タマネギ 歴史

タマネギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/26 05:03 UTC 版)

歴史

タマネギは、現存する最古の栽培植物の一つとされる。狩猟採集社会から農耕社会へ移行するに伴い、人類が野生のものをで栽培し、生長が早く鱗茎が大きい交配するうちに、現在栽培されている大きくて甘い鱗茎を持つタマネギに近いものになっていったと考えられている[14]

原産は中央アジアとされるが、野生種は発見されていない。原産地はペルシア(イラン)やベルチスタン(バルーチスターン)あたりともいわれるが、はっきりしていない[5]。中央アジアから商人によって中東に持ち込まれ、そこから世界中に一気に広まっていった[2]

1547年に描かれた玉ねぎの木版画

栽培の歴史は古く、紀元前1600年ごろの古代メソポタミアバビロン第1王朝時代に書かれたエール・バビロニアン・タブレットと呼ばれる粘土板楔形文字で書かれた古代レシピの中に、タマネギが数多く登場する[15]。紀元前の古代エジプト王朝時代にもタマネギは食されており、紀元前5世紀ごろからパンビールとともにタマネギを食べる労働者が描かれている壁画や、紀元前3世紀ごろにはエジプトのピラミッド建設に従事した労働者に配給されていたという記録が見つかっている[16]。ヨーロッパの地中海沿岸に伝わったタマネギは、古代ギリシア人や古代ローマ人にもニンニクとともに愛好されており、大プリニウスは『博物誌』のなかで様々な種類のタマネギについて詳述している[17]。ローマ人は、多くの料理の風味づけにタマネギを好んで使い、旅先にも持って行ったため、北ヨーロッパにも広まっていった[8]古代中国で編纂された儒教の経典『礼記』には、当時の中国の配膳に欠かせない食材になっていたことを伺わせる記述が残されている[18]。しかし、4世紀の道教では「においの強い野菜」の使用を禁じ、タマネギもその中の一種に含まれていた[19]。古代中国においてタマネギは、に極めて有害で、攻撃性や性衝動を増大させるとも考えられていたため、の時代にはニンニクとともに赤い紐で軒先に吊して虫除けとして使われていた[19]

ローマ帝国滅亡後の西暦800年ごろ、領土を拡大していたフランク王国カール大帝は、帝国の庭園で90種類の野菜や果樹を栽培するよう勅令を出した。この中にタマネギをはじめとするネギ属野菜が含まれており、修道院寺院などの大きな菜園で栽培され、中世前期のこの時代にはヨーロッパに定着していたとみられている[20]中世ヨーロッパで最も馴染みのある野菜の一つだったタマネギは、栽培が容易で冷蔵技術がない時代でも保存が効き、可食部も多くて、さらにはや低温にかなり強く、南ヨーロッパはもとより北ヨーロッパイギリスでも栽培可能であったために好都合で、庶民のあいだでも大変に愛好されていた[21]。しかし、中世ヨーロッパでは食材にも階級意識があり、安価で手に入りやすい野菜としてあらゆる階級の人々が利用したために、タマネギが卑しい食べ物とみなされることもあった[22]

新世界には、1492年にコロンブスが栽培品種のタマネギをカリブ海イスパニョーラ島(現在のハイチドミニカ共和国)に持ち込んだといわれている[23]。16世紀には様々な外国産品種のタマネギがヨーロッパ中で売買されていて[24]、17世紀ごろのヨーロッパ人開拓者が、南北アメリカ大陸を植民地にして移住するときにも持ち込まれた[25]

18世紀から19世紀にかけて、ヨーロッパではイギリスの農業革命を起点に農業が飛躍的発展を遂げた。品種改良の新たな科学的アプローチの結果、タマネギも原種より栽培しやすく、成長が早くて鱗茎が大きく、味もよく保存が効き、耐病性がある膨大な数の品種が開発された[26]東ヨーロッパバルカン半島諸国やルーマニア)では辛味の強い辛タマネギ群が、南ヨーロッパ(フランスの一部地域、スペインイタリア)では辛味の少ない甘タマネギ群が作られた。しかし、ヴィクトリア時代のイギリスやフランスでは、タマネギは貧しい階級や農民の食べ物であり続け、アイルランド大飢饉の際には、貧困者救済のために供されたスープシチューなどのかさ上げにタマネギが使われた[27]アメリカ合衆国でも南北戦争を前後する時代に、安価な玉ねぎが普及している[28]。世界の相当な部分を自国の領土として植民地を広げていった大英帝国は、自国の伝統料理やカレーを持ち込み、タマネギを世界各地に広めることにも一役買った[29]

