手術室 構造

手術室

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/26 22:57 UTC 版)

構造

清潔度

従来は手術室の清潔度はNASA基準でクラス1000(1万立方フィートあたりの0.5μm以上の最大空中塵埃数が1000以下)、バイオクリーンであれば、クラス100の清潔度が必要とされてきた。しかしながら、現在では、空中浮遊塵埃の大きさの基準を0.1μmに設定するISO基準(JIS基準)が使用され、ISOのクリーンルーム清浄度はISO 6(1立方メートルあたりの0.1μm以上の最大空中塵埃数が1000000以下)、バイオクリーン手術室であれば、ISO 5(1立方メートルあたりの0.1μm以上の最大空中塵埃数が100000以下)が必要とされている。さらに、日本医療福祉設備協会が作成した「病院空調設備の設計管理指針2013年度版」では、手術室の清浄度をクラス分類し、一般手術室はクラスⅡ(清潔区域)、バイオクリーン手術室はクラスⅠ(高度清潔区域)を推奨している。ここで注意しなければならないのは、この空中塵埃数に基づく清潔度の評価は、あくまで室内の静穏状態での基準であることである。室内で人や器材が動くとき空中塵埃数は著しく増加する。

手術室には、天井に塵埃を除去するため、HEPAフィルタ(high efficiency particulate air filter)が装備されている。そこから送り出される清潔な空気は、天井から術野に向かう垂直層流を形成して四方の壁の床面近くにある空気取り込み口から排気される。層流を維持するためには、一定の風量確保が必要であるが、過度の風量を術野に送れば患者の体温の低下、術野の乾燥につながる。手術室の清潔度を達成するためには、手術室のドアの開閉を最小限にとどめ、入室は最小限の人数にする。帽子とマスクは正しく着用する、などの基本的な注意が特に重要である。

室内圧

ドアの開閉により、廊下など外部から不潔な空気が清潔度の高い手術室内に入り込まないよう、室内圧は15Pa以上の陽圧に保たれている。そのため手術室には微差圧ダンパ(レリーフダンパ)が装着されている。例外として、手術室で空気感染予防策を行う場合(結核菌保菌者の手術など)は、手術室内部の汚染された空気が外部に漏れ出ないように室内を陰圧にする。この場合、手術終了後も一定期間(通常1時間程度)換気が行われる。

換気

手術室では、清潔な環境を保つため、一定の換気回数が推奨されている。換気により室内の空気がHEPAフィルタを介した清潔な空気と入れ替わるため、換気すればするほど室内の清潔度は上がることになる。通常の手術室では35~45回/時が、バイオクリーン手術室では120~200回/時の換気回数が推奨されている。しかしながら、過度の換気は設備の負担になり、送気による患者体温の低下、室内騒音などが発生する。

温度・湿度

温度管理は患者の体温管理、感染制御などの観点から重要である。一般手術室の温度は22~24~26℃、湿度45~50~60%が推奨されている。心臓外科手術の場合は代謝を制御するために室温はやや低く、逆に小児新生児が関与する手術ではやや高く設定することが好ましいとされているが、絶対的な基準ではない。

明るさ

手術室では、天井からの間接照明に、直接照明として無影灯が使用される。日本医療福祉設備協会の基準では、手術室は医療スタッフ側の作業的要素の強い「診療・検査部門」に分類され、医療スタッフの作業効率を高める設定となっている。わが国では、手術室は全般で1,000ルクス(lx)、術野は10,000~100,000ルクスが推奨されており、これは一般病室の100ルクス、枕元300ルクスに比べるとはるかに明るい基準である。腹腔鏡下手術などでは、術野の視認性を保つため、室内の照明は暗くして腹壁外部からの光を抑制する。また、最近、無影灯や天井照明の蛍光灯にLEDが使用される傾向にあるが、LED光は青色系統の光を含み術野の赤色の再現性が低いことが指摘されている。

広さ

わが国には手術室の適切な広さに関して、確立された基準はない。手術室は広ければよいとの錯覚を起こしやすいが、広すぎる手術室は未使用部分の清潔度管理が不十分となりやすいことには注意が必要である。米国建築学会は、一般的な手術では最低37.16m2が必要で、心臓手術、整形外科手術、脳神経外科手術(多くの機器を要する手術)では少なくとも約55.74m2が必要としている。ただし、手術室の必要な広さは、術式や手術で使用される機器とともに変遷していくものであり、この基準ではCTMRIを設置した特殊な手術室は想定されていない。

手術用手洗いの給水

手術室で使用する手洗い水は、かつては滅菌水が使用されていたが、現在は、適切に管理された水道水でよいとされている。管理された水道水とは水道法で「遊里残留塩素濃度0.1mg/L以上、1mLの検水で形成される一般細菌集落数が100以下で、大腸菌が検出されない」水であるが、ここではエンドトキシンなどは管理の対象となっていない。また、水道水でよいとする基準は、必ずしも手洗いで用いるシンク蛇口の清潔を意味するものではない[5]


  1. ^ 厚生労働省「医療施設調査 病院報告」から矢野経済研究所が推計。[1]p.12
  2. ^ a b c 近藤誠『医原病-「医療信仰」が病気をつくりだしている』講談社2000年, ISBN 4062720507 p.88
  3. ^ 手術医療の実践ガイドライン 第8章 - 日本手術医学会
  4. ^ a b c 『手術室の中は闇』p.22-40
  5. ^ 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行) (2016年8月10日発行). 周術期管理チームテキスト 第3版. 日本麻酔科学会 


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