カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と熱帯保護林 登録経緯

カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と熱帯保護林

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/04 08:54 UTC 版)

登録経緯

「建造物II」に残る石碑

1972年にカラクムル遺跡は文化財保護関連の法令によって保護され、1989年5月に周辺の自然環境が生物圏保護区に指定された[34]

世界遺産には、まずカラクムル遺跡のみが推薦された[35]。推薦された範囲でもごく一部しか解明されていない状態ではあったが[16][11]世界遺産委員会の諮問機関である国際記念物遺跡会議 (ICOMOS) は、カラクムルがマヤの主都の一つであるとともに、その建造物群が地域の政治的・宗教的生活様式や12世紀にわたる発展様式をよく示していること、その記念碑群が美術的にも優れていることなどからその顕著な普遍的価値を認め、「登録」を勧告した[36]。そして、2002年の第26回世界遺産委員会にて、正式登録を果たした。当初の面積は3,000 ha、緩衝地域は147,195 ha であった[37]

その後、2001年に暫定リストに記載されていたカラクムル生物圏保護区も含む拡大推薦が、2013年1月23日に行われた[38][注釈 3]。その推薦範囲は、当初の面積の110倍以上にもなる331,397 ha となった[14]。その推薦を受けて、ICOMOSは大幅に拡大された面積には250箇所もの関連遺跡があるものの、その範囲内にある遺跡で価値の証明に必要な遺跡が全て含まれているかどうかの証明が不十分として、「登録延期」を勧告した[39]

他方、自然遺産関連の諮問機関であるIUCNは、生態系生物多様性の潜在的価値を認めつつも、カラクムル生物圏保護区全体の半分ほどに設定された推薦範囲で完全性を満たしているかなどを疑問視し、範囲の再考も含めて「登録延期」を勧告した[40]

これらの審議を踏まえた第38回世界遺産委員会(2014年)では、委員国の関心は自然遺産の要素を認められるかに集中し、文化遺産の拡大範囲の適切性は論点とならなかった[41]。そして多くの委員国は生物圏保護区に指定されていることからその価値に好意的で、拡大を承認する意見が相次いだ[42]。その結果、世界遺産の範囲の設定には今後の再検討の余地がある旨が付記されたものの、逆転での登録を果たした[43]

この拡大登録以前にも、オフリド地域の自然・文化遺産セント・キルダトンガリロ国立公園ウルル=カタ・ジュタ国立公園リオ・アビセオ国立公園ンゴロンゴロ保全地域など、拡大によって複合遺産になった事例は存在した。しかし、それらはいずれも自然遺産として登録されていた物件の文化的価値が追認されたものであった。それに対し、カラクムルは文化遺産が拡大されて複合遺産となった最初の例である[43]。また、メキシコの世界遺産としては、初の複合遺産でもある。


注釈

  1. ^ 佐藤 2006a(p.2)や市川 2014では6,250、関 & 青山 2005では6,345となっている。
  2. ^ 佐藤 2006aではメキシコで2番目とされており、IUCN 2014ではメキシコ最大とされている。
  3. ^ 2009年の第33回世界遺産委員会での審議のため、その締め切りである2008年2月1日までに推薦書が提出されたことはあったが、書類不備で審議されなかった(List of complete nominations received by 1 February 2008 and for examination by the Committee at its 33rd session (2009) (WHC-08/32.COM/INF.8B3.Rev), p.2)。
  4. ^ 見出しでは「カンペチェ州、カラクムールの古代マヤ都市と保護熱帯林」だが、本文中には「カンペチェ州、カラクムールの古代マヤ都市と熱帯雨林保護区」とある(東京文化財研究所 2014, p. 241)。
  5. ^ 佐藤 2006aICOMOS 2014は60 km、地球の歩き方編集室 2014は55 km としている。

出典

  1. ^ a b c 佐藤 2006b, p. 2
  2. ^ a b c d e f g 市川 2014, p. 281
  3. ^ 佐藤 2006b, p. 3
  4. ^ 佐藤 2006b, p. 5
  5. ^ 佐藤 2006b, pp. 5–6
  6. ^ 佐藤 2006b, p. 6
  7. ^ 佐藤 2006b, pp. 7–10
  8. ^ 佐藤 2006b, pp. 10–12
  9. ^ a b c 佐藤 2006a, p. 3
  10. ^ 佐藤 2006b, p. 13
  11. ^ a b c 世界遺産検定事務局 2016, p. 387
  12. ^ 関 & 青山 2005, p. 68
  13. ^ a b 佐藤 2006a, pp. 2–3
  14. ^ a b c ICOMOS 2014, p. 43
  15. ^ a b c d e f g h i 関 & 青山 2005, p. 67
  16. ^ a b c 世界遺産アカデミー & 世界遺産検定事務局 2009, p. 149
  17. ^ 佐藤 2006a, p. 7
  18. ^ 青山 2005(口絵ii)
  19. ^ 青山 2015, p. 32
  20. ^ a b c d e 青山 2015, p. 129
  21. ^ 青山 2015, p. 171
  22. ^ 青山 2005, p. 156
  23. ^ 青山 2015, pp. 129, 175–177
  24. ^ 青山 2015, pp. 175–177
  25. ^ 青山 2005, pp. 46, 155
  26. ^ IUCN 2014, p. 117
  27. ^ a b c Ancient Maya City and Protected Tropical Forests of Calakmul, Campeche” (英語). UNESCO World Heritage Centre. 2023年5月4日閲覧。
  28. ^ a b c d Región de Calakmul Biosphere Reserve, Mexico” (英語). UNESCO (2018年10月). 2023年3月24日閲覧。
  29. ^ a b 佐藤 2006a, p. 5
  30. ^ UNEP-WCMC 2015, p. 5
  31. ^ a b c d e IUCN 2014, p. 114
  32. ^ a b c d UNEP-WCMC 2015, p. 6
  33. ^ a b c d UNEP-WCMC 2015, p. 7
  34. ^ ICOMOS 2002, p. 2
  35. ^ ICOMOS 2002, p. 1
  36. ^ ICOMOS 2002, p. 4
  37. ^ IUCN 2014, p. 113
  38. ^ ICOMOS 2014, p. 42
  39. ^ ICOMOS 2014, p. 49
  40. ^ IUCN 2014, pp. 115–118
  41. ^ 東京文化財研究所 2014, p. 240
  42. ^ 東京文化財研究所 2014, pp. 240–241
  43. ^ a b 東京文化財研究所 2014, p. 241
  44. ^ 日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2013』朝日新聞出版、2013年、p.37
  45. ^ 日本ユネスコ協会連盟 2014, p. 29
  46. ^ 古田 & 古田 2014, p. 189
  47. ^ 東京文化財研究所 2014, p. 239
  48. ^ 『なるほど知図帳・世界2015』昭文社、2015年、p.155
  49. ^ a b 地球の歩き方編集室 2014, p. 272
  50. ^ 佐藤 2006a, p. 4
  51. ^ ICOMOS 2014, p. 46
  52. ^ UNEP-WCMC 2015, p. 8
  53. ^ 佐藤 2006a, pp. 4, 6





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