貧困 貧困の問題

貧困

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/17 14:40 UTC 版)

貧困の問題

貧困は、それ自体が人々にとって望ましくないものである。加えて、貧困は生活に大きく関わっているため、広い分野において影響を与えており、様々な問題の要因となっている。

病気・飢餓・短い寿命

平均寿命の統計に基づく世界地図(2016年,WHO))[4]
栄養失調の子供。ダダーブケニア

貧困、特に著しい貧困は病気や飢餓、短い寿命をもたらす。貧困によって十分な食糧・清潔な水・必要な医薬品などを得られない場合、多くの人々(とりわけ弱者である子供)に様々な病気がもたらされる。中には治療の困難な病気もあるが、多くの人々が下痢による脱水症状百日咳肺炎マラリアなどの治療され得るもので死んでいる。また、飢餓によって餓死したり、栄養不足で失明したり、ヨード欠乏症などになるものも多い。

石井光太によれば、食材の鮮度の関係からスラムには火と油を使った高カロリーな料理が共通して見られ、野菜を買う余裕がなく必要なカロリーをそういったジャンクフードで補う低所得者や失業者には「貧困によって生まれる早死にしやすい肥満[10]という現象が見られるという。

このような状況は乳児死亡率や平均寿命にも現れている。例えば先進国においては2018年の乳児の死亡者数は乳児1000人に対して10人以下であるが、一人当たりGDP(2016年)[11] の最も低い国20カ国を見ると、乳児死亡率の平均は1000人に対して57.9(最高:アフガニスタン[108.50 世界最多]~最低:ルワンダ[29.1])になる[12] 。また、2016年の先進国の平均寿命はいずれも75歳を超えるが、先の20カ国の平均は61.7歳(最高:エチオピア[65.5歳]~最低:中央アフリカ共和国[53.0歳])である[4]。また、かつては平均寿命50歳未満の国があったが、2010年の3カ国(ハイチ:36.2歳、シエラレオネ:49.2歳、中央アフリカ共和国:49.6歳)を最後に、2011年以降で50歳未満の国は、ない[4]

低い教育水準

多くの場合において、貧困者には教育を受けるための費用や時間がない。生活をしていくためには働かざるを得ず、また十分な収入を得られないため教育に対して投資できない。そのため、貧しい国では識字率や就学率が低く、たとえ学校に通っていても教材や教師の不足で十分な教育を受けていない例もある。

より貧しいものがより低い教育しか与えられないことは先進国においても見られるものであり、例えばアメリカ白人アフリカ系アメリカ人の間には、大学進学率に差が生じている。

過酷な労働・児童労働

貧困に陥ると、生活の維持のために長時間働かざるを得ず、また危険な仕事でもせざるを得なくなる。また、このような状況では成人だけでなく児童も働くことが求められやすく、児童が十分な教育を受けられない要因ともなっている。貧困により人身売買とか売春や各種の犯罪を行うものも多く、中には兵士として内戦などに参加させられるものもある。そのため、事故や病気などによる高い死亡率をもたらしている。

各国において過度の労働児童労働が規制されているが、貧困によって働かざるを得ないものに対して単純に禁止としてもその効果は薄く、貧困国の児童労働率は高い。

国際労働機関では、フィラデルフィア宣言において「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」と宣言している。不公平な労働条件による一部の貧困により普通の労働者も貧困に対する恐れを感じ、会社等による権利侵害を容認せざるを得ない事態になる。これは労働者保護が十分でない国において助長され、経済的に豊かな国でもおこりうる。

治安の悪化

人が貧困に陥ると、生活を(あるいは生命を)維持・向上させるために犯罪に手を染めたり、犯罪組織等に関わったりする場合がある。また社会における貧困者が一定以上の数になると、都市の周辺にスラム(貧民街)を形成したり、都心部でホームレスストリートチルドレンとなるなどして都市環境が悪化し、犯罪の温床となる。また、貧困によって人々の生活が困窮すると、政府や国家に対する不満が増大し、暴動や略奪、内戦などに発展することもある。

