超音波検査
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超音波装置を用いた治療
超音波装置を用いた治療として集束超音波とドラッグデリバリーシステム(DDS)に関して述べる。
集束超音波
強力集束超音波(High-Intensity Focused Ultrasound、HIFU)装置は標的部位に体外からピンポイントに超音波のエネルギーを集束できる装置であり前立腺癌、子宮筋腫、乳癌に対する低侵襲な治療法として利用されている[4]。これは強力超音波を癌に集中させることで焦点部分の温度を80度近くに熱することで癌細胞を凝固させる治療法である。本態性振戦ではMRIガイド下で経頭蓋的に脳内の視床腹中間核(Vim核)にHIFUを照射し凝固させる治療法が2019年より保険診療で可能となっている。超音波には照射部位を振動させたりする機械的作用と加熱などを引き起こす熱的作用がある。これらは超音波の周波数や強度により変化するものの、照射強度を高くしていくと機械的作用や熱的作用が増大していく。この機械的作用と熱的作用を利用して、HIFUで特定の部位を凝固させることが可能となる。
血液脳関門を通過するDDS
集束超音波の超音波照射エネルギーを徐々に下げていくと熱的作用が低下して機械的作用のみを利用することができる。この機会的作用による組織の振動は、組織内の毛細血管の密着結合を緩めることで血管透過性の亢進を導く。そのため集束超音波を用いて血液脳関門の透過性を亢進させ、治療薬を脳へ送達させる方法が考えられた。超音波照射のみで血管透過性を亢進させるためには超音波照射強度が高くなり組織障害のリスクが高まる[5]。事実、1990年の報告では血液脳関門の透過性を十分に高めるには頭蓋骨切除が必要であった[6]。超音波造影剤として利用されるマイクロバブルを併用すると比較的低い超音波強度で超音波の機械的作用を増強させることができる[7]。
マイクロバブルに超音波を照射すると振動(オシレーション)と圧壊(キャビテーション)が誘導される。マイクロバブルの振動と圧壊は細胞膜に作用し一過性の小孔を形成し、細胞外の物質が細胞内に取り込まれることが知られている。この作用をソノポレーションという。マイクロバブルを血管内投与し体外から超音波照射すると組織の血管内でマイクロバブルの振動や圧壊が誘導され、周囲の血管内皮細胞間の密着結合に作用して血管透過性を変化させることができるのではないかと考えられている[8][9] [10][11]。血液脳関門の透過性の亢進の持続時間は数時間で可逆的と考えられている[12]。代表的な研究として下記のようなものが挙げられる。集束超音波を血液脳関門に作用させ、乳癌治療薬の抗体医薬であるハーセプチンを脳内に移行させたという研究が知られている[13]。脳腫瘍の患者に集束超音波とマイクロバブルを用いて抗癌剤のドキソルビシンリポソームやテモゾロミドを脳腫瘍に送達させた報告がある[14] 。一方で集束超音波とマイクロバブルの併用は無菌性炎症を起こすという報告もあり副作用が懸念される[15]。
細胞膜を通過するDDS
治療用超音波とマイクロバブルを併用して細胞外の薬物や遺伝子を細胞内に導入させることができる[16][17]。
- ^ ただし骨の囲まれた部分への体表からの超音波検査が不可能というわけではない。例えば、経頭蓋超音波検査と言って、頭皮の上から探触子を当てて、脳の様子を探る超音波検査も存在する。Transcranial Dopplerなど、幾つか種類がある。
- ^ 参考までに、ヒトの組織を伝わる音速は組織によって異なるものの、だいたい水中を伝わる音速に近く、おおよそ1500 (m/秒)前後である部分が多い。音速が大きく異なる場所は、骨と気体が溜まっている場所である。なお、音速は、骨では速く、気体が溜まっている部分では遅い。
- ^ a b c “超音波(エコー)検査”. 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院. 2024年3月19日閲覧。
- ^ “がんの検査について 超音波(エコー)検査とは”. がん情報サービス. 2024年3月19日閲覧。
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- ^ 超音波映像装置・検査装置
- ^ (PDF) 超音波映像装置
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