指趾膜電位では活動電位の発生を起こさないという特徴をもつ。Naチャネルの変異としてはQT延長症候群ブルガダ症候群があげられる。

カルシウムチャネル

カルシウムチャネルはL型のチャネルが心臓では重要な意義を持っている(T型チャネルは洞房結節などでは生理学的な意義がある)。カルシウムチャネルは他のチャネルと異なり、開口率が上昇すると細胞内、細胞外のイオン濃度の変化がおこる。カルシウムイオンは心筋の収縮力を決定する因子であるためにカルシウムチャネルからのイオンの流入は非常に重要である。カルシウムチャネルはナトリウムチャネルと比べて活性化に時間がかかる。脱分極後のプラトー相の形成に重要な役割があると考えられている。また浅い膜電位でも不活性化されないため特殊心筋の自動能の形成で重要な役割がある。一定時間開口すると不活性化し、不応期をつくるのはナトリウムチャネルと同様である。

カリウムチャネル

カリウムチャネルは非常に多彩な仕事がある。静止膜電位を負に維持する仕事、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネルによって活動電位や脱分極が起こったとき、一定の時間で再分極を起こす仕事などがある。これらの役割を行うにあたりカリウムチャネルは複数知られている。電位依存性カリウムチャネル(Kv)と内向き整流型カリウムチャネル(Kir)である。

電位依存性カリウムチャネル
これらによって起こる電流としては一過性外向き電流と遅延整流性カリウム電流が知られている。ともに外向きのカリウム電流と考えられている。一過性外向き電流は脱分極後、内向き電流の過剰を矯正する電流である。遅延整流性カリウム電流はプラトー相形成後、徐々に再分極をおこすための電流である。電位依存性カリウムチャネルは数種類のサブタイプが知られている。
内向き整流型カリウムチャネル
このチャネルは内向きにも外向きにも電流を流しえるが内向きの方により電流を流しやすいという特性をもつ。このチャネルの主要な役割は静止膜電位の維持である。このチャネルが開閉を繰り返すことで一定の静止膜電位が作られている。また-40〜-90mVの間で外向き電流を起こすため膜の再分極にも寄与している。逆に-40mVより浅い膜電位ではこのチャネルによる再分極を期待できず、異常自動能が発生しえる。またこのチャネルは血中のカリウム濃度によって電気的な性質が変化するため、カリウム濃度異常の場合は心電図変化及び不整脈が発生しやすくなる。ATP感受性カリウムチャネルアセチルコリン感受性カリウムチャネルもこの群に所属している。

イオンポンプ

心筋のイオンポンプとしてはナトリウムカリウム交換系、ナトリウムカルシウム交換系、ナトリウムプロトン交換系が知られている。ジギタリスはナトリウムカリウム交換系を阻害することで細胞内ナトリウム濃度が増加し、ナトリウムカルシウム交換系の働きにより細胞内カルシウム濃度が増加し陽性変力作用となる。抗不整脈薬の多くはナトリウムチャネルを阻害し、ナトリウムカルシウム交換系の働きが弱くなることで、陰性変力作用が生じると考えられている(但し、ナトリウムチャネルの阻害で細胞内ナトリウム濃度が変化するかという点には反論もある)。

ギャップジャンクション

コネキシンの量や分布で心筋細胞間の伝導は規定されている。心筋梗塞や心肥大ではコネキシンの分布、量の変化が起こり不整脈の発生の原因となる。また心筋の線維化も不整脈の機序となる。

ペースメーカー電位の発生

洞房結節では内向き整流性カリウムチャネルが存在しないためか-90mVの静止膜電位に維持ができず、膜電位が変動しやすい状況となっている。-40mVでは電位依存性カルシウムチャネルによる脱分極がおこり、活動電位が発生する。遅延整流カリウムチャネルの働きで再分極も起こるが、内向き整流性カリウムチャネルが存在しないためカリウムの静止膜電位に維持ができず、遅延整流カリウムチャネルが脱活性化することによって-40mVあたりの電位になってしまい、次の興奮が始まってしまう。


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