このようにして治安が悪化すると、一層経済活動が阻害され、また各種の援助も困難になって、更なる貧困を招く悪循環に陥る場合がある。

テロの誘発

貧困により治安が悪化したり政府や社会に対する不満が高まると、テロを人々が支持しやすくなる。また犯罪の多発もあってテロリストの摘発が困難になることで、テロ組織の温床となりやすい。加えて、貧困はその政府に対するテロ攻撃の口実としても用いられる。

テロが行われると、直接攻撃を受けた人や施設のみならず、人々が恐怖を感じることによって、その地域の観光業などが被害を受け、経済活動への影響も大きなものとなる。また、テロ対策にも相応のコストが必要であり、警備システムの導入など非生産的な分野への資金投入をせざるを得なくなって、生産性が低下し更なる貧困が助長される[要出典]

自然環境の破壊

貧困状態にある場合には、将来を見据えた環境保護などは後回しにされ、現在の利益を得るために自然破壊が行われやすい。

自然破壊は合法的なものである場合も非合法な場合もあるが、森林を過度に伐採して木材を利用したり、過剰な焼畑や放牧、農耕に適さない土地の開墾が行われて結局砂漠化を招いたりする。また動植物の密猟がなされたり、大気汚染水質汚染が容認される。これらにより、自然環境や生態系が破壊されることとなる。

長い目で見れば、結局その自然破壊や生態系破壊は農地・牧草地の破壊や病気、水害などの自然災害をもたらし、その地域の更なる貧困を招く場合も多い。


  1. ^ World Bank Open Data >Data Catalog > World Development Indicators > Tables >1.2 Poverty rates at international poverty lines, 世界銀行, (2020-05-19), http://wdi.worldbank.org/table/1.2 2020年5月31日閲覧。 
  2. ^ a b PovcalNet Regional aggregation using 2011 PPP and $1.9/day poverty line, 世界銀行, (2020-05), http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/index.htm?1 2020年5月31日閲覧。 
  3. ^ 2016 Global Hunger Index chapter2 Global, regional, and national trends, International Food Policy Research, (2016-10), http://www.ifpri.org/publication/global-regional-and-national-trends-0 
  4. ^ a b c d Healthy life expectancy (HALE) at birth, WHO, (2018-04-06), http://apps.who.int/gho/data/node.main.688?lang=en 2019年3月12日閲覧。 
  5. ^ Human Development Report 2019 – "Human Development Indices and Indicators"”. HDRO (Human Development Report Office) United Nations Development Programme. pp. 22–25. 2019年12月9日閲覧。
  6. ^ 関根由紀「日本の貧困--増える働く貧困層 (特集 貧困と労働)」『日本労働研究雑誌』第49巻第6号、労働政策研究・研修機構、2007年6月、 21頁、 NAID 40015509240
  7. ^ a b 独立行政法人農業環境技術研究所「情報:農業と環境 No.104 (2008年12月1日) 化学肥料の功績と土壌肥料学」
  8. ^ 山野良一(2014)『子どもに貧困を押しつける国・日本』、光文社(光文社新書)、p.31
  9. ^ 男女共同参画社会の形成の状況内閣府男女共同参画局
  10. ^ 石井光太『絶対貧困-世界最貧民の目線』光文社 2009年 ISBN 9784334975623 pp.35-38.
  11. ^ World Economic Outlook Database, October 2018” (英語). IMF (2018年10月). 2019年3月12日閲覧。
  12. ^ CIA World Fact Book2019 Infant mortality rate” (英語). CIA (2018年). 2019年3月12日閲覧。
  13. ^ 湯浅誠『反貧困-すべり台社会からの脱出』岩波書店、2008年[要ページ番号]
  14. ^ 教育における差別を禁止する条約
  15. ^ 国際連合腐敗防止条約を含めて条約は批准しない国に対して法的拘束力を持たないことも要因の一つ。
  16. ^ ジェフリー・サックス『貧困の終焉――2025年までに世界を変える』、鈴木主税・野中邦子共訳、早川書房、2006年。
  17. ^ 原田泰・大和総研 『新社会人に効く日本経済入門』 毎日新聞社〈毎日ビジネスブックス〉、2009年、33頁。
  18. ^ a b How globalization begets inequalityS. Garlock, Harvard Magazine, March-April 2015
  19. ^ ポール・コリアー『最底辺の10億人: 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?』中谷和男訳、日経BP社、2008年


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