身分秘匿捜査とは? わかりやすく解説

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身分秘匿捜査

(覆面捜査員 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/02 07:22 UTC 版)

身分秘匿捜査(みぶんひとくそうさ、: undercover, undercover operation, be (go) undercover)とは捜査の過程において、情報や証拠を掴む目的で、機密情報を知り得る立場にいる個人や団体の信頼を得るため、もしくは捜査対象からの信頼をすでに得ているものに取り入るために、自身の身元偽装する、または架空の身元を作り出すような手法を講じるものをいう。秘密捜査とも言われる。通例としてはおとり捜査: sting operation)をはじめとする世界中の法執行機関が採用する秘密捜査手法のことを指し、このような捜査の中心的役割を担う人物は通常、秘密捜査員(: undercover agents (police, officers, detectives))やスパイと呼称される。秘密捜査に従事する捜査員は自身の真の身分を隠し、犯罪者に単に偽装するだけではなく、しばしば犯罪者その者となって違法な活動に手を染め[1][2]マフィアなどの対象組織に潜入することもある。このため秘密捜査は潜入捜査とも呼称される。この種の過酷な任務にさらされる捜査員のストレスは比較的大きく、後々心理的・精神的負担となることも多い。


注釈

  1. ^ a b "die Justizsenatoren". 直訳すれば「司法評議員」。ベルリンブレーメンハンブルク都市州においては政府や州大臣は設置されておらず、これらに相当するものとして(市)参事会(Senat. 直訳すれば「元老院」)という意思決定機関とその構成員である(市)参事(Senator)が置かれている。例: "ベルリン市参事会ドイツ語版英語版"。詳しくは記事"ドイツの州政府ドイツ語版"を参照。
  2. ^ 遅延による危険英語版: "Periculum in mora")。この文脈では「急迫の危険」(: imminent danger)、「緊急事態」(: exigent circumstance)。証拠破壊(証拠隠滅)や現行犯逃亡の危険性が高まっている状態。この状態下では多くの国で法的権限の行使に令状が不要となる(日本法での緊急逮捕)。
  3. ^ このような「スパイ活動遂行の目的で捏造された架空の出自ドイツ語版」(fabricated backstory for spy)を俗に: „Legende“, : "legend", 「レジェンド」(レゲンデ)という。英語版ウィクショナリーの当該項目に、使用されている文献(フィクション、ノンフィクションなど含めて)の引用が記載されている。但しドイツ語の"Legende"は刑事訴訟法110a条及び110c条(§110a und §110c StPO)に記載されている正式な用語である。
    また正式な捜査資料に記載されている例として次が挙げられる。2010年、FBIはアメリカ国内で諜報活動に関与したアンナ・チャップマンロシア対外情報庁(SVR)の秘密工作員10名を逮捕した(イリーガルズ・プログラム英語版)。その後情報公開法英語版に基づき公開された捜査関連資料にこの意味で「レジェンド」という語が用いられているのが分かる(Ghost Stories: Russian Foreign Intelligence Service (SVR) Illegals, Document Item 88 Part 01, p. 6-)。またこの資料ではでっち上げた移民許可証などを含む「レジェンド」を使用する人物のことを「イリーガルズ」("illegals". 原義は「不法滞在者」)と呼称している。
  4. ^ 日本の裁判所でいうビデオリンク方式や(合衆国憲法修正第6条英語版の「対面条項」に反する故批判があるが [1])米国の"videoconferencing testimony"に当たる。

