夜這い 民俗学の研究

夜這い

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/16 09:43 UTC 版)

民俗学の研究

赤松啓介の『夜這いの民俗学』(1994年)によると、夜這いについては、時代や地域、各社会層により多様な状況であり、共同体(ムラ)ごとの掟に従う必要はあったが、夜這い相手の選択や、または女性側からの拒絶[16]など、性的には自由であり[17]、祭りともなれば堂の中で多人数による「ザコネ」が行われ、隠すでもなく恥じるでもなく、奔放に性行為が行われていた[18]。ただし、その共同体の掟に従わねば、制裁が行われることもあった[19]。赤松によれば戦争その他などで男の数が女に比して少なかったことからも、この風習が重宝された可能性があるという[20]

また明治以降、夜這いの風習が廃れたことを、夜這いと言う経済に寄与しない風俗を廃して、各種性風俗産業に目を向けさせ、税収を確保しようとする政府の意図が有ったのではないか、としている[21]

なお、日本の共同体においては、少女は初潮を迎えた13歳、または陰毛の生えそろった15 - 16歳から夜這いの対象とされる(ただし、婚姻中は対象外となる場合もある。この辺りは共同体により様々である)[22]。その際に儀式として性交が行われた[23]。少年は13歳でフンドシ祝いが行われ、13歳または15歳で若衆となるが、そのいずれかの時に、年上の女性[注 5]から性交を教わるのが儀式である。その後は夜這いで夜の生活の鍛練を積む[25]

赤松は明治42年(1909年)兵庫県の出身であるが[注 6]、この当時はまだフンドシ祝いが残っていたと言う[27]。適当な相手が見つからない場合、実父や実母がその相手を務める場合もあった[28]。日本の共同体では夜這いの前に以上の如くの性教育が行われた。ちなみにこの様な次第であると当然、赤ん坊が誰の子であるのかよく解らない、などと言った例がよく見られたが、共同体の一員として、あまり気にすることなく育てられた[29]

柳田國男は「淫風陋習」とした[30]

服部英雄は現地調査について以下のように述べている。「むかしの若者の暮らしについて聞く項目もある。話が弾んでいたら、若者の恋についても尋ねてみようとなっている。案外にヨバイの経験者が多い。この手のはなしはふつうは男性のみがいる場での武勇伝になるのだが、ある学生は老夫婦が一緒にいる場でその話を聞いた。「そがんな話、初めて聞く」奥さんも知らない話が聞けた。 とかく興味本位に語られているが、若者の恋に今も昔もない。ヨバイはふつうの恋愛だった。」[31]


注釈

  1. ^ 「日本で」一般的に行われていたという見方[6]と、房総以西の太平洋側の地域、伊豆、知多半島、渥美半島、瀬戸内、九州などでより盛んに行われていた習俗であるという説(八木透によれば、地域差や県民性があるという)がある[7]
  2. ^ 柳田國男によれば「正常な求婚手段ないし婚姻生活を表す代表的な婚姻語」で、飯島吉晴によれば「男女が自主的にパートナーを選ぶことができる、自由恋愛のためのシステム」[要出典]
  3. ^ たとえば現在の愛知県や熊本県、相模や信州、丹後にあった[要出典]
  4. ^ 福井県や京都府沿岸部、山口県の見島、愛知県の一部にあったとする[11]
  5. ^ 赤松啓介『夜這いの民族学』(明石書店、1994年) では、娘、嫁にとどまらず、後家、嬶(カカァ)、ババァなどの表現もあり、少年同士が互いの母親の「味」について語り合う事例や、娘が母親の夜の相手を引っ張り込む様な事例も紹介されている[24]
  6. ^ 赤松啓介は、『夜這いの民族学』(明石書店、1994年)において、自身の出身地と非常に近い土地を出身地としている柳田國男が夜這いについて知らないわけはなく、この風習について多くを著していないことについて、何らかの思想的・政治的理由によりこれに触れたくなかったのではないか、などと、柳田を批判している[26]

出典

  1. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典、百科事典マイペディア. “よばい”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年3月16日閲覧。
  2. ^ a b 赤松 2004, p. 不明.
  3. ^ 夜這い/婚い(よばい)の意味”. goo国語辞書. 2020年11月5日閲覧。
  4. ^ 下川 2011, p. 90.
  5. ^ 小学館 2011, p. 13.
  6. ^ a b 小学館 2011, p. 14.
  7. ^ 小学館 2011, pp. 161–163.
  8. ^ 赤松 2004, pp. 315–326.
  9. ^ 赤松 1994, pp. 37–42.
  10. ^ 小学館 2011, p. 162.
  11. ^ a b 『民俗の事典』 岩崎美術社、1972年、81頁。
  12. ^ 赤松 1994, p. 35.
  13. ^ 下川 2011, p. 93.
  14. ^ a b 小学館 2011, p. 15.
  15. ^ a b 小学館 2011, p. 165.
  16. ^ 赤松 1994, p. 30.
  17. ^ 小学館 2011, pp. 16–20.
  18. ^ 赤松 1994, pp. 116–122.
  19. ^ 赤松 1994, p. 93.
  20. ^ 赤松 1994, pp. 89–90.
  21. ^ 赤松 1994, pp. 84–86.
  22. ^ 赤松 1994, pp. 28, 48, 92.
  23. ^ 赤松 1994, pp. 65–66.
  24. ^ 赤松 1994, pp. 3–4.
  25. ^ 赤松 1994, pp. 60–61.
  26. ^ 赤松 1994, pp. 33–34.
  27. ^ 赤松 1994, p. 62.
  28. ^ 赤松 1994, p. 66.
  29. ^ 赤松 1994, pp. 32, 76.
  30. ^ 小学館 2011, p. 17.
  31. ^ 服部 2000, p. 223.


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