日本では江戸時代まで外国との交流を厳しく制限したことから、中央アジアとヨーロッパが品種のタマネギは、19世紀後半まで一般的な食材にはならなかった[30]。江戸時代末期[5]長崎に伝わったが、観賞用に留まった。食用としては、1871年(明治4年)に北海道札幌で試験栽培されたのが最初とされ、1878年(明治11年)、札幌農学校教官のブルックスにより本格的な栽培が始まった。その後の1880年(明治13年)に、札幌の中村磯吉が農家として初めて栽培を行った。1885年(明治18年)ごろから野菜として栽培されるようになったと考えられている[5]。明治時代以降、西洋料理の人気の高まりを追い風に、日本の気候にも適していたタマネギは人気が出て生産高も増え、1900年代初頭までには昔から食べられていた里芋と同じくらいの値段に下がった[31]


注釈

  1. ^ 日本では、生食用に軟白栽培されたラッキョウが「エシャット」や「エシャロット」の名で呼ばれている[34]
  2. ^ 遺伝子に欠損があるため、花粉ができない状態[37]
  3. ^ 庫内の温度と空気成分の調整によって、青果物の呼吸を最小限に抑え、鮮度の低下を防止するシステム[11]

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium cepa L.” (日本語). BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年7月8日閲覧。
  2. ^ a b c ジェイ 2017, p. 12.
  3. ^ こぐれひでこの食悦画帳/葉タマネギ 玉のままうどんに『読売新聞』夕刊2018年12月8日(2面)。
  4. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 300. https://www.biodiversitylibrary.org/page/358319 
  5. ^ a b c d e f 田中孝治 1995, p. 192.
  6. ^ 「玉ねぎ」はフランス語で?野菜に関するフランス語”. Bibliette(ビブリエット). 2020年7月9日閲覧。
  7. ^ 講談社編 2013, p. 158.
  8. ^ a b ジェイ 2017, p. 34.
  9. ^ 田中孝治 1995, p. 93.
  10. ^ a b c d e f g h i 田中孝治 1995, p. 193.
  11. ^ a b c d e f g h i j k 講談社編 2013, p. 159.
  12. ^ a b c d e ジェイ 2017, p. 13.
  13. ^ 国際連携で挑むタマネギゲノム解読‐経済的に重要な高等植物種の巨大なゲノムを読み解く (PDF) 山口大学(2021年8月20日)2021年9月17日閲覧
  14. ^ ジェイ 2017, pp. 11–12.
  15. ^ ジェイ 2017, pp. 20–21.
  16. ^ ジェイ 2017, p. 23.
  17. ^ ジェイ 2017, p. 26.
  18. ^ ジェイ 2017, p. 39.
  19. ^ a b ジェイ 2017, p. 40.
  20. ^ ジェイ 2017, p. 47.
  21. ^ ジェイ 2017, pp. 47–49.
  22. ^ ジェイ 2017, pp. 51–52.
  23. ^ ジェイ 2017, p. 68.
  24. ^ ジェイ 2017, pp. 65–66.
  25. ^ ジェイ 2017, pp. 66–68.
  26. ^ ジェイ 2017, pp. 95–98.
  27. ^ ジェイ 2017, pp. 105–111.
  28. ^ ジェイ 2017, pp. 112–113.
  29. ^ ジェイ 2017, p. 120.
  30. ^ ジェイ 2017, p. 114.
  31. ^ ジェイ 2017, p. 116.
  32. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 講談社編 2013, p. 161.
  33. ^ a b c d e f g 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 30.
  34. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 主婦の友社編 2011, p. 57.
  35. ^ a b c d e f g 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 31.
  36. ^ a b c d e f g h 講談社編 2013, p. 160.
  37. ^ a b c d e ジェイ 2017, p. 135.
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  40. ^ a b c 主婦の友社編 2011, p. 60.
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  43. ^ a b c 主婦の友社編 2011, p. 61.
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  45. ^ a b c d e f g 主婦の友社編 2011, p. 56.
  46. ^ 十時亨『フランス料理の基本』新星出版社 2005年
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  49. ^ 長谷川香料株式会社 『香料の科学』講談社、2013年、93頁。ISBN 978-4-06-154379-9 
  50. ^ 塩谷 茂信ほか、「ケルセチン含有タマネギ外皮エキスの血小板凝集抑制作用」、 『日本食品科学工学会誌』2022 年 69 巻 2 号 p. 45-53、DOI:https://doi.org/10.3136/nskkk.69.45
  51. ^ ジェイ 2017, p. 50.
  52. ^ a b ジェイ 2017, p. 70.
  53. ^ ジェイ 2017, p. 79.
  54. ^ ジェイ 2017, p. 82.
  55. ^ 【食べ物 新日本奇行 classic】ラーメンのネギは白か青か いや、タマネギだってある 日本経済新聞社NIKKEI STYLE(2017年4月1日)2018年12月18日閲覧
  56. ^ ジェイ 2017, p. 148.
  57. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  58. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版) (PDF)
  59. ^ 下橋淳子「褐変物質のDPPHラジカル消去能」『駒沢女子大学研究紀要』 37,pp17-22,2004-03-03. NAID 110004678454
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  65. ^ a b c ジェイ 2017, p. 73.
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  70. ^ a b 飼い主のためのペットフード・ガイドライン (PDF) 環境省(2020年4月29日閲覧)






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