仮名手本忠臣蔵 八段目・道行旅路の嫁入

仮名手本忠臣蔵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/19 03:03 UTC 版)

八段目・道行旅路の嫁入

あらすじ(八段目)

「忠臣蔵 八段目」 戸無瀬と小浪は京山科に居る力弥のもとへと、東海道を歩いて向う。広重画。

道行旅路の嫁入〈みちゆきたびじのよめいり〉)由良助のせがれ力弥と加古川本蔵の娘小浪はいいなづけであったが、塩冶の家がお取り潰しになったことにより、その婚儀も本来流れるはずであった。力弥と添い遂げられないことを悲しむ娘を見て、母の戸無瀬はこの上は改めて娘小浪を力弥の嫁にしてもらおうと、供も連れずに母娘ふたりで、鎌倉から由良助たちのいる京の山科へと向う。

⇒(九段目あらすじ

解説(八段目)

加古川本蔵の妻戸無瀬と小波の母娘が嫁入の決意を胸に、二人きりで山科へと東海道を下る様子を見せる所作事である。その浄瑠璃の詞章には東海道の名所が織りこまれ、旅情をさそう。道具(背景)も旅程に合せて次々転換させたり、奴をからませるなどの演出がある。浄瑠璃の文句も東海道の名所旧跡を織り込み、許婚のもとに急ぐ親子の浮き浮きした気分を表す。立女形と若女形が共演する全段中最も明るい場面で、これが九段目の悲劇と好対照をなす。「八段目の道行は、九段目に続ける気持で踊れ」とは六代目中村歌右衛門の言葉である。しかし現行の歌舞伎では三段目の増補である『道行旅路の花聟』ばかりが上演され、この本来の内容である「道行旅路の嫁入」は近年の通し上演が七段目までしか出ないこともあり、ほとんど上演されることがない。

さて江戸では、義太夫狂言の道行は豊後節系の浄瑠璃で演じられるのが例であった。この八段目「道行旅路の嫁入」もその例に漏れず、曲を常磐津清元にして上演されているが、その内容は『義経千本桜』四段目の「道行初音旅」と同様、原作の内容を増補している。たとえば『日本戯曲全集』に収録される清元所作事の『道行旅路の嫁入』(天保元年〈1830年〉4月、市村座)は、最初に原作どおり戸無瀬と小浪が出て所作があり引っ込むと、そのあとさらにお伊勢参りの喜之助と女商人のおかなというのが出てきて所作事となる。しかも肝心の戸無瀬と小浪は、子役に踊らせるという趣向であった。

ほかには文政5年(1822年)3月、中村座で八段目に常磐津を地にした『旅路の嫁入』が上演されている。このときは戸無瀬と小浪のほかに、それに従う供として関助と可内(べくない)という奴、そして女馬子のお六というのが出てくる。内容は戸無瀬と小浪が関助も交えての所作のあと、関助が悪心を起こし可内から路銀を奪おうとするのを、馬子のお六が可内に味方して立回りとなるといったものである。このときは三代目坂東三津五郎が戸無瀬と可内の二役、小浪とお六が五代目瀬川菊之丞、関助が中村傳九郎であった。この常磐津の曲は『其儘旅路の嫁入』(そのままにたびじのよめいり)と称し今に残っている。


  1. ^ 『近世邦楽年表 義太夫節之部』(六合館、1927年)106頁[1]など。
  2. ^ 松島(1964) p156
  3. ^ 赤間亮「最初の赤穂義士劇に関する憶説」。なおこれ以前に『東山栄華舞台』という赤穂事件を当て込んだ芝居が江戸で上演されたといわれているが、その真偽については確認されていない。また元禄16年10月に竹本座で上演されたという浄瑠璃『傾城八花形』も、その内容が赤穂事件に関わりがあるといわれるが、実際には赤穂城明け渡しなどをほのめかす記述がわずかにあるばかりで、赤穂事件を題材とした作とはいえない(『浄瑠璃集』(1985)『傾城八花形』解説)。
  4. ^ 師守記』暦応4年3月29日条ほか。『大日本史料』第六編之六参照[2]
  5. ^ 『国史大辞典』第五巻(吉川弘文館、1997年)486頁。
  6. ^ 内山美樹子「仮名手本忠臣蔵の作者」(『国文学 解釈と教材の研究』12月号第31巻15号所収、63-64頁)。
  7. ^ 『偽りの民主主義 GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史』(浜野保樹 角川書店、2008年)122頁。
  8. ^ 『昭和ニュース事典』第8巻(昭和17年/昭和20年 毎日コミュニケーションズ、1994年)本編15頁(「忠臣蔵」などノー、総司令部が指導 昭和20年12月12日朝日新聞)、『偽りの民主主義 GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史』(浜野保樹 角川書店、2008年)84頁。
  9. ^ 史実の吉良氏と高氏の関係に触れた論文としては、谷口雄太「中世における吉良氏と高氏」(初出:『新編西尾市史研究』2号(2016年)/所収:谷口『中世足利氏の血統と権威』 吉川弘文館、2019年)がある。
  10. ^ たとえば、松島(1964) p159






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