ヘンリー・カットナーのクトゥルフ神話
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6:ヒュドラ
WT1939年4月号に掲載された。ヒュドラとアザトースの話であり、さらにファロールへの言及がある。
7:恐怖の鐘
『恐怖の鐘』(きょうふのかね、原題:英: Bells of Horror)は、SS1939年4月号に掲載された。
カットナーの地元カリフォルニアが舞台となっており、キリスト教とインディオの抗争にクトゥルフ神話を絡めている。カットナーが創造した文献「イオドの書」の初出作品でもある。
東雅夫は「邪悪なる鐘の音によって召喚され、地上に災厄をもたらす地底の魔物<ズ・チェ・クォン>の恐怖を描く。聴覚に特化した怪異描写がユニークだ」と解説している[1]。
6あらすじ
18世紀後半、カリフォルニアでは、白人のキリスト教会と土着のインディオが争っていた。サン・ザヴィエル伝道本部が鋳造した3つの鐘に、ムツネ族のシャーマンが呪いをかける。白人たちが鐘を吊るして鳴らしたところ、地の底から邪悪な魔物が召喚されて災厄をくり出す。生き残った白人たちは鐘を取り外して洞窟に埋める。宣教師セラ・フニペロは、スペインへの帰還を願うも果たされず、死んで埋葬される。真実を知らない者たちは、隠された鐘について疑問を抱き、鐘の音は伝説として語り継がれる。
150年を経て、カリフォルニア歴史協会のトッド会長とデントンが3つの鐘を発掘する。トッドは秘書ロスに連絡し、道案内の少年を遣わす。だがガイド少年は怯えながら案内を渋り、ロスは道順を聞いて単身で現地へと向かう。道中の峡谷でロスは「蟾蜍(ひきがえる)が、自ら目を岩に押し付けて潰している」という異様な光景を目撃し、己もまた目に疼痛を覚える。
鐘を発掘したトッドとデントンの両目は充血して痛み、また作業員の1人は突然発狂して自分の眼球をえぐり取って走り去る。彼は山道を登るロスと出合い頭に、勢いのまま木にぶつかり息絶える。ロスは作業員を追ってきたトッドとデントンから説明を聞く。さらに別の作業員も暴走し、血迷った怪力で鐘を釣り上げ、あげく力尽きて墜落してきた鐘に首を切断されて死ぬ。不可解な事件が起きたものの、鐘は回収され、取り付けて鳴らすことも決定する。眼病や作業員の発狂死については、鐘についていた黴菌にでも感染したのだろうと結論付けられる。
宣教師セラの文書には、魔物ズ・チェ・クォンと鐘のことが記されていた。気になったデントンは、ハンティントン図書館で「イオドの書」を調べ、ズ・チェ・クォン(ズシャコン)について調べるが、本は検閲を受けて削除がされていたため、詳細がわからなかった。トッドは迷信だろうと言うが、そのとき鐘が鳴らされ、異常な冷気や地震が発生し、3人は異変に気付く。
3人は突然目が見えなくなり、闇に包まれる。鐘を鳴らすと闇がもたらされ、さらに地震によって鐘は鳴り続けるということを、3人は理解し、止めるべく行動を開始する。しかし「自分の目を抉り出したい」という狂った衝動が沸き起こり、3人は苦しむ。デントンの先導により、3人は盲目状態で伝道本部にたどり着く。操られたトッドが2人の目をえぐろうと襲い掛かって来るが、ロスが防戦し、デントンは3つの鐘の音の組み合わせを狂わせようとする。3人は負傷しつつ、音を止めることに成功する。鐘を破壊したことには抗議の声が上がったが、3人は鐘を壊したからこそ世界は破滅から救われたのである。
2ヵ月後に日食が起こり、ロスは目がむずがゆいと感じる。トッドから電話を受けたロスはトッドの家に向かうが、到着したときにはトッドは自分の両目をえぐった後に拳銃で自殺していた。ひとたび召喚された魔物は、そう簡単には眠りにつかないのかもしれないと、ロスは次の日食に何が起こるのかを恐れつつ、物語を締めくくる。
7主な登場人物・用語
- ロス - 語り手。カリフォルニア歴史協会の秘書。ロス・アンジェルス在住。
