研修医 問題点

研修医

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/21 17:08 UTC 版)

問題点

地域医療への影響

マッチング制度の導入によって、研修先を自由に選べるようになった結果、研修医は都市部へ集中し、地方の医師数は(病院数および患者数に対して)決定的に不足している[12]。さらに、研修医のアルバイトが禁じられることで、夜間および休日の当直業務を行う医師の確保が非常に困難となっている。また、労働力としての研修医を多く抱えることのできなくなった大学病院が人手確保のため関連病院へ派遣した医師を引き上げ始めており、人口過疎地では医療そのものが成り立たなくなるなどの問題も出始めている。このため、2009年4月より、大学病院に限り、地域医療に影響を及ぼしている診療科について、特別コースに基づいた研修プログラムを実施できるようになった。また、2010年4月からは臨床研修の必修科目を内科や救急など数科目に絞り、期間を実質1年間に短縮し、2年目から志望科で研修させることで医師不足に対応するプログラムも実施可能となった。

もっとも今までの医局人事が崩壊しつつあることで、病院の経営者である医療法人や地方自治体は地元医学部に気を使うことなく採用活動を行うことが可能になり、特に地方の病院は新人研修医に対して各大学で説明会を開いたり、病院見学会を行うなど積極的な求人活動を行うようになった。今までのブラックボックス的医局人事を捨て、病院経営者による自主的な人事権の行使による公正な病院作りが可能となるか、注目されている。

また、和田秀樹(精神科医・国際医療福祉大学教授)は「実は現行の臨床研修制度が始まってから、研修医がいちばん増えたのは沖縄県、2番が岩手県、3位が島根県で、むしろ東京の研修医は2割も減っている」と主張している[13]

財源問題

新制度では研修医に対する適切な処遇の確保を謳っているが、実際には国は十分な財源の確保をしておらず、それをうやむやにするために給与も諸経費も一括して研修施設に交付し、その後の使い道は各施設に丸投げしてしまった。すなわち研修医の給与にどれだけ回すかに関して各施設の裁量を認めており、適切な処遇がされない可能性を残している。 実際には、国は各研修施設に月30万円程度の給与を支払うよう求める一方で、補助されるのは経費込みで月10数万程度である。厚生労働省の調査で全国平均30万円を達成しているとされているが、これは高待遇の地方の民間病院と、給与の低い都市部の大学病院やその関連施設との平均に過ぎず、実態を反映していない、との指摘がある。

研修の質の確保

幅広い診療能力の習得を目的に、内科・外科・産婦人科など複数の科で研修するカリキュラムを組むこととされているが、こうした研修を初めて実施する施設も多く、研修の質の確保が今後の課題とされる。また、短期間ローテーションしたところで本当に基本的な診療能力を習得できるのかといった根本的な問題点や、ローテーションしたくない科でも研修しなければならないことによる研修医・指導医双方の意欲低下も指摘されている。

診療科の選別

新臨床研修制度により、新任医師は志望科にかかわらず多くの科をローテーションするようになった。しかし、特に外科系では、長時間に及ぶ手術など、本来の目的である幅広い診療能力の習得とはかけ離れた内容の研修が行われているのが現状である。その結果、現実を直視し、過重な専門科・訴訟リスクの高い専門科・QOMLの低い専門科を選択しなくなってきた。そのため、多忙な科や、常に緊急対応の必要な科ほど不人気になり、人員不足に陥る悪循環が発生しつつある。


  1. ^ 臨床研修を修了した者であることの確認等について(医政医発0528第2号、医政歯発0528第2号 平成26年5月28日)
  2. ^ [1]歯学部の無い医学科だけの大学の大学病院でも歯学口腔外科学講座等で歯科医師の研修に対応する大学病院もある>
  3. ^ 医師法第十六条の二および歯科医師法第十六条の二
  4. ^ 臨床研修を修了した者であることの確認等について(医政医発0528第2号、医政歯発0528第2号 平成26年5月28日)
  5. ^ 医政発第0612004号 医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について
  6. ^ a b c 医師臨床研修に関するQ&A(研修医編)厚生労働省 2018年6月21日閲覧
  7. ^ アルバイト診療:球場内診療所へ研修医を違法派遣--川鉄千葉病院 2007年05月23日 毎日新聞 東京朝刊 28頁 社会面 (全307字)
  8. ^ 受験者は半分以下 新研修制度に反対『朝日新聞』1968年(昭和43年)3月2日朝刊 12版 15面
  9. ^ “研修医 違法バイト98人:ジョブサーチ”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2008年1月29日). オリジナルの2008年1月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080131041749/http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_08012910.cfm 
  10. ^ 医師臨床研修制度の変遷|厚生労働省”. www.mhlw.go.jp. 2022年12月11日閲覧。
  11. ^ 研修医の平均給与は365万円、2004年度調査”. 日経メディカル オンライン. 日経BP社 (2005年7月29日). 2013年7月4日閲覧。
  12. ^ a b 里見清一『医者とはどういう職業か』幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2016年9月30日。ISBN 978-4344984295 
  13. ^ 和田秀樹 (2009年1月30日). “「公教育」充実で医療崩壊防げ”. Web「正論」. 産経新聞社. 2013年7月4日閲覧。






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