巡査の居る風景とは? わかりやすく解説

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巡査の居る風景

作者中島敦

収載図書ちくま日本文学全集 036 中島敦
出版社筑摩書房
刊行年月1992.7

収載図書中島敦全集 1
出版社筑摩書房
刊行年月1993.1
シリーズ名ちくま文庫

収載図書朝鮮
出版社新宿書房
刊行年月1996.3
シリーズ名外地」の日本語文学

収載図書中島敦
出版社筑摩書房
刊行年月2008.3
シリーズ名ちくま日本文学


巡査の居る風景

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/11 08:00 UTC 版)

巡査の居る風景』(じゅんさのいるふうけい)は、中島敦の短編小説。中島が第一高等学校在学中の20歳の時に発表した習作で、当時日本の植民地であった朝鮮を舞台にした一篇である[1][2][3]。副題は「1923年の一つのスケッチ」であるが、省略して表記されることが多い[4][5][6][7]


注釈

  1. ^ 朝鮮特有の女子の長着羽織のようなもの[15]
  2. ^ ヨボ」という言葉は、人を呼びかける時に使用される朝鮮語で、夫婦間で「あなた」「おまえ」「おい」といった意味を持ち、「もし」「おい」という軽い呼びかけにも使われる言葉である[6]。当時日本人の女性や子供が外地の朝鮮で、朝鮮人に対して「ヨボさん」という呼称をよく使っていたが、「さん」という敬語を付けてはいても、朝鮮人にとっては日本人から「ヨボ」と呼ばれることは屈辱であり[6]、日本人が朝鮮人を蔑んで使用していた蔑称の言葉でもあった[16]
  3. ^ 「チゲ」(chigyae)とは、荷物を載せて人が背負って運ぶ運搬用具で、朝鮮式の背負梯子のこと[17]。形状は背負子の朝鮮語版参照。チゲ担ぎは朝鮮都市の貧民にとっての生計手段であった[18]
  4. ^ 中島は、湯浅や小山のような文学青年とは深く付き合ってはいなかったが、英文学を鉄道図書館で借りて読むなど、この頃すでに文学に興味を持っていた[25]。湯浅の回想「敦と私」(ツシタラ 第三輯 1960年6月)によると、湯浅が数学の授業中に急進的な左翼系雑誌『改造』を読んでいたのを教師に見つかった時と、谷崎潤一郎の小説『痴人の愛』が寄宿舎の机の中から摘発された時に、中島の仲裁により湯浅の停学処分が図書館監禁という軽い処分で済んだとされる[20][26]
  5. ^ 湯浅克衛の「カンナニ」は、当初1934年の雑誌『改造』の懸賞小説に応募し佳作となった作品だったが、検閲の困難で「三・一運動(万歳事件)」をとりあげた部分が削除され9か月後の1935年4月に『文学評論』に掲載された[26]。削除部分が復元されて全体発表されたのは戦後のことであった[26]
  6. ^ 日清戦争が日本全体に与えた影響は大きく、清国(中国)の軍隊の脆さ、捕虜になっても恥じない清国兵の態度も明らかになると、愛国心の強い日本人にとって軽蔑の対象となり、それまで長年の歴史の中で日本の教養人が尊崇してきた大陸からの中国文明の優位性への疑いも生まれる結果となった[28]。そのため、それまで書かれていた漢詩文は日清戦争後に日本人の教養から遠ざけられることになり、日本近代文学にとっても劇的な変化をもたらすことになる[28]
  7. ^ 当時の京城の人口総計約251,000人のうち、日本人は67,000人、諸外国人は1,800人、朝鮮人は182,200人で、朝鮮人は数では最多であったが、対抗文化(カウンターカルチャー)にさえならなかった[8]
  8. ^ 日本人文士らによる朝鮮紀行には他に、谷崎潤一郎の『朝鮮雑感』(1918年)、大町桂月『朝鮮遊記』(1919年)、喜田貞吉『庚鮮満旅行日誌』(1921年)、若山牧水『朝鮮紀行』(1927年)などがある[6][7]。支那紀行である芥川龍之介の『支那遊記』(1925年)でも、革命が進行中であった中国の社会動向には関心を示さず、その地の不潔さに辟易した様子が綴られている[1]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 「初期の習作――豊饒な可能性 五」(国文学論考 1989年3月・第25号)。鷺 1990, pp. 63–67に所収
  2. ^ a b c d 「I 北方行 2」(渡邊 2005, pp. 8–26)
  3. ^ a b c d e f 「三章 植民地朝鮮」(川村 2009, pp. 57–66)
  4. ^ a b c 勝又浩「解題――習作」(ちくま1 1993, pp. 485–486)