- アーサー・トッド - カリフォルニア歴史協会の会長。精力的な学者。
- デントン - トッドの助手。長身でたくましい体つきの男。記憶力と方向感覚に優れる。
- ホセ、サルト - メキシコ人の作業員たち。発狂して怪死を遂げる。
- サラ・フニペロ - 1775年に没したスペイン人宣教師。鐘の災厄に襲われたが生き残り、鐘を封印した。
- ムツネ族 - 邪悪なインディオ部族。キリスト教会の鐘に呪いをかけた。
- 「暗き沈黙のもの」 - ムツネ族は「ズ・チェ・クォン」と呼び、イオドの書には「ズシャコン」として記される。地の底から特定の呪術で召喚されるほか、食のときに現れることもある。寒気や闇をもたらしつつ、精神に干渉して「目など要らない、闇は素晴らしいぞ」と誘惑する。
- 「イオドの書」 - 原本が一部のみ現存すると伝わるが所在不明。ジョウハン・ニーガスが翻訳した削除版が、ハンティントン図書館に収蔵されている。同名の神格イオドとの関連は明らかではない。
7収録
- クト13、東谷真知子訳
7関連作品
- 深淵への降下 - カーターの神話作品。ズシャコンが登場する。ほかにも、カットナー神話はカーターに取り込まれている。
- ウスノールの亡霊 - ローレンス・J・コーンフォードの神話作品。イオドの書が登場する。
8:狩りたてるもの
『狩りたてるもの』(かりたてるもの、原題:英: The Hunt)は、SS1939年6月号に掲載された。
長らく言及されていたイオドがついに登場する。舞台である「修道士の谷」は『蛙』でも登場している。
東雅夫は「カットナーの独創による神格イオドの恐怖をなまなましく描いた一編。悪夢を経由して襲来する異次元生物という着想が光る。また、マッケン『黒い石印』との関連が仄めかされている点にも注目したい」[6]、「ダーレス神話とは別種の神話大系が想定されている点で、おおいに興味深い作品である」[4]などと解説している。
8あらすじ
古代の魔術師達は、イオドを召喚する方法と、自衛する予防策を確立させる。イオドはギリシャ人やエトルリア人にも信仰され、「妖蛆の秘密」にも記録される。
20世紀。資産家のアンドリアス・ベンスンが亡くなり、孫のウィル・ベンスンとそのいとこであるアルヴィン・ドイルに遺産が残される。遺産の独占を考えたアルヴィンは、人里離れた峡谷の小屋で隠遁生活を送るウィルのもとを訪ねる。祖父の死やアルヴィンの殺意を知らないウィルは、訪問してきたアルヴィンに対し「長年研究してきた神イオドを召喚する実験の最中であり、中止もできない」と言い、イオドは「生命力だけを奪い意識は残す」ことを説明する。
いとこを射殺したアルヴィンは、車で逃走中に強力な眠気に襲われる。停車させて仮眠に入ると、次々に切り替わる悪夢の中、おぞましい触手を備えた怪物がアルヴィンを追跡してくる[注 4]。ついに触手がアルヴィンの脳に迫り、生命を吸い取られたアルヴィンは意識を失う。再びアルヴィンが目覚めたとき、体が全く動かなかった。アルヴィンは生きていることを主張しようとするが、それに気づかない周囲の者はただの死体として扱い、アルヴィンは意識を保ったまま葬られた。
8登場人物
- アンドリアス・ベンスン - 老資産家。遺産を残して死去する。
- アルヴィン・ドイル - 主人公。遺産の第二相続人。従兄のウィルとは20年間会っておらず、彼を殺して祖父の財産を独占しようとする。
- ウィル・ベンスン - 遺産の第一相続人。いにしえの魔術を、科学とみなしている。隠遁先でイオド召喚実験の最中に従弟のアルヴィンに殺される。
- イオド - <魂を狩りたてるもの>と異名される神。狙いをつけた人間をどこまでも追跡し、魂=生命力を奪い取る。
8収録
- クト11、東谷真知子訳
8関連作品
- 黒い石印 - 「イシャクシャール」の元ネタ。
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