ヘンリー・カットナーのクトゥルフ神話 3:暗黒の口づけ

ヘンリー・カットナーのクトゥルフ神話

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/29 14:12 UTC 版)

3:暗黒の口づけ

ロバート・ブロックとの共作。お互いの分担の度合は不明である。WT1937年6月号に掲載された。マイケル・リーが登場する。

4:蛙

』(かえる、原題:: The Frog)は、WT1939年2月号に掲載された。

狩りたてるもの』と同じく「修道士の谷」を舞台とする。東雅夫は「『ダニッチの怪』の化け蛙版」と表現した[1]

4あらすじ

かつて「修道士の谷」の北の沼では魔女たちが忌まわしい妖術を行った。沼の怪物の落とし子と呼ばれた魔女パースィスは、池に沈められて殺され、墓は魔力を帯びた石で蓋をされた。だが、パースィスは死に際に呪いを残したとされ、幾つもの奇怪な噂があった。池からぬるぬるした緑色の姿になって浮かび上がり異教の神に祈ったとも、北の沼から父親がやって来たとも、墓の中で父と同じ姿に変質したとも言われ、今となっては真相は誰もわからず、迷信だけが語り継がれている。

20世紀、ニューヨークから画家ノーマン・ハートリイが引っ越してくる。ハートリイは村から2マイル離れた一軒家を借りる。その家こそ、かつてパースィスが住んでいた「魔女の家」であったが、ハートリイは迷信を信じなかった。審美眼を誇るハートリイにしてみれば、家の庭にある「魔女の石」が目障りであり、どかして捨てる。管理人のダブスンは魔女の墓から封印の石が取り除かれたことに蒼褪め、石には封印の文字が記してあることを説明するも、ハートリイはくだらないと一蹴する。

夜、ハートリイは自宅で怪物を目撃する。逃げると化物は追ってくる。我を忘れ、ひたすらに助けを求めて村まで走っていく。またハートリイの逃走劇と時を同じくして、近所の農家で惨殺事件が起こる。翌朝ハートリイが村人に連れられて家に帰ると、花壇が踏み荒らされて穴が開いており、ダブスンの喰い荒らされた無惨な死体が、悪臭を放つ粘液にまみれて横たわっており、「巨大な蛙のような足跡」も発見される。村人たちは銃で武装して、化物だと言う。だがハートリイは見当違いにも合理的に説明できると信じ込み、「肉食の動物だ」「雑種のフリークスだ」などと言い張る。もはや正気を最後の防壁にしているだけでしかなかった。

夜になり、大勢の男達が銃を構えて警備を行う。午前2時、村から離れたハイウェイにあるガソリンスタンドの店主から「何者かが襲って来た。窓が破られそう。助けてくれ」と電話で通報があった。電話の直後、ガソリンスタンドは炎上する。現場に駆け付けた男たちは「異様な姿をした巨体のもの」が炎の中から飛び出してくるのを目撃し、銃弾を浴びせたが逃してしまう。

ハートリイは村のリゲットの家に泊まっていた。化物が襲撃してきて、なんとか助かったが、化物に狙われていることが判明する。リゲットはハートリイを餌にしておびき出すことを提案する。だがその直後、化物が再び襲いかかって来て、リゲットを殺してハートリイに襲い掛かる。逃げるハートリイは、追われながら特定の場所に誘導されていることを察する。ハートリイは拳銃で応戦し、追ってきた2台の自動車からも化物に銃弾が放たれる。化物は泥と流砂に足を取られ、さらに体中に穴を開けられたことでダメージを負い、黒い体液を流しながら沈んでいく。最後に呪いの言葉を残した後、北の沼には再び静寂が訪れる。

4登場人物

  • ノーマン・ハートリイ - 画家。魔女の家に引っ越してきた。都会生まれで迷信を信じない。
  • ダブスン - 義足の老人。ノーマンが借りた家の管理人。
  • パースィス・ウィンスラップ - 魔女。殺された後に、墓には封印がされていた。
  • バイラム・リゲット - 村人。
  • 化物 - インディアンが太古に崇拝していた魔物。蛙じみた生物。パースィスの父親らしい。

4収録

  • クト11、岩村光博訳

5:侵入者

侵入者(触手、原題:: The Invaders)は、SS1939年2月号に掲載された。

20世紀パートと、ヘイワードが書き留めた古代ムー大陸描写の2パートで構成される。20世紀パートの舞台であるカリフォルニア州は、カットナーの地元である。主役神はカットナーが創造した神格「ヴォルヴァドス」、敵役は正体不明の異次元からの侵入者(触手)。本作はヴォルヴァドスの初出作品ではないが具体的に描写されており、初出作品『The Eater of Souls』は日本語に翻訳されておらず(私家版はある)またほぼ名前だけの登場にとどまっている。

東雅夫は「特色があり、ラヴクラフト‐ダーレス路線とは異なる独自色を出している点で珍重すべきものとなっている」[1]、「ダーレス神話とは別種の神話大系が想定されている点で、おおいに興味深い作品である」[4]などと解説している。

