弁証法 キルケゴールにおける弁証法

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弁証法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/14 13:21 UTC 版)

キルケゴールにおける弁証法

キルケゴールはみずからの弁証法を質的弁証法と呼び、ヘーゲルのそれを量的弁証法と呼び区別した。たとえば美的・倫理的・宗教的実存の領域は、質的に本質を異にし、そこにはあれもこれもでなく、あれかこれかの決断による選択、あるいは止揚による総合でなく、挫折による飛躍だけがある。

実存は、成りつつあるものとして無限への無限な運動、また単なる可能でない現実としてつねに時間的であり、その時間における運動は、決断とその反復において、時間における永遠を満たす。矛盾によって各々の実存に対して迫られた決断における真理の生成が、主体性の真理であり、主体的かつ実存的な思惟者は、いわば実存しつつ問題を解く。


絶対弁証法

上記のヘーゲルの、「運動の弁証法」が形式論理内にある弁証法としてはアリストテレスのそれよりも代表的だったところ、西洋に特有の無矛盾の静的な(もしくは無矛盾化する運動を可能とする)形式論理、を超えた形式背理の側から、西田幾多郎が「絶対弁証法」であるとしているものがある。そこでは止揚されるべき矛盾はそれが可能な(形式論理下の)相対矛盾ではなく絶対矛盾であり、その結果、矛盾の止揚を経て自己同一性を保持するのではなく自己矛盾にあり、運動と静止が同時存在する。このようなニュアンスを帯びるため、これは弁証法と呼ぶべきでないとする主張が、同じく形式背理に即して西田の系譜にある木岡伸夫からもその著『<あいだ>を開く』で出ている。しかし、運動が未発ではあっても、怠惰のために静止にあるわけではなく、弁証法運動への精神は旺盛にあるが形式論理にある問題を見据えるために動けないのだ、ということを理解してここに添えておくのが、弁証法を総体的に、東西両洋を超えた視点で理解するために適切である。


否定的弁証法(/ヘーゲルの弁証法を正の弁証法とした意味での「負の弁証法」とも訳せる。)

直上の西田幾多郎が「絶対弁証法」と呼ぶものが、アドルノが1966年の書Negative Dialektikで「否定的弁証法/負の弁証法negative Dialektik 」と呼ぶものにほぼ合致している。時代的に西田の主張が先行している。(1949年刊行の西田幾多郎全集第XI巻に所収の論文「場所的論理と宗教的世界観」では既に使われている)アドルノのその呼称で意味するものは、「存在するものと考えられるものとの間の同一性という概念を前提としないような、またそのような概念のうちに帰着しないで、まさしくその反対物を明示しようとする、つまり、概念とものとの間の、主客の間の、分離志向を、そしてそれらの間の非宥和性を、明示しようとする哲学の起草」である。西田が形式論理への批判という根源的否定性から行きついているに対して、アドルノの“否定的”弁証法には、存在の同一性に基づいたものである形式論理を否定するまでの否定性はない。


注釈

  1. ^ 意識は意識外の物を対象とする。一般に真理は対象の方に、確実性は意識の方にあると常識は考える。意識の経験は対象と意識の分裂態における経験である。
  2. ^ 悟性の立場を通り意識の経験は対象と意識との一致する自覚の状況に進み、真理と確実性とは合致し、意識は他の意識ではなく自己自身の意識である。
  3. ^ エヴァリッド・ヴァシーリエヴィチ・イリエンコフ(ロシア語: Э́вальд Васи́льевич Илье́нков, ラテン文字転写: Evald Vassilievich Ilyenkov、1924年2月18日—1979年3月21日)。ソビエト連邦の哲学者。マルクス主義哲学を研究。チェルヌイシェフスキー賞受賞者。著書に『カール・マルクスの「資本論」における抽象的なものと具体的なものの弁証法』、『偶像と理想について』。訳書にヘーゲル『大論理学』(ローゼンターリ、シトコフスキーとの共訳)。1979年に自殺。イリエンコフ『資本論の弁証法(カール・マルクスの「資本論」における抽象的なものと具体的なものの弁証法)』花崎皋平訳、合同出版、1979年、pp.369-377

出典

  1. ^ 高山岩男『辨證法入門』弘文堂、1949年、p.3
  2. ^ ディオゲネス・ラエルティオス 著、加来彰俊 訳『ギリシア哲学者列伝(下)』岩波書店、1994年、114-118頁。ISBN 4-00-336633-6 
  3. ^ プラトン『パイドロス』藤沢令夫訳、岩波文庫、1967年、p.111
  4. ^ 高山岩男『辨證法入門』弘文堂、1949年、p.15
  5. ^ 高山岩男『辨證法入門』弘文堂、1949年、p.8
  6. ^ カール・マルクス『資本論』第1巻、前文
  7. ^ イリエンコフ『資本論の弁証法』花崎皋平訳、合同出版、1979年、p.7


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