液化する成分がある場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/01 00:00 UTC 版)
上述の素朴な定義は、単離すると同温同圧では液化してしまう成分が混合気体に含まれているときには、使えない。例えば、水蒸気を含む空気は、露点温度より高い温度であれば乾燥空気と同程度に理想気体とみなせる。しかし、常温常圧の空気から水蒸気を単離してもとの温度・圧力に戻すと、水蒸気は凝縮して液体の水になってしまう。よって、上述の素朴な定義では、水蒸気を含む空気は理想混合気体とはみなせないことになる。このような場合、すなわち単離すると同温同圧では液化してしまう成分が混合気体に含まれている場合は、圧力 P で状態を指定するのではなく、体積 V で状態を指定するとよい。先の例で言えば、単離した水蒸気の体積をもとの空気が占めていたのと同じ体積にすると、水蒸気は凝縮することなく理想気体として振舞う。 熱力学ポテンシャルのうちで、温度 T と体積 V を自然な変数とするのは、ヘルムホルツエネルギー F(T, V, N) である。そこで、素朴な定義を含むように、ヘルムホルツエネルギーを用いて理想混合気体を次式で定義する。 F ( T , V , N ) = ∑ F i ∗ ( T , V , N i ) {\displaystyle F(T,V,{\boldsymbol {N}})=\sum F_{i}^{*}(T,V,N_{i})} すなわち、理想混合気体のヘルムホルツエネルギーは、単離された各成分が混合気体と同じ体積を単独で占めたときのヘルムホルツエネルギー Fi*(T, V, Ni) の和に等しい。 化学ポテンシャル μi(T, V, X) は、μi = (∂F/∂Ni)T,V より μ i ( T , V , X ) = μ i ∗ ( T , V ) {\displaystyle \mu _{i}(T,V,{\boldsymbol {X}})=\mu _{i}^{*}(T,V)} となる。すなわち、各成分の化学ポテンシャルは混合の前後で変化しない。この式は一見すると素朴な定義での化学ポテンシャルの表式 μ i ( T , P , X ) = μ i ∗ ( T , P 0 ) + R T ln P X i P 0 {\displaystyle \mu _{i}(T,P,{\boldsymbol {X}})=\mu _{i}^{*}(T,P_{0})+RT\ln {\frac {PX_{i}}{P_{0}}}} と異なっているが、圧力 P0 を混合気体と同じ体積を単独で占めたときの圧力 NiRT/V とすれば右辺第2項がゼロになるので μ i ( T , P , X ) = μ i ∗ ( T , P 0 ) = μ i ∗ ( T , V ) = μ i ( T , V , X ) {\displaystyle \mu _{i}(T,P,{\boldsymbol {X}})=\mu _{i}^{*}(T,P_{0})=\mu _{i}^{*}(T,V)=\mu _{i}(T,V,{\boldsymbol {X}})} となり、化学ポテンシャルの値は一致する。このことから、液化する成分がないときには、ヘルムホルツエネルギーを用いた定義は化学ポテンシャルを用いた素朴な定義と等価であることが分かる。 エントロピー S(T, V, N) は、S = −(∂F/∂T)V,N より S ( T , V , N ) = ∑ S i ∗ ( T , V , N i ) {\displaystyle S(T,V,{\boldsymbol {N}})=\sum S_{i}^{*}(T,V,N_{i})} となる。すなわち、理想混合気体のエントロピーは同じ体積を各成分が単独で占めたときのエントロピーの和に等しい。このことは、原理的には、理想混合気体を断熱可逆過程により各成分に分離することが可能であることを意味している。理論的には、ただひとつの成分だけを選択的に透過させる半透膜があればこの過程は実現可能である。ただし現実的には、そのような半透膜を任意の成分に対して用意するのは極めて困難である。 理想混合気体の圧力 P(T, V, N) は、P = −(∂F/∂V)T,N より P ( T , V , N ) = ∑ P i ∗ ( T , V , N i ) {\displaystyle P(T,V,{\boldsymbol {N}})=\sum P_{i}^{*}(T,V,N_{i})} となる。すなわち、理想混合気体の圧力(全圧)は同じ体積を各成分が単独で占めたときの圧力(分圧)の和に等しい。これをドルトンの法則という。 内部エネルギーとギブズエネルギーとエンタルピーは、それぞれ U = F + TS と G = F + PV と H = U + PV より、いずれも同じ体積を各成分が単独で占めたときの状態量の総和となる。 U ( T , V , N ) = ∑ U i ∗ ( T , V , N i ) {\displaystyle U(T,V,{\boldsymbol {N}})=\sum U_{i}^{*}(T,V,N_{i})} G ( T , V , N ) = ∑ G i ∗ ( T , V , N i ) {\displaystyle G(T,V,{\boldsymbol {N}})=\sum G_{i}^{*}(T,V,N_{i})} H ( T , V , N ) = ∑ H i ∗ ( T , V , N i ) {\displaystyle H(T,V,{\boldsymbol {N}})=\sum H_{i}^{*}(T,V,N_{i})}
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