出典

  1. ^ a b Girodo, Michel (1991). “Drug corruptions in undercover agents: Measuring the risks”. Behavioural Science and the Law 9 (3): 361-370. doi:10.1002/bsl.2370090310. 
  2. ^ Duke, Steven B.; Gross, Albert C. (2001 (Reprinted)). America's Longest War: Rethinking Our Tragic Crusade Against Drugs. E-reads/E-rights. pp. 127. ISBN 9780759213524 
  3. ^ 1 主要な組織犯罪の概要と対策の推進状況 - (1)米国”. 警察庁、平成15年 警察白書 - 第1章 組織犯罪との闘い - 第3節 海外における組織犯罪の現状と対策. 2011年12月9日閲覧。
  4. ^ The Case of the Undercover Missile Sting”. FBI (2005年12月19日). 2011年12月8日閲覧。
  5. ^ Maryland Man Charged in Plot to Attack Armed Forces Recruiting Center”. FBI (2010年12月8日). 2011年12月8日閲覧。
  6. ^ Mission police department goes undercover to deter underage drinking”. www.valleycentral.com (2011年8月19日). 2011年12月7日閲覧。
  7. ^ “Father tried to hire prostitute for 14-year-old”. The Independent. (2009年5月15日). http://www.independent.co.uk/news/uk/crime/father-tried-to-hire-prostitute-for-14yearold-1685480.html 2011年12月8日閲覧。 
  8. ^ “14歳息子に売春婦を「プレゼント」した父親、有罪に”. Reuters. (2009年5月17日). https://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-38054520090517 2011年12月8日閲覧。 
  9. ^ オランダ極右主義政党自由党への潜入取材を敢行したアンダーカヴァー・ジャーナリスト。 Undercover journalist infiltrates Freedom Party” (2010年1月11日). 2011年12月8日閲覧。
  10. ^ Marx., p. 18. その他ミシェル・フーコーの『監獄の誕生』によると、ヴィドックの「回想録」(Mémoires)に捜査の様子が記されている。"Mémoires de Vidocq"((フランス語)), "Memoirs of Vidocq: Principal Agent of the French Police until 1827"((英語)).
  11. ^ Marx., p. 22
  12. ^ Marx., p. 25
  13. ^ Undercover and Sensitive Operations Unit - Attorney General's Guidelines on FBI Undercover Operations, Revised 11/13/92”. DoJ. 2011年12月9日閲覧。
  14. ^ a b 2 組織犯罪対策法制等 - (1)米国 - イ 組織的な犯罪に対する捜査手法等 - (イ)潜入捜査と秘密情報提供者の利用”. 警察庁、平成15年 警察白書 - 第1章 組織犯罪との闘い - 第3節 海外における組織犯罪の現状と対策. 2011年12月9日閲覧。
  15. ^ 2 組織犯罪対策法制等 - (4)ドイツ - オ 潜入捜査官”. 警察庁、平成15年 警察白書 - 第1章 組織犯罪との闘い - 第3節 海外における組織犯罪の現状と対策. 2011年12月9日閲覧。
  16. ^ 次の資料によると、連邦最高裁判所(BGH)刑事連合部ドイツ語版は、秘密捜査の過程で捜査当局が対象者の発言引き出しを私人に要請する場合、それを行うことでしか重大犯罪を解明できない場合に限り「証拠禁止英語版ドイツ語版」(Beweisverbot)には当たらない(証拠能力は肯定される)と判示しており、結果的に権利告知を行わずに警察との取り極めに基づいて私人を通じ尋問すること(Hörfalle durch Privatperson nach Absprache mit der Polizei)は"§163a Abs. 4 auch §136 Abs. 1 Satz 2 StPO"(捜査段階での取り調べにおける供述拒否権及び弁護人依頼権の告知要請)に反しないとされる。 Dieter Meurer(ディーター・マウアー) (2006年). “非公式の調査(Informelle Ausforschung) - 「クラウス・ロクシン古稀祝賀論文集の紹介(2)」より” (日本語). 立命館法学・刑法読書会. pp. 288-295. 2011年12月4日閲覧。
  17. ^ Beulke, Wernerドイツ語版 (2010) (ドイツ語). Strafprozessrecht (11 ed.). Hüthig Jehle Rehmドイツ語版. pp. 176. ISBN 978-3811497443. https://books.google.co.jp/books?id=Yjf6ZP6xowYC&pg=PA176&dq=noep+verdeckter+ermittler&ei=C6M5TqGQCY6f-wbenbGzAg&sa=X&oi=book_result&ct=result&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q=noep+verdeckter+ermittler&f=false 
  18. ^ “Hundert V-Leute sollen in der NPD aktiv sein” (ドイツ語). Die Welt. (2011年11月16日). http://www.welt.de/politik/article13721188/Hundert-V-Leute-sollen-in-der-NPD-aktiv-sein.html 2011年12月6日閲覧。 
  19. ^ Wetboek van Strafvordering”. 2011年12月6日閲覧。
  20. ^ Piet Hein van Kempen. “The Protection of Human Rights in Criminal Law Procedure in The Netherlands”. Nederlandse Vereniging voor Rechtsvergelijking (Netherlands comparative law association). pp. 7-8. 2011年12月6日閲覧。
  21. ^ Girodo, Michel (1991). “Symptomatic Reactions to Undercover Work”. Journal of Nervous and Mental Disease英語版 (US: Williams & Wilkins) 179 (10): 626-630. doi:10.1097/00005053-199110000-00007. 
  22. ^ a b c Marx., p. 162
  23. ^ Jennifer M. Brown and Elizabeth A. Campbell (10 1990). “Sources of occupational stress in the police”. Work & Stress英語版 (UK: EA-OHP英語版) 4 (4): 305-318. doi:10.1080/02678379008256993. 
  24. ^ Marx., pp. 162-163. ニューヨーク市警察における麻薬取締局内精鋭部隊での瀆職と隊員の精神的疲弊についての例が挙げられている。
  25. ^ a b Marx., pp. 165-166
  26. ^ Marx. & Fijnaut., pp. 124-125
  27. ^ Marx., p. 160
  28. ^ Marx., pp. 164-165
  29. ^ Girodo, Michel (1991). “Personality, job stress, and mental health in undercover agents: A structural equation analysis.”. Journal of Social Behaviour and Personality 6 (7): 375-390. 
  30. ^ Marx., p. 170
  31. ^ a b Fredrickson, Darin D.; Siljander, Raymond P. (2004). Street Drug Investigation: A Practical Guide for Plainclothes and Uniformed Personnel. Charles C Thomas Publisher. pp. 77. ISBN 978-0398075323 


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