夜長姫と耳男
夜長姫と耳男
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/20 17:32 UTC 版)
『夜長姫と耳男』(よながひめとみみお)は、坂口安吾の短編小説[注釈 1]。飛騨の匠の弟子である耳男と、無邪気さと残酷さを併せ持つ長者の娘・夜長姫を中心として説話風に語られており、同じく説話風に書かれた『桜の森の満開の下』と並ぶ傑作として評価されている[1]。作品執筆の背景には、随筆「飛騨・高山の抹殺―安吾の新日本地理・中部の巻―」(『安吾新日本地理』の一篇)などに描かれた、安吾の古代史とこの地方への興味・関心がある。また批評・研究においては、しばしば安吾の芸術観、恋愛観が色濃く反映された作品と見なされている。
注釈
- ^ 書籍にして約50-60頁の長さの物語である。講談社文芸文庫(1997年)、岩波文庫(2009年)でそれぞれ53、57頁。
- ^ この欄には他に源氏鶏太の『勇敢な社員』、豊島与志雄『擬態』、フランツ・カフカ『変身』(高橋義孝訳)が掲載された[2]。
- ^ 「飛騨の顔」の方は『別冊文藝春秋』に掲載された。
- ^ 伝行基作とされているものだが、安吾は、これは嘘で「ヒダのタクミに決まっています」と言っている[5]。
- ^ ただし浅子逸男は、奈良時代末期であれば作中の「タクミ」たちのこうした名は十分ありえたと論じている[15]。また「江奈古」は胞(えな)に由来する名ではないかという指摘もあるが、浅子はこれも高山に近い大野灘郷の江名子村の名から取られた可能性を指摘している[15]。
- ^ 奥野はその女性像の根底に安吾の親友であった長島萃の妹のイメージを見てとっており[1]、また安吾作品に登場するこのような「残酷で無垢」な女性像の前では、後述の矢田津世子も「影が薄いのではないか。いや矢田津世子の中に、彼女と共通するイメージを見出していたのであろうか」と自問している[21]。
- ^ 精神分析を援用とした解釈としてはほかに、ユング心理学に依拠しながら、この物語を耳男の自身の無意識の統合と自己実現までの過程と読み解いた長田光展の論考がある[27]。
- ^ これらに対し加藤達彦は、むしろ『夜長姫と耳男』などの「小説を通じて事後的に見出されてくる境地」こそが安吾の「ふるさと」そのものではないかとし、そのうえで本作に表れた「視線」の対決・対峙のモチーフに着目しつつ、後述するように安吾的な「人間」の回復の主題を見出す読解を行っている[30]。
- ^ 芸術家の主題とは強く結び付けられていないが、『文学のふるさと』と結びつけて論じているものとしては、疫病で死んでゆく人々を歓喜して眺める夜長姫は反転した(ペローの)赤ずきん、つまり「自然の化身」であるとし、その姫を刺し殺すことは、「ふるさと殺し」「母殺し」であるとした井口時男の論考などがある[31]。
出典
- ^ a b c d 奥野 (1996)、311頁。
- ^ a b c 関口 (1999), 563頁。
- ^ a b 川村 (1989)、424頁。
- ^ a b 長田 (1985)、3頁。
- ^ 坂口 (2000)、237頁。
- ^ 坂口 (2008)
- ^ 井口 (2008)、84頁
- ^ 兵藤 (1982)、260頁。
- ^ 坂口 (1989)、319頁。
- ^ a b 浅子 (1993)、142頁。
- ^ a b c 角田 (1985)、151頁。
- ^ 中石 (1973)、145頁。
- ^ 柴田 (2001)、45頁。
- ^ 角田 (1985)、151-152頁。
- ^ a b 浅子 (1993)、143頁。
- ^ 角田 (1985)、153-154頁。
- ^ 柴田 (2001)、45-49頁。
- ^ 美濃部 (2005)、29頁。
- ^ a b 七北 (2008)、406頁。
- ^ 鬼頭 (2002)、 71頁。
- ^ 奥野 (1996)、153-154頁。
- ^ 浅子 (1993)、144頁。
- ^ 浅子 (1993)、145頁。
- ^ 加藤 (2001)、64-65頁。
- ^ 坂口 (1996a)
- ^ 「坂口安吾 作品ガイド100」(『KAWADE夢ムック文藝別冊 坂口安吾―風と光と戦争と』)(河出書房新社、2013年)
- ^ 長田 (1985)
- ^ 由良 (1979)、200-203頁。
- ^ 高桑 (1997)、194-199頁。
- ^ 加藤 (2001)、68-69頁。
- ^ 井口 (2008)
- ^ 奥野(1996)、312頁。
- ^ 角田 (1985)、157-160頁。
- ^ 石川 (2000)、69頁。
- ^ 石川 (2000)、72頁。
- ^ 美濃部 (2005)、31-33頁。
- ^ 柴田 (2001)、46-51頁。
- ^ 高桑 (1997)、202-205頁。
- ^ 鬼頭 (2002)、64-65頁。
- ^ 鬼頭 (2002)、74頁。
- ^ 青木 (2008)、204頁。
- ^ 坂口 (1996b)、25頁。
- ^ 加藤 (2001)、71-72頁。
- ^ 加藤 (2001)、74-75頁。
- ^ 関口 (1999)、563頁-566頁。
- ^ 鬼頭 (2002)、64頁。
- ^ 関口 (1999)、566頁。
- ^ 贋作・桜の森の満開の下 新国立劇場、2010年6月16日閲覧。
- ^ “間宮芳生 シアトリカル・ピース”. GENUINE. 2013年7月25日閲覧。
- ^ “コンサートホールATM 講演情報”. 水戸芸術館. 2013年7月25日閲覧。
- 1 夜長姫と耳男とは
- 2 夜長姫と耳男の概要
- 3 文体と構造
- 4 解釈
- 5 評価
- 6 脚注
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