ラヴクラフトのムー大陸の設定を継承している。具体的には『永劫より』『墳丘の怪』の2作だが、後者は正式に発表されたのが1940年なので、1939年に発表された本作への影響度合が不明瞭である(発表前に、手紙で伝えていた可能性がある)。クトゥルフ神話作品としては、先述のように、ラヴクラフトともダーレスとも、重複しつつ、別物でもある。そのため、後続作品や事典にて別人が諸設定を統合しようとしたものでは、ヴォルヴァドスの位置づけなどに解釈が加わっている。

時間遡行薬に関連して「ナコト五芒星形」というアイテムが登場する。作中では詳細な説明はないが、後にナコト写本および、時間を超えるイースの大いなる種族に結びつけられる[5]

5あらすじ

ムー大陸の人類は、クトゥルフ[注 2]イグ、イオド、ヴォルヴァドスなどの神々を崇拝していた。そこに宇宙の別の次元から、侵略者達が来訪する。彼らは死にゆく故郷を捨て、地球の先住生物を一掃して自分たちの都市を築こうとする。侵入者達と人類の間で抗争が勃発し、人類に友好的な神々は敵を迎え撃つ。その戦争を最前線で戦ったのがヴォルヴァドスと神官達であった。

時は流れ20世紀。怪奇作家ヘイワードは、禁断の文献の知識から作った「時間遡行薬」を服用し、前世の記憶を見て小説を執筆していた。文献には予防措置が書かれていたが、薬の効果を優先するあまり自衛を疎かにしたヘイワードは、ある日、太古の魔物を呼び出してしまう。身の周りに異形の生物達が現れるようになってから2日が経ち、恐怖したヘイワードは、友人2人に助けを求める。

連絡を受けたビルとジーンは、カリフォルニア州サンタ・バーバラ郊外の別荘にいるヘイワードの許へと向かう。深夜2人が別荘に着いたとき、ヘイワードは何かに恐怖し憔悴していた。ふと、窓の外にいた「何か」を、ジーンは妙な植物の蔓かと思うが、はっきり見たビルはパニックに陥る。ヘイワードがスケッチした、悪夢のような触手の生物の絵を見て、ビルは正にそいつだと断言する。ジーンはとても信じられず、錯覚としか思えない一方で、怪音や冷気が確かにある。ビルは自動車で逃げようと言い出すが、ドアを開けて別荘の外に出たとたんに姿を消してしまい、半信半疑だったジーンも深刻さを悟る。浜辺には異次元の戸口が開き、そこには見る影もないほどに変わり果てたビルがいて、彼はさらに変質して粘液と化す。ビルを生贄に得たことで異界の扉が開き、霧や風、冷気といった魔物どもの瘴気が強くなる。

絶体絶命の2人であったが、ジーンの脳裏に攻略のヒントが閃く。ジーンはヘイワードに声をかけ、前世で彼らに勝利した方法を思い出すように説く。怪物がドアを引き裂いた正にそのとき、ヘイワードは大神官の記憶をなぞりヴォルヴァドスの呪文を発する。部屋を異界の闇と冷気が覆い2人を飲み込むが、新たに、<貌>と銀色の靄が出現する。闇と靄は拮抗し合い、部屋であったはずの空間は、太古の景色へと塗り替わり、ジーンとヘイワードは過去の世界を幻視する。巨石造りの都市は、異次元からの侵入者達の世界であり、ヴォルヴァドスは彼らを追い出し戸口を閉ざす。

ジーンとヘイワードは別荘へと戻っていた。ヴォルヴァドスにより侵入者達を撃退することには成功したが、ビルはもう帰ってこない。ヘイワードは薬を海へと投げ捨てる。ジーンは、ヘイワードは二度と過去に戻ることなく、現在と少し未来を生きることになるだろうと、モノローグを締めくくる。

5登場人物

  • ジーン - 語り手。ジャーナル社員。記事に載せてはならないという規則があるゆえに、禁断の文献「妖蛆の秘密」の存在を知っている。
  • ビル・メイスン - ジーンとヘイワードの友人。ヘイワードから連絡を受け、ジーンと2人で彼の別荘に行く。
  • マイケル・ヘイワード - 怪奇作家。ハンティントン図書館の「妖蛆の秘密」の知識で作った薬物を服用し、前世の記憶を見て執筆することで、作品にリアリティを出している。
  • 「侵入者」 - 巨大な一つ目の複眼と口を備え、半透明象牙色の球状の胴体部に、鱗に覆われた触手を生やしている。無数の群れで太古の地球に侵攻し、現代にも複数匹が現れた。
  • ヴォルヴァドス - ムー大陸で人類に崇拝され、異次元からの侵略者達を最前線で迎え撃ち追い払った。<炎を焚きつけるもの>と称され、銀色の靄に覆われた異界的な<貌>として顕現する。
  • 大神官 - ヘイワードの遠い前世。ムー大陸ベル=ヤルナクという場所のヴォルヴァドス教団の大神官。山頂の祭壇で炎を燃やし、儀式を行う。周囲には白い服の神官団<監視するものたち>が控え、敵の侵入を見張る。[注 3]

5収録

  • クト8、三宅初江訳「侵入者」
  • 真ク3&新ク3、小林勇次訳「触手」

5関連作品







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