  5. ^ a b 「中島敦――そのエスキス」(浅井清也編『研究資料現代日本文学22 小説・戯曲II』明治書院、1980年9月に原題「中島敦」として収録)。鷺 1990, pp. 72–77に所収
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag 陳佳敏 2016
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac 陸嬋 2015
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 田中益三「遍歴・異郷――朝鮮・中国体験の意味」(クロノ 1992, pp. 20–35)
  9. ^ 「『李陵』――その構造 一」(吉田精一博士古稀記念論集刊行会編『吉田精一博士古稀記念 日本の近代文学――作家と作品』角川書店、1978年11月に原題「『李陵』の構造」として収録)。鷺 1990, pp. 302–305に所収
  10. ^ a b c d e 「初期の習作――豊饒な可能性 七」(国文学論考 1989年3月・第25号)。鷺 1990, pp. 72–77に所収
  11. ^ a b 池澤夏樹「中島敦のテーマ」(KAWADE 2009, pp. 81–85)
  12. ^ a b c 鄭舜瓏 2008
  13. ^ 勝又浩「年譜――昭和4年」(ちくま3 1993, p. 449)
  14. ^ 「中島敦年譜」(川村 2009, pp. 335–341)
  15. ^ 「註解」(ちくま1 1993, p. 325)
  16. ^ 「註解」(ちくま1 1993, p. 327)
  17. ^ コトバンク「チゲ」『世界大百科事典 第2版』平凡社
  18. ^ 「註解」(渡邊 2005, p. 54)
  19. ^ a b c 勝又浩「年譜――大正4年-大正11年」(ちくま3 1993, pp. 446–448)
  20. ^ a b c d e 「京城中学校・第一高等学校時代」(小谷 2019, pp. 9–15)
  21. ^ 「繰り返される転校と、成長する虎」(島内 2009, pp. 28–32)
  22. ^ 「お国自慢」(学苑 1937年7月・第9号)。ちくま3 1993, pp. 364に所収
  23. ^ 「プウルの傍で」(1932年8月頃執筆)。ちくま3 1993, pp. 271–297に所収
  24. ^ 伊東高麗夫「興味ある存在、中島敦」(田鍋 1989, pp. 194–196)
  25. ^ a b 山崎良幸「中島君を憶う」(田鍋 1989, pp. 184–190)
  26. ^ a b c d 「I 北方行 6」(渡邊 2005, pp. 46–54)
  27. ^ 「出自」(森田 1995, pp. 25–31)
  28. ^ a b 「序 近代・現代の日本文学」(キーン現代1 2011, pp. 7–19)
  29. ^ a b 「四章 植民地の『虎』」(川村 2009, pp. 67–80)
  30. ^ a b 「『虎狩』――『両班』と反日朝鮮民族運動」(小谷 2019, pp. 21–24)
  31. ^ a b 「京城――『一九二三年の一つのスケッチ』」(小谷 2019, pp. 16–21)
  32. ^ 「一五 プロレタリア文学」(キーン現代3 2011, pp. 7–16)
  33. ^ 「“都市化時代”の始りと展開――大正12年~昭和5、6年」(昭和アルバムI 1986, pp. 17–53)
  34. ^ 「中島敦の朝鮮」(小谷 2019, pp. 25–28)
  35. ^ a b 「東京」(森田 1995, pp. 34–41)
  36. ^ a b 「初期の習作――豊饒な可能性 一」(国文学論考 1989年3月・第25号)。鷺 1990, pp. 43–46に所収
  37. ^ 川村湊「『昭和』とアジア」(文藝 1988年2月・春季号)。鷺 1990, pp. 43–44に抜粋掲載
  38. ^ 濱川勝彦「『虎狩』まで」(国語国文 1969年4月)。『中島敦の作品研究』(明治書院、1976年9月)所収。鷺 1990, p. 74に抜粋掲載
  39. ^ a b 鷺只雄「作家案内――中島敦」(光と風・講談 1992, pp. 223–242)
  40. ^ a b c 木村一信「作家案内――中島敦」(斗南・講談 1997, pp. 295–307)
  41. ^ a b c 池澤夏樹「知性と南風」(ちくま012 2008, pp. 454–462)


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